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気づいてほしい

今回は久しぶりに香織視点でお届け。




私が恋している智夏君。そしてずっと憧れていた正体不明のサウンドクリエイターの『春彦』。どちらも私にとってかけがえのない、大切な人。


あれはそう、カンナちゃんがとある男子生徒に振られたという噂が広まっていたときだった。『春彦』が『御子柴智夏』に改名した、という衝撃の事実を知ったのは。


つまり、私の好きな人と憧れの人は同一人物だったということで………はぁぅどうしよう!?私、智夏君に向かって『春彦』大好きアピールいっぱいしちゃってたよどうしよう!?カンナちゃんも出てた『ツキクラ』のイベントで智夏君に会ったとき、私なんて言った!?


「私ね、『春彦』はとっても素敵な大人の女性だと思うの」

「うん?」

「背筋がピンと伸びて、足がスラっと長い、超絶美人なお姉様だと思うの」


どうりであのとき智夏君すっごい微妙な顔してたわけですよ!!そりゃあ本人目の前にして「お姉様だと思うの!」とか言ったら引くよ!私ならドン引きだよ!


……親友が悪意のある噂で苦しんでいるときにこんなに興奮しているなんて最低だな、私。


ぐちゃぐちゃとした気持ちで学校に行ったら、困ったことになった。それはそう、智夏君の目を見れないこと。恥ずかしさやら気まずさやらで見れない…!


結局カンナのおかげで普通に話せるようにはなった…と自分では思ってる。でも、修学旅行以来、智夏君は田中や私達以外のクラスメイトと男女問わず仲良くなっている。それがとても嬉しくて、とても寂しくて。


その後、クラスに留学生のエレナちゃんがやって来た。彼女が智夏君のことを「チーちゃん」と呼んでいたことには驚いたけど、どうやら恋愛感情はない様子でホッと一安心……もできない。智夏君、女子の知り合い多すぎない!?いや、普通なのかな?でもでも、智夏君が入ってるバンドの『ヒストグラマー』も5人中3人が女の子だし。


誰にも言えない不安を抱えたまま、時だけが過ぎていった。そして球技大会で智夏君に「だ~れだ!」なんて後ろから目隠しして、我ながら大胆にアプローチしてみたのに…。超鈍感な智夏君にはやっぱり効果はなかった。勇気を出してやったことだったから、思いの外落ち込んだけど、その後智夏君がバスケの応援に来てくれたからとっても嬉しかった!自分でも単純だなーって思う。


結局精一杯頑張ったけどバスケは決勝戦で負けてしまった。女子ソフトチームは一位を取ったらしい。さすがエレナちゃん。A組の他のチームも良くて2位止まりで、最後に残ったのは智夏君達のソフトチーム。みんなで応援に行ったけど、相手チームは相当強そうで、A組チームはかなり劣勢だった。


智夏君はどうやらボールをキャッチするのが苦手みたいで、相手チームにもそれがバレて狙われていた。


「頑張れ、頑張れ…!」


固唾を飲んで見守る中、それは起こった。バッターの打ったボールが智夏君の顔に当たってしまったのだ。


智夏君はその場に鼻血を出して倒れてしまって、その場にいた私も含めたクラスメイト全員が智夏君に駆け寄った。


「智夏君!大丈夫!?」

「しばちゃん!」

「チーちゃん!」

「御子柴!!」


動かない智夏君の姿に冷や汗が止まらない。ボールは眼鏡に当たったのか、フレームの歪んだ眼鏡が地面に落ちている。先生が担架を持ってやって来たため、手の空いていた男子数人が智夏君を保健室に運ぶ。重苦しい空気が漂う中、智夏君と仲の良い田中君がわざと明るい口調でこう言った。


「しばちゃんなら大丈夫だって!あらゆる球技で顔面キャッチした男だぞ?」

「そ、そうだよな!」

「しばちゃんが目が覚めたときに「ソフト優勝したぞ!」って言えるようにお前ら気合入れていくぞー!」

「「「おっしゃあーー!!」」」


男子たちの雄叫びを聞きながら、地面に落ちていた智夏君の眼鏡を拾い上げる。よく見るとレンズも少し割れていた。どれだけ強いボールが当たったのだろう。不安で胸が押しつぶされてしまいそう。


「エレナちゃん!私ちょっと行ってくるね!」

「ダー、行ってらっしゃい」


エレナちゃんは笑って送ってくれた。


保健室に着き、先生に許可を取って智夏君が寝かされているベッドの横にあった椅子に座る。手の中にある智夏君の眼鏡をギュッと握りしめて、智夏君を見る。


ボールがぶつかった所には湿布が貼られていたが鼻血は止まっているようで、すやすやと眠っているだけだった。智夏君の目にかかった前髪を、起こさないよう細心の注意を払いながらそっと横に流す。顔色も悪くなさそう。


10分くらい経って智夏君が目を覚ました。


「あ、智夏君気づいた?……先生!起きました!」

「香織?」


隣の部屋にいた保健室の先生に智夏君が起きたことを報告する。


「智夏君大丈夫?倒れる前の記憶ある?」

「えーっと、顔面キャッチした、気がする」

「気のせいじゃなくて、もろに顔に当たってたよ」

「ダッセェなー俺」


前にも保健室で智夏君と話したときがある。そのときは田中君とカンナもいて、カッターの刃で智夏君が手を切ったときに「痛みを感じない」と聞いた時だった。当時に比べれば、驚くほどに感情を出してくれるようになった智夏君に感慨深くなるが、今のは聞き捨てならない。


「ダサくないよ」


一生懸命やっていた人を誰がダサいと思うだろう。それに私の目から見たら、智夏君は何をやってもカッコいいし可愛い。恋愛フィルターってすごい。


「香織は優しいな」


なんて言われてしまった。私は、優しくない。ただ自分にあまいだけ。そんなにキレイな感情から出た言葉じゃない。でも、これが智夏君には優しさに見えるのなら。


「……誰にでも優しいわけじゃ、ないんだよ?」

「え?」


その優しさはきっと平等じゃない。私がこんなことを思ってるなんて知られたら、嫌われちゃうかな?


「―――――ねぇ、智夏君」


保健室のベッドで上体だけを起こしている智夏君に、椅子から立ち上がって近づく。ドクンドクンと全力疾走している心臓の音に、気づいてほしい。ベッドに手をつくと、ギシリと軋んだ音がした。




~執筆中BGM紹介~

俗・さよなら絶望先生より「マリオネット」歌手:ROLLYと絶望少女達様 作詞:ROLLY様 作曲:ROLLY様/長谷川智樹様

読者様からのおススメ曲でした!このタイミングでこの曲はなかなかアレですね!

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