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水面の月

球技大会2日目…の朝です。




「よくガチャとか一番くじで、物欲センサーが働いて望み通りのものが出ないことってあるじゃない?何回も何回も挑戦して、それでも望むものは出ないのよ。だから次第に諦めるわけ。でも、諦めた瞬間にそれが手に入ることってあるわよね。人生って本当にガチャだわ。だってそうじゃないとこの状況をどう説明するの?」


学校では珍しくカンナが饒舌に長文を話している。話しているのは別に問題ではない。問題はカンナが今いる場所である。


「いや「どう説明するの?」じゃなくて、はやくどいてくれる?」

「人が必死に諦めようとしていたのにこの仕打ちって……」

「あれ、聞こえてないのか?おーいカンナさんやーい。俺の上に座ったまま考え事をするのは止めてもらえませんかね?」


なぜ地面に倒れる俺の腹の上にカンナが座って…というか尻もちをついているのかと言うと、それは数分前に遡る―――。





球技大会2日目。あいにくと雨が降ってきてしまったが、今日はクラス対抗のドッヂボールのため多少体育館内がじめじめするだけで済んでいる。


球技大会の準備が体育委員だけでは足りないと聞いて手伝いに来ていた俺は、体育用具室で柔らかいドッヂボールを探していた。そのとき、B組の体育委員であるカンナが俺がいると知らずに入って来た。


カンナはビブスを取りに来たらしく、きょろきょろと棚を見渡し、一番上のぎりぎり手が届きそうな高さにビブスが入ったカゴが置いてあることに気付いた。


「誰よあんな高さにカゴ置いた人は!絶対いじめっ子だわ!」


それはどうだろう…?


カゴを一番上の棚に置いた人に文句を言いながらも、背伸びをして必死にカゴに手を伸ばすカンナの姿を見て、手を貸すために後ろから声をかけたときだった。


「俺が取ろうか?」

「―――っ!?」


俺が体育用具室にいたことに驚いたカンナが背伸びした状態で後ろに、俺がいる方にバランスを崩したのだ。咄嗟に受け止めようと手を伸ばしたときに、頭上から落ちてきたビブスの入ったカゴがおでこに直撃し、支えたカンナと後ろに倒れたのである。


そしてカンナの長い独り言に戻る。


なぁんかこの状況、デジャビュ……。カンナと初めてドリボで会ったときもこうやって下敷きにされてたな。ていうか早くどいてくれないかな。痛くはないけど重――


「重くないよね?うん?」

「ハ、ハイ。子猫が乗ってるかと思うくらい軽いデス」

「まったく……あら、眼鏡変えたの?」


ゑ?俺の上に乗ったまま話を続けるんですか?俺のことマットだと思ってるのか。


「昨日壊れたから、新しいの買ったんだよ。あの、それより」

「そう。たまにはオシャレ眼鏡とかしてみたらどう?」


どいてくれない…。俺の上で楽しそうに指で丸を作って目に当て、眼鏡みたいなポーズをとっているカンナ。


「オシャレ眼鏡とはなんぞ?」

「ほら、最近俳優さんとかがよくしてる丸い眼鏡のこと。うちの事務所の社長が最近ハマっててね」

「あぁ、あの毎回髪色が変わってる社長さんな」

「今は赤と白よ」


そりゃおめでたい。ってそんなことはいいんですよ。こうなったら持ち上げてやろうか、と目が据わったときだった。


「支えようとしてくれてありがとね」


ニコっとカンナが笑って礼を言った。もちろん俺の上から一歩もどかずに。おかげで礼を言われている気がしない。


「ふふっ。なによその不満そうな顔は」

「そりゃあずっと上に居座られてたら誰だってこんな顔になるよ」

「いい男が台無しね。はいはい、どいてあげるわよ」


なぜ上から目線なのか。物理的に上にいるからか。


すっと横にカンナが下りて、散らばったビブスを拾っていく。カンナがどいてようやく体を起こし、俺も近くにあったビブスを拾っていく。


「おーい御子柴ー!ボールこっちにあったぞー!あとA組全員教室集合だってよ!」

「わかったー!!」


体育用具室から顔を出して返事をする。ビブスも拾い終えたし、用事もたった今なくなったので言われた通りに教室に向かうため、カンナに別れを告げる。


「じゃーな」

「試合で当たったらコテンパンにしてあげるから。首洗って待ってなさい」

「投げるのはボールだよね?刀とか投げてこないよね?」


首ちょんぱする気ですかねこの人。思わず首を手でガードしていると、カンナがため息をついて何かを言った。


「目の前にあっても、決して手に入らないもの。まるで水面の月ね」

「なんか言ったか?」

「私に詩的な才能があったって話よ」

「は?」


カンナの謎の発言に首を傾げながら教室に戻ると、鈴木が教壇に立っていた。教卓には段ボール箱が置いてある。


「よーし!全員揃ったことだし、クラスTシャツ配るぞ!」


クラスTシャツ?……そういえば冬休みにクラスのグループチャットで鈴木がそれっぽいことを言っていたような。


一人ずつ鈴木に名前を呼ばれて、クラスTシャツとやらを受け取りに行く。


「御子柴はこれな」

「ありがと」


自分の席に戻る途中、田中や井村たちが叫んだ。


「なんだよこれ!?」

「おいふざけんなよ鈴木!」

「クレームは受け付けませぇん」

「なにをそんなに怒ってるんだよ?」

「Tシャツ見てみろよ」

「Tシャツ?」


もらった全体的に黒のTシャツを広げて見ると、正面には「えぇ組」となかなか味のある白い字で書いてあった。


「裏だよ」


言われた通りにTシャツの裏、つまり背中の方のデザインを見ると、そこには正面と同じく白い文字が書いてあった。


「”顔面キャッチが十八番(おはこ)の御子柴です”……なにこれ」


この文の中身はとりあえず置いといて、名前が入ってるってことはこんな感じの言葉が全員のTシャツの背中に書いてあるということか。そりゃ怒るわ!


「顔面キャッチは十八番じゃないんだけど」

「それ考えたの冬休み中だから!昨日のことを揶揄(からか)ってるわけじゃないぞ!」

「つまり昨日以外の顔面キャッチ全部を揶揄ってるわけだ」


鈴木が全員分考えたのなら、本人の鈴木の背中には何が書いてあるのか。くるっと鈴木を回してTシャツの後ろを見ると、「俺のバックには180万人の鈴木が控えている」。


「なんでお前が全国の鈴木さんの代表なんだよ」

「全国の鈴木さんに謝ってこい」


鈴木さんって180万人もいるんだ。鈴木がツッコミの集中砲火をくらっている横でクラスTシャツを着ながら、一人感心して聞いていたのだった。




~執筆中BGM紹介~

ぬらりひょんの孫より「Fast Forward」歌手:MONKEY MAJIK様 作詞:Maynard様・Blaise様・tax様 作曲:Maynard様・Blaise様

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