勝ったのは
勝敗は今回で決まりますが、「作曲バトル編」はもうちょっと続きます。
俺たちのコメントと、VTRの感想などを司会者やゲストの人たちが言っている間に、視聴者の投票、そして集計が行われる。
ちなみにこの勝負、勝った側には来年放送予定のアニメの作曲の仕事がもらえるそうだ。
4人それぞれに仕事がもらえるのだろうか?それともひとつのアニメに4人で作曲?なわけないか。2人ならまだしも4人で曲を作るとかナイナイ……でも、もしそうだったら嬉しいな。
今から勝った後のことを考えても仕方ない。今は目の前の勝負に集中!頭を切り替えたとき、スタッフが司会者の方に合図を出した。
「どうやら集計結果が出たようです!応募総数が番組史上最多の……」
いよいよ結果が分かるとあってスタジオは緊張感に包まれていたが、一部例外も存在した。
「眠いわ……」
「氷雨はいっつもそればっかやん」
「眠ってるとき以外は眠いのよ」
「一回病院行った方がえぇんちゃう?」
「御子柴氏、またいちごちゃんの絵を描いてくだされ」
「わかりました。チーちゃんに頼まれたんですか?」
「左様であります」
氷雨さんと佐久間さん、そしてAFLOさんと俺で小声でくっちゃべってたら、仲良くなったカメラマンさんにすご~く睨まれた。そしてカメラマンさんの隣にしゃがんでいたスタッフがあらかじめ描いていたであろう文字を見せてきた。
『集中しなさい』
これを見た途端に俺たちは押し黙り、これから発表される集計結果に集中するのだった。……あのカメラマンさんがあの文字を書いたのだろうか。一週間で俺たちの性格を完全に把握している。
「まずは審査員の結果発表です!奥から順に~挑戦者側!挑戦者側!プロ側!プロ側!そして挑戦者側!おっとこれはすごい!挑戦者側が3、プロ側が2、で挑戦者側が有利に立った~!!」
スクリーンに円グラフが映し出され、赤色の挑戦者側が過半数を占め、青色の俺たちプロ側が劣勢なのが一目でわかる。
おー。まだ勝負に負けたわけじゃないけどすっげぇ悔しい。悔しすぎて佐久間さんの顔がとんでもないことになってる。テレビで放送できない顔だ、これ。
「それでは視聴者のみなさんの投票結果を発表します!!」
じゃん、じゃらららららららららら~…じゃじゃん!
スクリーンに映っていた円グラフの赤と青の割合が動いていき、止まった。
「アニメBGM作曲対決、勝ったのは大差でプロ側!!!」
スクリーンの円グラフは7割近くが青色になっている。
パッと眩しいくらいのスッポトライトが俺たちに降り注ぎ、上からひらひらと紙吹雪が舞い落ちた。
「おめでとうございまーーす!!……あれ、みなさん反応が薄いですね?もしかして勝つのはわかってた感じですか?」
「えぇ、もちろん」
ひ、氷雨さーん!?!?あなたもっと言い方ってものがあるでしょうがー!!司会者の人もこう答えるのをわかっていて振ってるんだから性質悪いよ!
「まぁ氷雨の言い方はともかく、プロのプライドとしては素人に勝って喜ぶのもなんかな~って感じなんですわ」
そう、プロは勝って当然。負ければ仕事が無くなる。そういう覚悟で来ているので、勝って喜ぶ、というより勝って一安心、の方が心情的には近い。
「なんとかプロの面目を保てましたな」
AFLOさんが話したあと、妙な沈黙が落ちる。………なっ!?もしかして一人ずつコメントしてる!?カメラもマイクも俺の方を向いてるし、これ俺のコメント待ちじゃんか!さっきのコメントでもう十分だと思ってたのに!
「こ、」
「「「こ?」」」
氷雨さん達、復唱しないでくださいよ!
「この4人で作った曲が、こうして評価されて嬉しいです。けど、俺は……。このような作曲の機会を頂けたことに、感謝の気持ちでいっぱいです」
言った後に思った。求められてたコメントとは違ったな、と。みんなは「勝ったぜ!ひゃっほーう!」みたいなコメントを期待してたんだ、多分。だから生放送のテレビでこんなに沈黙してるんだ。そうに違いない。無理。帰りたい。
「智夏氏~!しゅき!!」
しゅき?と疑問に思ったのも束の間、がばちょとAFLOさんに抱きしめられた。なんでこんなことに。
「可愛いこと言ってくれるやんか~!」
「お姉さんキュンと来ちゃったわ」
AFLOさんに抱きしめられて動けない俺を、佐久間さんと氷雨さんが両脇からよしよしと撫でてきた。生放送でこの場面が全国に流れてると思うと恥ずかしくて顔が上げられない。なんとか捻りだした言葉は、
「狐面が取れちゃうんでやめてください…」
だった。なんだそれ。
セルフツッコミを入れているうちに、司会者の人がお腹を抱えて笑いながら締めの挨拶に入る。
「それではみなさんまた来週~!!」
え!?この場面で終わるの!?嘘だろ!!
「夏兄~おかえり!!!」
「ただいま、冬瑚。俺が帰ってくるまで起きてたのか?」
「うん!あのね、冬瑚ね、夏兄にこれ言うために待ってたの!」
「これ?」
「おつかれさま!」
ズッキューン!!!
「え、カワイイ。しゅき」
やべ、AFLOさんと同じこと言ってる、俺。でもしょうがない。妹を前に語彙力はなくなるものです。え?そんなのお前だけだって?いやいやそんなはず…
「兄貴」
「夏くん」
玄関で冬瑚をぎゅうぎゅう抱きしめていたら、奥から秋人と香苗ちゃんが苦笑いしながらやって来た。動揺を悟られないように、平常を装う。
「「おつかれ」」
「………うん、ありがとう」
できるだけ、いつも通り答えたつもりだった。けど、長年一緒にいた秋人には隠せなかったようだ。
「兄貴、なんかあっただろ」
「……なにも」
「嘘つけ。僕たちに、言えないようなことがあったんだろ。顔、強張ってるぞ」
「…」
家族に、特に秋人にこのことを話しても、いいのだろうか。
~執筆中BGM紹介~
selector infected WIXOSSより「killy killy JORKER」歌手・作詞・作曲:分島花音様




