春夏秋冬
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俺たちプロ側が作った”喜怒哀楽”のBGMと、林道たち挑戦者側が作った”春夏秋冬”のBGMは審査員の判定と視聴者の投票で決まるため、生放送で番組は進行している。
『だから!言い方が悪いって言ってんねん!』
『そんなの本人の受け取り方次第よ!』
裏で出番を待っていたのだが、スタジオではちょうどこの前の大喧嘩(氷雨さんと佐久間さん)の様子が流されている。
「いやーーーーー!やめて恥ずか死する!」
器用に小声で叫ぶ佐久間さんと、薄暗い中でもわかるくらい顔を赤らめる氷雨さん。そんな2人を見て、小声でボソッと行ってはいけないことを言ってしまったAFLOさん。
「自業自得ですな……フゴォッ!!」
両脇から脇腹にチョップを入れられて悶絶するAFLOさんを見て、今日でこの日常が終わることに一抹の寂しさを覚える。
「今日は祭りだ。だからそんな寂しそうな顔をするんじゃない」
「お面をしてるのに俺がどんな顔をしているかわかるんですか?」
「「「わかる」」」
氷雨さん、佐久間さん、AFLOさんに同時に断言されて、驚く。
「私たちが重ねた時間は1週間だけだったが、君という人間を知るには十分な時間だったさ」
「我らは同業者でありライバルでありますが、今ここに居る4人は血よりも固い絆で結ばれた兄弟」
「厨二くさいわ~。でも、兄弟、か。悪くないね」
「私が長女でまず間違いないわね」
「なんでや!ここはまとめ役である私が長女やろ!」
「じゃあ私が長女、ルンが長男でいいんじゃない?」
「せやな」
納得するんだ…。それでいいのか、佐久間さん。
「御子柴くんは末っ子ポジで間違いないやろ~」
「えぇー…」
「なんや不満でもあるんか?」
「いえ、なんでも」
確かにこのメンツの中では末っ子に間違いない。けれど、2人の弟妹を持つ兄としては”末っ子”という言葉に抵抗を覚えてしまうのだった。
「「AFLOは近所のおじさん」」
「それ赤の他人!」
氷雨さんと佐久間さんの息の合った発言に対してAFLOさんが渾身のツッコミを入れる。……あぁ、今日も平和だ。
「みなさ~ん!こっそりスタンバイお願いしまーす」
とうとう俺たちの出番がやって来たみたいだ。
以前に収録していたのと同じボクシングのリング風なスタジオのセットに、最初からここに座ってましたけど?的な顔をして座る。
その数十秒後くらいにスクリーンに流れているVTRが終わり、照明がスタジオを照らす。
「そぉ~れでは!挑戦者側の4人が作ってきた”春夏秋冬”のBGMを聞いていただきましょう!テレビの前の皆さん!耳の準備は良いですか~?」
またスタジオの照明が落ち、スクリーンに『ウサギ列車』のアニメーションが映し出され、BGMが流れ出す。
最初に爽やかな”夏”の風の音が聞こえた。アニメーションのウサギは、車窓から夏の音を楽しんでいるのだろうか。軽やかな風の音は、青空の下で草原を裸足で駆け回る子供たちの足音のようでもあり、疾走感のある音だ。
アップテンポな曲調がだんだんと落ち着いてきて、”秋”が来た。賑やかだった夏が過ぎ、落ち着きのある秋の曲調で感じるのは静かな月夜。水面に葉が落ちる音が聞こえてくるかのような音の表現は計算され尽くされている。
秋の夜長が過ぎ、今度は”冬”がやって来た。真っ白な雪原をウサギが飛び跳ねるかのような音は聞いている者を楽しませてくれる。あのアニメーションのウサギはきっと、電車の中から見ているのはつまらなくなって、電車の外に出たのだろう。自分の足跡をぺったんぺったんと付けて遊んでいる、そんな風景がアニメーションから飛び出して見えた。
季節は巡り、生命が芽吹く”春”がやって来た。春の暖かな陽の光を浴びて、花が咲き、眠っていた動物たちが顔を出す。曲の盛り上がりは最高潮。ずっと一人で孤独だったウサギが、仲間を見つけて喜んでいるのが曲を通して伝わってきた。
「すごい……」
思わず誰かがそう言った。画面の中のウサギはずっと電車から一人、窓の外を眺めているだけだったが、BGMがそれに動きを持たせていた。
アニメーションが終わり、スタジオが歓声と拍手に包まれる。もちろん俺たちも拍手を送る。挑戦者側を舐めていたわけじゃないが、度肝を抜かれたのは事実。
「これは面白くなってきた」
相手は全力でかかってきた。ならばこちらも全力をもって応えるのみだ。
~執筆中BGM紹介~
NHK連続テレビ小説エールより「星影のエール」歌手・作詞・作曲:GReeeeN様
読者様からのおススメ曲でした!頑張るすべてのみなさんにエールを!




