スローモーション
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香織の逆転3Pシュートが決まり、A組の女子バスケチームの3回戦進出が決まった。
「よーし!これでA組は女子ソフトと女子バスケ、男子バレーがそれぞれ2回戦突破だな!俺たちもこの流れに乗って2回戦勝つぞー!」
「「「うぇ~い」」」
なんとも覇気がない俺たちの声に井村は不安を感じたようで、別の言葉に言い直した。
「ヨシムーの財布を空にするぞー!!」
「「「おおおおおおーーー!!!」」」
体育館の端っこでいきなり男子の野太い声が響いて注目を集めたが、井村の指揮で俺たちは一致団結した。目指せ優勝、焼き肉パーリー!
そろそろ時間なのでグラウンドに戻るために移動しようとしたとき、体育館の隅で真っ白な灰になっているもとやんを見つけた。このまま通り過ぎることもできるが……
「もとやんどーした?顔面でもぶつけたか?」
「顔面をぶつけたくらいでこんなに落ち込まない……」
超ドジっ子もとやんには顔面キャッチなんていまさら屁でもないらしい。さすがだ。
「今までずっとビブスのこと、ギブスって言ってて……。さっき半笑いで女子に「ギブスじゃなくてビブスだよ」って言われた」
あー、恥ずかしいやつやん、それ。興味本位で聞いちゃってごめんな。いま聞いたことは墓場まで持っていくよ。
恥ずか死しそうなもとやんはちなみにピンク色のビブスを着ている。金髪にピンク色のビブスって、目がチカチカする。
「今もまだビブスを着てるってことはもとやんのチームは勝ったんだろ?」
「バスケで…2回戦で勝ったところ」
「3年生になったらもとやんはA組に移籍、転入?するんだし、ここでじっとしてるだけなら勿体ないと思うけど」
「うん…」
家族のことが一段落した後もいまだ金髪のもとやんに「うん」って素直に言われてギャップ萌え…じゃなくて。
「楽しまなきゃ損だよ」
「確かに……さすが師匠。ありがとう」
「元気になったならよかった。じゃあ俺も試合あるから行くよ」
「頑張れ師匠!」
ニカッと笑ってもとやんが手のひらを出してきた。お、これはもしや。もとやんがしようとしていることを察して、同じように手のひらを出して、打ち合わせる。
パァン、と心地良い音を鳴らしてハイタッチをした。
これを陰から見ていたBL大好き松田さんに「ごちそうさま」と言われたときには全力で否定しておいた。
なんとか2回戦、そして3回戦を勝ち抜き、A組男子のソフトチームは決勝戦の舞台に立っていた。
決勝戦では先攻になったため、ベンチに座ってバッターボックスに立つ井村に声援を送る。
「かっ飛ばせ~井村ー!」
「彼女いるの羨ましいぞー!」
「どうやったらモテるのか教えてくれよー!」
応援の意味をご存じか。こんな声援を送っていると、それを聞いた女子たちからの反応は悲惨なものだった。
「うっっわ、男子サイテー」
「応援もまともにできないなんて、あんなのと同じクラスとか恥ずかし!」
「必死かよ」
チームが負けてしまって、俺たちの応援に来てくれていた女子たちの冷たい反応と言ったらもう。そして俺もふざけていた玉谷と鈴木と一括りにされていそうなのが腑に落ちない。
「なぁしばちゃん」
井村が勢いよくバットを振るのを見ていると、横から田中が話しかけてきた。
「1回戦のときに言ってた、ザッシュッカーンってやつ、今のピッチャーでもできそうか?」
「できるけど……」
なんだ?またからかう気か?
俺の予想に反して田中がぺこりと頭を下げてきた。
「それ俺にも教えてくれ!」
「別にいいけど。どういう風の吹き回し?」
「まさかまさかの連続で俺たち決勝戦まで来たけど、ここまで来たら勝って優勝したい!って思ってだな…」
いつもどこか一歩引いた様子の田中がこんなに熱くなるのも珍しい。それだけ本気ということか。
「あのピッチャーは現役の野球部なだけあって、球速は速いし変化球とかも使ってくるから絶対当てはまるとは言えないけど……」
「それでもいいから頼む!」
「えっと……ストレートのときはガッシュッカキーンかな」
「なるほどわからん」
わからんのかーい。頼み込んできた割にあっさりと諦める田中に呆れてしまう。
「しばちゃんはさ、そのガッシュッカキーンでボールが飛んでくるタイミングはわかるけど、それがどこに飛んでくるのかはわからないよな?なのにどうして毎回あんなに打てるんだよ。運動が得意でもないのに」
「一言余計だよ……飛んでくる場所はピッチャーの目を見て、かな」
「目?まさかピッチャーの視線で投げる場所推測してんの!?」
「変かな?」
「変っていうか……しばちゃん目が良いんだな」
「そうかも」
「目が良いのに顔面キャッチするんだな」
「見えてても動けるかどうかはまた別問題だよ」
「宝の持ち腐れだな」
はぁ、まったく口の減らない男だよ。決勝戦だから緊張しているんだろう。寛大な心で許してあげましょうではあーりませんかー。
バッターボックスに立った田中を、宝の持ち腐れと言われてしまった目で見ていると、「ガッシュッカキーン」と言っているのが見えた。打ててなかったけれど。
結局、井村も田中も鈴木もベンチに帰ってきてしまい、すぐに守備に交代になってしまった。
「お前ら、無失点で抑えるぞー!」
「「「おー!」」」
決勝戦のこの場面で初の円陣を組んで守備に挑む。相手は半分近くが現役野球部のチートチーム。勝ち目はほぼないが、それでも頑張らないわけにはいかない。なんてったって…
「みんな頑張って~!」
「ファイトー!」
「玉谷どんまーい」
一部慰めの声も入っているが、クラスメイト達が応援に来てくれているからである。情けないところは見せられない。
………そう思っていたときもありました。
ずっと順調に試合が進んでたから今日は大丈夫だと油断していた。ゆっくりと、まるでスローモーションのようにバッターが打ったボールが目の前に飛んできて―――
「あ、智夏君気づいた?……先生!起きました!」
「香織?」
ここは前にも来たことのある保健室だろう。そして傍には心配そうに見つめる香織の姿が。
「智夏君大丈夫?倒れる前の記憶ある?」
「えーっと、顔面キャッチした、気がする」
「気のせいじゃなくて、もろに顔に当たってたよ」
「ダッセェなー俺」
顔面キャッチした挙句に気絶とか。
「ダサくないよ」
こういう風に慰めてくれる香織は優しい。誰にでも平等に優しくて、本当に女神様みたいだ。
「香織は優しいな」
「……誰にでも優しいわけじゃ、ないんだよ?」
「え?」
窓から差し込む夕焼けが、白いシーツを照らす保健室で、秒針の音がやけに大きく聞こえた。
~執筆中BGM紹介~
喰霊ー零ーより「Paradise Lost」歌手:茅原実里様 作詞:畑亜貴様 作曲:菊田大介様
読者様からのおススメ曲でした!
ソフトボールのポジションがですね、へたっぴをセカンドに置くのはやばちょん(笑)という意見を頂きまして。外野とかに置いたらいかが?とアドバイス頂いて、「そっか外野かー」と納得しかけたんですが、主人公がぽつんと外野に立ってる姿を想像したら笑えてきた今日この頃。せっかくアドバイスいただいたのですが、ポジションは変えません!ごめんなさい!




