表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/467

事実

生放送が終わった所から始まります。話が前後してすみません。



「それではみなさんまた来週~!!」


と司会者の人が無理やり締めくくり、一時間の生放送が終わった。その後、へばりつくAFLOさんをひっぺがし、最初に出会ったときと同じ控室に戻ろうとしたとき、氷雨さんが挑戦者側の人たちの方へ歩き出した。


「あなたたち4人の”春夏秋冬”のBGM、本当に素晴らしかった」


氷雨さんからの、お世辞抜きの心からの賛辞に面食らっていたが、作曲Yeah!Tuberの女性が弱々し気に言った。


「でも、結局プロには勝てなかったですけどね…」

「そうね。あなたたちは私達に負けた、それは事実。そして、審査員の票では勝っていたことも、3割の視聴者があなた達の曲を選んだのもまた事実よ。それをきちんと受け止めなさ……受け止めた方がいいかもしれないわね」


氷雨さんまさか、「受け止めなさい」って言おうとしたのを言い変えたのか?この前佐久間さんから言われたことをきちんと実践しているようだ。


「い、いつか!氷雨さんと、一緒にお仕事できるよう、頑張ります!」


作曲Yeah!Tuberの女性が感動で目を潤ませながら氷雨さんに詰め寄って宣言していた。どうやら氷雨さんは一人の人間の人生を変えてしまったようだ。


「罪な女やなぁ」

「まったくですな」

「人間たらしですね」


佐久間さん、AFLOさん、俺と言いたい放題に言っていく。最初に出会ったときからは考えられないくらいの進歩だ。


あ、そうだ。今を逃したら機会はもうないかも。


「林道。この後ちょっと時間いいか?」

「……うん。俺も、御子柴に話したいことが、あるんだ」


こうして林道と一旦別れて、控室に戻る。そして景品というか、勝ったご褒美の作曲のお仕事についての説明をスタッフから軽く受ける。


「完全オリジナルアニメの作曲をやっていただきます」

「4人で、でありますか?」

「はい」

「それは一体、どういう…?」

「4つの異世界の住人同士が戦うゴリゴリのバトルアニメ『四界(しかい)戦争』。ここにいる4人には、それぞれにそれぞれの異世界のBGMを作ってもらいます!」


同じアニメの中に全然違う世界が4つ存在しているということか。なんだか面白そうだ。それに、またこの4人で一つの作品に携われることが、とても嬉しい。


「嬉しそうね」

「嬉しそうやな」

「嬉しそうでありますな」

「3人揃って表情を読むのはやめてください」


少女漫画でよくあるような、お花でも飛ばしてるんじゃあるまいし、なぜこうも感情を読み取られてしまうのか。


「ねぇ、御子柴くん。記念にさ、狐面を取った素顔見せてくれへん?」

「記念って何の記念ですか」

「お仕事貰えた記念」

「………………わかりました」

「考える時間が長いな」


だって、ねぇ?改まってみんなの前で顔見せるって、恥ずかしいんですわ。


頭の後ろで結んでいた紐をほどいて、鼻から上半分だけの狐面を取る。前髪はサイドに分けてあるので目の色どころか、顔全体が晒されている。


「あら」

「あらあら」

「あらあらあら、ですな」


順に氷雨さん、佐久間さん、AFLOさんである。なぜ近所のおば様のようなリアクション。


「顔の下半分が綺麗だから上も相当やろな~とは思ってたけど、リアル光源氏やったとは」

「リアル光源氏ってことは幼女を将来自分好みの女にするために教育するのかしら?」

「しませんよそんなこと!」

「現代版光源氏は犯罪ですぞ」

「だからしませんってば!」


それから詳しく仕事の話を聞いて、氷雨さん、佐久間さん、AFLOさん達と別れたのだった。





「林道、ごめん。待ったか?」

「いや、俺もいま来たところ」


やだなにこのイイ男。


テレビ局の一階にあるカフェで待ち合わせて、林道と合流した。店員さんにコーヒーを一杯頼み、早速本題に入る。本当は雑談とかして場の雰囲気を和らげた方が良かったのかもしれないけど、今の林道を見ていると、先に本題から聞いた方がいいような気がしたのだ。こういう時の勘は本当によく当たる。


「林道、話ってなんだ?」

「あ……先に御子柴から言ってくれ」

「俺は林道の様子がおかしかったから声をかけただけだよ。だから、林道の話を聞かせてくれないか?」


林道はそれから、口を開いては閉じてを繰り返していた。店員さんが持ってきてくれたコーヒーをすすりながら待っていると、林道が震える声で話し始めた。


「俺、あの日、御子柴にお別れを直接言いたくて、母さんに運転してもらって家に行こうとしてたんだ」

「待ってくれ林道。あの日?お別れ?なんのことだ…?」

「8年前の、夏に海外にピアノ留学しようとしてたんだ」

「8年前……」


ここ数日の間でこんなにも8年前の話題が出るとは。あぁ、嫌だな。この先は、聞きたくない。


「コンビニ近くの交差点で、突っ込んできたトラックに当たって、俺と母さんが乗った車は激しくスピンした」

「…」

「俺が、御子柴の家に行こうとしてなければ…!お前の兄ちゃんは死ななかったかもしれない!俺が…っ、俺の、せいでっ!」

「春彦を、俺の兄を撥ねた車に乗っていたのは、林道だったのか」

「ごめん…っ。謝っても許されないのはわかってる!でも!ごめん、ごめん!」


そんなのお前なにも悪くないじゃん。全部突っ込んできたトラックが悪いんだよ。林道はただ巻き込まれただけ。巻き込まれて、片腕を失って、可哀そうな奴だ。そして、春彦も巻き込まれただけ。あれは不幸な事故だった。


そう言ってやれよ。簡単だろ。それなのになんで俺の口、動かないんだ。


なんでこんなに、胸が苦しいんだ…!


「いまは、冷静になれそうにない。だから、また改めて連絡する」


一方的に席を立って、林道の顔も見ずに代金だけおいて足早にカフェを出る。


夜の街を歩きながら、ぽつりぽつりと言葉が零れ落ちた。


「……ずっと、黙ってくれてれば良かったんだ」


「俺に会うために向かってたって」


「そんなの、俺がいなかったら春彦は死ななかったってことだろ……」





「………はぁーーー。彩歌さんに会いたいな…」





~執筆中BGM紹介~

フルーツバスケットより「Spring Will Come When the Snow Melts Away」作曲:横山克様

リメイク版のフルバの方です。旧版もリメイク版もどっちも好きです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ