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チキチキルンルン



玄関から教室に向かう途中でカンナからチョコをもらい、うっすらと涙を浮かべて喜んでいる鈴木と共に歩く。最後の角を曲がって教室が見えたとき、2人の足が同時に止まった。


「なんだ、あれ?」

「他のクラスの人たち、だね」


俺たちの教室の廊下側の窓や入り口付近に他クラスの生徒たちが群がっているのだ。


「とりあえず行ってみよーぜ」

「そうだね」


と言って一歩踏み出して、また止まった。


「うぎゃああおおおおおおおああああっ!?!?」


え…?


「い、今の声って玉谷…?」

「………死んだか?」

「やめい」


縁起でもないことを言うでない。…でも、たしかに今のは玉谷の断末魔だったような。


ごくりと唾を飲みこんで、戦場に赴くような気持ちで踏み出す。


「おい、あいつらA組だよな?」

「天国かな?地獄かな?」

「いや、チキるかもしれないぞ」


俺たちに気付いた野次馬たちが道を開けつつ、言いたい放題恐ろしいことを言っていく。天国と地獄ってどういうこと?運動会?それに、ちきるってなんだろう。チキチキルンルンの略か?


教室に入ると、さっき聞こえてきた断末魔の主である玉谷が机に突っ伏していた。一目散に玉谷の元に向かった鈴木。


「な、なにがあったんだよ。玉谷」

「………チョコ食ったんだよ」

「はぁぁぁぁん?チョコ食べてなんであんな断末魔が出るんだよ?」

「…」


玉谷は言葉を返す気力もないのか、顔は机に伏したまま、手だけで他の机を指した。まだ主が来ていない机の上には小さな箱が乗っていた。多分、これが玉谷の言っていたチョコなんだろう。


「これね、全員の机の上に置いてあったんだよ。おはよ、智夏君」

「おはよう、香織」


俺より先に教室にいた香織曰く、教室に一番最初に来た女子が見たときには既にチョコの入った小箱が男女関係なく机の上に置いてあったと。それでその女子はなんだか怖くて手を付けなかったが、チョコに飢えた男子が教室に入って早々自分の机の上にチョコを見つけて食べてみたら…


「めっっっっっちゃうまかったんだよ」

「あ、井村。おはよう」

「はよー」

「美味しいチョコを食べて、玉谷はあんな声を出したのかよ?」


鈴木が呆れたように会話に入って来た。その手には机の上に置いてあったであろうチョコが握られていた。それをそのまま包みを解いて口に持っていく。


「それが、半分くらいのチョコは美味しいんだが、残りの半分が…」

「かっ!!!」

「か?」


残りの半分の中身を聞く前に、チョコを食べた鈴木がおかしな声を上げた。


「からーーーーーーーいっ!!」

「辛い?……ってまさか」


自分の机の上にも置いてあったチョコの箱をまじまじと見る。


「そういうこと。半分はめっちゃ美味しいチョコ。そんでもう半分がハズレチョコ」

「誰だよこんなチョコを置いたのは」

「それが誰かわかんねーんだよ」


なにそれ怖い。周囲を見渡すと、チョコを食べているのはほぼ男子である。女子は男子の様子を見て食べるのをためらっているようだ。


「しばちゃんも食べてみたらどうだ?」


どうしたものかと考えていると、珍しく俺より早く教室に来ていた田中がやって来た。


「田中は食べたのか?」

「うまかった」

「くっ…」

「なんで悔しそうなんだよ」


俺の可愛い可愛い妹からチョコをもらっておきながら、今日も美味しいチョコを食べるなんて…!これが悔しがらずにいられるか!


「私も食べてみようかな~。ねぇ、一緒に食べよう?」

「……はい」


女子が食べるって言ってるのに断れるわけないですよねー。ここ最近、幸運続きというか、彼女の部屋の鍵をもらって超ハッピーというか。あぁ、自慢したい。世界中に自慢したい!彼女から部屋の鍵もらいましたよー!!……まぁつまり、運を使い果たしたからハズレチョコを引きそうということだ。


「いっただきま~す」

「いただきます」


香織と同時にチョコを食べる。少し大きめのチョコを口に放り込んで、奥歯で噛み砕く。辛みは…ない。舌に異常もない。


「うまい。多分これ、ラム酒入りのチョコだと思う」


俺は当たりを引いたようだが、香織はどうだろうか。


「香織、味はどうだ?」

「ん~?あじ?にゃはは~」

「「「??」」」


明らかに香織の様子がおかしい。頬が赤くなって、瞳が潤んで、いつも以上にニコニコしている。なにより会話が噛み合っていない。これはまるで…


「もしかして、酔っぱらった?」

「酔っぱらってないよ~もう、智夏きゅんったら~にゃははは」


間違いない、酔っ払いだ!


「うー、酔ってないもん。ばかぁ…」


潤んだ瞳がさらにウルウルとして、今にも涙が零れそうだ。


「ご、ごめん!そうだよな。酔っ払いじゃないよな」

「うん!酔っ払い、違う!わかればいいんですよぉ」

「ちょ、あの、」

「うーん、智夏きゅんはあったかいね~。ぬくぬくだよー」

「ヘルプ!だれかヘェルプ!!」


完全に酔っぱらった香織がコアラのように俺にしがみついてきた。その口からは微かに、俺が食べたのと同じラム酒が香ってきた。


「しばちゃん、保健室連れてってやれよ」

「やーだー」

「わかった。保健室行こう、香織」

「やーだー」

「うんうん、嫌だよねー。ほら、歩ける?」

「抱っこ」

「うん、歩けるね」


こうして朝から酔っ払いの介抱をすることになったのである。



~執筆中BGM紹介~

義母と娘のブルースより「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」歌手:MISIA様 作詞・作曲:GReeeeN様

最近一日一回はこの曲を聞いているんですよね~。大好きだよって言ってくれるからですかね?

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