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負けない

170話まで読んでくださってありがとうございます!ここまで読んでくださった全ての読者様に感謝を。



収録を終え、スタジオから用意された控室に向かう、その途中で声をかけられた。


「御子柴智夏…さん」

「あ…林道朔太、さん」


こうしてら彼と会話をするのは何年振りだろう。8年くらいだろうか。互いになんと呼び合っていたのか、そもそも名前を呼んでいたのかすら覚えていなかったため、ぎこちない呼び方になってしまった。


「あ、えっと……俺のこと覚えてるか?」

「あぁ、忘れるわけない。コンクールのときにあんなに話しかけてくれたのは1人だけだったし」

「話しかけるっていうか、一方的に喧嘩売ってたみたいな感じだったけどな、ははっ」

「たしかに」


どうやら自分でも喧嘩を売っていた自覚はあったようだ。


「なぁ、御子柴って呼んでいいか?」

「いいよ。俺も林道って呼ぶよ」

「おう」


お互いに、コンクールにはもう出ていない。けれど、不思議な縁でまたこうして会うことができた。


「なぁ御子柴、一つ質問してもいいか?」


嫌なら答えなくていい、と林道が声を潜めて聞いてきた。


「なんでコンクールに出なくなったんだ?」


事故に遭って片腕になってから立ち直るまで、自分が出ないピアノのコンクールの結果など気が重くて聞かないようにしていた。しかし、時間とともに心にゆとりが出来て、過去の受賞者を調べたとき、そこに『御子柴智夏』の名はなかった。それどころか、出場者リストの中にもその名はなかった。


「それは……色々、あって」


馬鹿正直に、父に家に軟禁されてました〜なんて言えないため、答えになっているかどうか微妙な返事になってしまった。のだが、林道は深くは追及してこなかった。


「ふ〜ん。ま、人生色々あるよな。俺だって腕が一本無くなっちゃうなんて想像もしてなかったし。ウハハ!」


え、笑うとこ?ブラックジョークってやつ?でも、自分の辛い過去を、笑い飛ばせるくらい強いんだな、林道は。俺もいつか、こんな風に辛い過去も笑って話せるようになるだろうか。


それから少し話して連絡先を交換し、今度はお互いに


「今回は負けないぞ」

「今回も負けないよ」


宣戦布告?しあったのだった。


こういうの、ずっと憧れてたんだよな。友と書いてライバルと読む的な、こういう展開!なんか、いいよな!










「まさかずっと同じ映像やなんておもろいことするわ」

「これは予想外でありますな」


2分間、ただウサギが電車の座席に座って外を眺めるアニメーション。これに"喜怒哀楽"というテーマのもと、BGMをこの4人で作っていく。


このメンバーでこれから曲を作るにあたって、まず最初に決めるべきは、まとめ役の存在である。


「ルン、まとめ役を頼んだよ」


てっきり氷雨さんがまとめ役を買って出るかと思いきや、氷雨さんが佐久間さんを指定してきた。


「はぁ!?なんで私なん!?嫌や〜!絶対損な役回りやん」


ガッデム!と叫びながら佐久間さんが嘆く。


ちなみに現在4人で話し合っているレコーディング室にはパソコンなどの編集機材をはじめ、ピアノやドラムなどの楽器も置いてある。そして特筆すべきは、ここにカメラが入っている点である。こうしてゆるっと話している様子もばっちりカメラに収まっている。


「御子柴君は私がまとめ役になってもええん?嫌やんな?」


カメラの画角にできるだけ入らないようにじりじりと隅に寄っていたら、急にお鉢が回ってきた。


「いえ、佐久間さんが妥当だと思います」


うわっカメラがこっち向いてる!撮られてると思うだけでドキドキするのは何故だろうか。まさかこれって恋!?……じゃなくて。冗談言ってるなんて余裕だな、俺。


「ほんまに?」


疑り深い目で俺を見てくる佐久間さんからこっそり目を逸らす。メイクのせいかかなり目力が強くて、睨まれると結構怖いのだ。


なんだかんだで結局佐久間さんがまとめ役、リーダーになったところで、カメラマンさんが話しかけてきた。


「プロの方って「我こそが!」って感じで前に前に出る人が多いイメージだったのでなんか意外ですね」


俺からしたらカメラマンさんが話しかけてきたことの方が意外なんですけどね。たまにあるよね、ディレクターとか、スタッフの声が入ってる番組。


「それは人それぞれでありますな」


至極真っ当なことを言ったのに、AFLOさんが言うと嘘っぽく聞こえるのはなぜだろう。


「私は自分が何ができて何ができないのかをわかっているから。それにこういうのはこの場で一番ルンが向いている」

「そ、そんなん言われても嬉しくないわっ!」


佐久間さん嬉しそうだな~。元祖ツンデレか。


「御子柴さんはこれでいいんですか?」


カメラマンが俺だけまとめ役の決定について何も言っていないのに目敏く気づいて聞いてきた。


「俺もまとめ役とか、リーダーとかそういうのは向いてないんで」


ほら、基本ワンマンだからさ……決してめんどくさいとか、こんな奇抜なメンツまとめられないとかそういうあれじゃ…。横から佐久間さんの視線が顔にビシビシと刺さってくる。目が泳ぎすぎてもはやバタフライでもできそうだ。狐面してて良かった。


「はぁー。でもまぁ、ここまで言われて断わったら女が(すた)るっ…てな」


よっ!カッコいいよ(あね)さん!早速佐久間の姐さんがリーダーシップを発揮する。


「じゃあまずは役割を決める。私らのお題は”喜怒哀楽”。ってことで、まずは各自の希望を。私は”喜怒哀楽”の”楽”がえぇ」

「我は”喜怒哀楽”の”喜”ですな」


”喜怒哀楽”のいわば陽の感情を佐久間さんとAFLOさんが希望する。実際、この2人にぴったりな役割だと思う。そして残った2つは陰陽(いんよう)で言えば陰の感情。俺の希望を伝えようと口を開こうとしたとき、氷雨さんが先に声をあげた。


「私は御子柴智夏、君に”怒”をやってほしい」


まさか指名されるとは思ってなかったが、”怒”は俺が希望していたものと同じ。断る理由はない。それに、期待されると応えてみたくなる。


「わかりました」

「っちゅうことで氷雨が”哀”で。はい決定!2分間のアニメーションやから一人30秒ってことでよろ~。いや~予想以上にすんなり決まって良かったわ~。んじゃ次な。次決めるんは共通イメージ、世界観やな」



~執筆中BGM紹介~

DARKER THAN BLACK-流星の双子-より「ツキアカリのミチシルベ」歌手:ステレオポニー様 作詞・作曲:AIMI様

発売日が2009年で驚きました。時が経つのは早いものです。今日で5月も終わりなんて…早い!早すぎる!

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