現れた四人目
皆様、ご迷惑をおかけしました!作者復活!
「テレビ見たぞ~!」
「優勝おめでとう!」
「おっさんに抱き着かれて終わってたの面白かった!」
「BGMすごかったね!」
テレビってすごいな……。さっきから名前も知らない人たちから声を掛けられている。活動名を実名にしたとき以来、というかそれ以上の反応で面食らっている。
仕事のときは狐面で顔をある程度隠しているが、学校ではもちろん狐面はしていない。前髪と眼鏡で顔の上半分は隠れているが、俺が『御子柴智夏』であることはもはや周知の事実だ。
「有名人だな~しばちゃん」
「面白がってない?」
「さぁ?」
教室に着くなり真っすぐ自分の机に座ってへばっていた俺の元へ、珍しく俺より早く来ていた田中がやって来て、その後にクラスメイトが同情のの声をかけてきた。
「御子柴お疲れーっす」
「声かけられまくってたな」
「朝からドンマイ」
「………ありがと」
この教室のメンツは俺の性格を把握しているだけあって、派手に騒ぎ立てたりしないから本当に居心地がいい。
「サインあったらくれよ」
「いつかテレビの密着とかあったら、高校のときの親友って言って俺を紹介してくれてもいいんだぜ」
「あ、俺にもサインくれ~」
「…」
前言撤回。
「サインなんてないよ」
「はぁ!?小学校のときとかに考えなかったのかよ?」
「やっぱ男子ってそういうの考えてる時期があるんだ~」
「え、女子はないの?嘘だろ?」
「私はないかな~」
「私はあるよ~」
「まじで?初耳」
「書いてあげよっか?」
「いらんわ」
なるほど、サインの有無は人それぞれか。
「サインないなら普通に名前書いてくれよ」
「そんなんでいいのか?」
ただのフルネームに果たして需要はあるのだろうか…?そう思いつつも本人がそれを望んでいるのでノートの最後のページに名前を書く。
「御子柴って綺麗な字を書くよな。習字でもやってたのか?」
「習字はやってなかったな」
「人柄じゃね?鈴木と違って御子柴は綺麗なんだよ」
「俺の字が汚いのは認めよう。だが、そこでなぜ俺の人格否定が入る」
「日頃の行いじゃないか?」
「たしかにね~」
「ひどいっ」
いつの間にか俺の前にできていたサインを求める行列をさばきながら鈴木と井村と女子の会話を聞く。
「まぁ、確かに鈴木よりは綺麗だとは思う」
「御子柴。それは字の話だよな?人格の話じゃないよな?」
「………次の人~」
「おい!」
肩をぐらぐらと揺らしてくる鈴木を無視しながらサインを書いていると、可愛らしいデザインのノートが目の前に差し出された。
「香織、おはよう」
「智夏君、おはよう」
「香織ちゃん、俺もいるよ?」
「あ、鈴木君もいたんだ」
「みんなひどいよぅ」
泣きまねをしながら鈴木は、座っていた井村に絡んで行きウザがられていた。
ふぅ、やっと離れた。冬瑚や秋人に抱きつかれるなら喜んで抱きつかれる、いやむしろ抱きつき返すが、男に抱き着かれて喜ぶ趣味は俺には無い。
「私も智夏君のサインが欲しくて並んでたんだ~、へへ」
なんかちょっと緊張するな。しかもこんなに可愛いノートに俺の名前を書くなんて。申し訳ないからイチゴちゃんの絵をサインの横に描いておこーっと。
「あ!それって年末にやってた『みんな大好き!くだものちゃん!』のイチゴちゃんだよね!」
「え~可愛い!御子柴って絵も上手だったね、そういえば」
「私のにも描いて!」
「なになに?わぁ!可愛い」
あ、いい香りがそこかしこから……。最近女子に囲まれることが多いな~はは。
遠い目をしながら注文通りイチゴちゃんやリクエストがあったキャラの絵を描いていく。朝のHRが始まるまで俺はリクエスト通りに絵を描き続けるマシーンと化していたのだった。
放課後。朝と同じくらい知らない人たちから声をかけられながら学校を出て、待ち合わせの場所へと足早に向かう。待ち合わせの人物は俺より前に着いていたようで、遠くからでもその姿が見えた。
「林道!」
昨日、俺のせいで嫌な別れ方をしてしまった林道ときちんと話をしたくて今日こうして時間をもらったのだ。声をかけたところで、林道の横に女性が立っていることに気付いた。目元がどことなく林道に似ているその人は――。
「お久しぶりです、林道さん」
「覚えて、いたのね」
「はい。おぼろげですが」
ピアノコンクールでよく母と話していた女性、彼女は林道のお母さんだ。ただ、記憶している姿よりもだいぶ痩せてしまったようだ。
「どうやら僕が一番最後のようですね」
「「?」」
林道親子が不思議そうな顔をして、現れた四人目を見つめている。
「どうも初めまして。智夏の弟の秋人です」
近所に家があるということで、秋人と林道の家にお邪魔する。小さな庭がある家は、あまり整備はされていないようだった。
促された椅子に座り、林道さん……林道(母)から温かいお茶を受け取る。
「智夏君、そして秋人君。本当に、本当にごめんなさ、」
「はいストップ」
「おい秋人……」
謝罪を止めるのには賛成だけど、もっとこう、他に止め方があったんじゃないか?
ビシッと悲壮感漂う林道親子に待ったをかける秋人。
「お二人からの謝罪は受け取りません」
「そ、それは……」
悲壮顔から絶望顔へみるみると変化していく林道親子に慌てて秋人の足りない言葉の補足を入れる。
「謝罪を受け取らないっていうのは、2人が何も悪くないから、謝罪をする必要はありませんっていう意味でして…!」
冬なのに冷や汗をかいてしまった。秋人くんや、わざとかね、君。言葉が足りないにもほどがあるよ。それ来たら普通、謝罪すら聞きたくないって意味にとられちゃうでしょうが。
咳払いをして、改めて昨日のことを林道――紛らわしいから朔太でいいか――に謝る。
「昨日は、あのまま帰っちゃって本当にごめん。家に帰って、頭が冷えたから、俺の、俺たち家族の想いは、」
「あなたたちには怒ってないし、恨んでないし、謝罪も求めてない!以上!」
ふんす、と満足げにしている秋人を横目で睨む。この不遜な態度は一体誰に似たんだ。冬瑚が真似しちゃったらどうするんだよ。
言いたいことは全て言ったというようにお茶をすする秋人の膝をペシッと叩いてから、涙目の林道親子に向き直る。
「だから、もう、自分たちの人生を生きてください。幸せに、なってください」
この親子の抱える罪悪感が無くなればいい。今まで味わった不幸以上の幸せが訪れることを願わずにはいられない。
「朔太!俺と改めて友達になってくれないか?」
必死に涙をこらえる朔太は、俺の言葉に深く強く頷いた。
~執筆中BGM紹介~
劇場版 ソードアート・オンライン‐オーディナル・スケール‐より「Catch the Moment」歌手・作詞:LiSA様 作曲:田淵智也様
ご心配おかけして大変すみませんでした。体調回復いたしました。いまなら逆立ちで日本一周できそうなくらい元気です。




