ザッシュッブーン
今日はこどもの日ですね。作者はこどもの頃、大きくなったら怪獣になりたいって言ってました。バカですね。
「球技大会1日目。A組のソフトボールチームは1回を無失点で抑えましたね~」
「A組のピッチャー玉谷君が良いボール投げてましたね~」
「ファーストの田中君もなかなか良い動きをしてました」
「なんで自画自賛してんの?」
てか、そもそもこいつら何してんの?
玉谷が自分で良いボール投げてましたね~とか言ってるし。田中も自分で良い動きとか言ってるし。
「誰も褒めてくれないからこうして解説風に自分を褒めてるんでしょうが」
「そうだそうだー!もっと褒めてくれよ~」
解説……。あぁ、そういえば高校野球の解説ってこんな感じだったような。あまりスポーツ中継を見ないのでこういう話題にはついていけないことに少し寂しさを覚えてしまう。これからはスポーツ番組も見ようかな。
「玉谷は中学校からの彼女に褒めてもらえばいいじゃん羨ましい」
鈴木が何気なく言った一言で、玉谷がグラウンドにしゃがみ込んだ。その後ろ姿にはどんよりと暗雲が立ち込めている。
「なんだなんだ?」
「あ~玉谷の彼女、浮気してたみたいでな。いまこいつ、傷心中なんだわ」
「マジかよ、玉谷ごめんな。……そういう情報をなんで井村が知ってるわけ?」
「人徳かな」
「むきーっ!」
「お前は猿か」
こんなぐだぐだな感じでA組の攻撃が始まった。一番打者の井村がバッターボックスに立つ。
「意外と様になってるよな~、井村のやつ」
元野球部の玉谷が言うのだからそうなのだろう。なんでもそつなくこなす井村に感心していると、横から鈴木が補足を入れてきた。
「井村は選手を演じてるんだよ。だから様になってるし、堂々としてる」
「選手を、演じる……?」
「あいつ演劇部だからさ」
「へぇ、演劇部ってすごいね」
……演劇部ってみんなそんなことができるのかぁ。
そういえば高校に入ってからよく、演劇の大会で優勝したとかで全校集会で表彰とかされてたっけ。井村って実はすごいんだな。
「違う違う!しばちゃん違うぞ!井村を演劇部の基準にしたら駄目だからな。アイツだけがおかしいんだ」
「おかしいって」
「フォームとか外側だけなら演じることができるだろうけど、その選手の能力も井村は演じて、しかもそれができるなんて普通じゃないだろ」
「まぁ能力を演じるっていっても劣化版だけどな……あ、井村が一塁に出たぞ」
なるほどつまり井村がすごいってことか。劣化版とはいえバリバリの運動部相手に出塁したわけだし。
井村に続いて二番打者の鈴木がバッターボックスに入る。
「かっとばすぜ!」
意気揚々とバットを構えたおよそ1分後に鈴木は泣きながらベンチに帰ってきた。
「なぁんでだよぉぉぉおおお!」
「バットを振るタイミングが早かったんだよ」
嘘泣きしている鈴木の背中をぽんぽんと叩く。
「タイミング?」
「そう、タイミング」
「しばちゃん運動できないのにそんなことわかるのか?」
運動できないことって関係あるのか?と一瞬モヤっとして田中の髪をぐしゃぐしゃにしてやろうかと思ったが時間がないので止めておく。まったく、寛大な俺に感謝してほしいね。
「井村はピッチャーがザッシュッってやったあとに一拍置いてカーンって打ってたけど、鈴木はザッシュッブーンって感じだった」
あれ?みんなぽかーんと間抜けな顔をして口を開けている。
「ごめん全然わからない」
「えぇ?」
ほわい?
「えぇ?はこっちのセリフだよ。ザッとかカーンとかブーンってなんだよ!全部擬音じゃねぇか!わかるか!……あ、じゃあ行ってくるわ」
すごい勢いでツッコミしてたのに急に冷静になるの怖いんですけど。なんなの田中は機械なの?ツッコミマシーンなの?
バッターボックスに入る田中の背中を見ていると、後ろから手で目隠しをされた。
「だ~れだ!」
あ、なんだか良い香り……、じゃなくて。
「香織かな」
「せいか~い」
振り返れば、へへっと笑う香織がそこにいた。後ろには他の女子たちもいる。
「香織はバスケだっけ?」
「そうだよ。第一試合だったからもう終わったんだ~」
表情がとても晴れやかなので恐らくは……。
「ブイ!一回戦勝ったよ!」
両手でピースサインを作って勝利を掲げるその姿はまるで勝利の女神である。
「おーい田中、女子バスケ勝ったってー!!」
バッターボックスでバットを握る田中に向かって叫ぶと、ニヤリと笑ったのが見えた。
「そりゃあ俺たちも負けてらんねぇ、なっ!」
そう言って田中がバットを振り、ボールは一塁と二塁の間を抜けていった。有言実行かよ、格好いいな。
一塁にいた井村が三塁に移動し、田中は二塁に。田中の前に鈴木ともう一人がアウトになっているため、俺たちはツーアウト二、三塁だ。そしてこのタイミングでヒーローの如く登場するのが……。
「玉谷くーん!頑張ってー!!」
「打てる打てるー!!」
女子の応援を背に元野球部の玉谷がバッターボックスに入る。対戦相手が玉谷を警戒しているのがわかる。
「傷心中のお前に勝てる者はいないぞー!」
「悔しさをバネにホームラン打ってくれー」
後半の声援はもちろんベンチにいる男子からである。ドンマイ玉谷、みんなに彼女と別れたのがバレちゃったな。
「うぉぉぉぉおおしゃぁああああ!」
謎の雄叫びをあげながらバッドを振ったはいいものの、相手ピッチャーがその剣幕にビビったのか、ボールを4回出してしまった。つまりファーボールで自動的に玉谷は一塁へ。見せ場ゼロだったな。
「次しばちゃんだぞー!!」
「智夏くん頑張ってね!」
そうだった。他人の心配してる場合じゃなかった。小走りでバッターボックスに入り、バットを握る。敵チームが油断して、というか余裕の表情なのが見て取れた。ツーアウト満塁の今の状況で俺が打者って……みんな、ごめん!
「シュッって打ってやれー!」
「ブーンってかましてやれー!」
「馬鹿にしてる!?」
シュッはピッチャーがボールを投げたときの音だし、ブーンは空振りの音なんですけど!……って駄目だ。集中しろ。とりあえず一球目は様子見で。
ピッチャーがザッシュッとしてキャッチャーがボールをキャッチする。ザッシュッとしたら井村は一拍あけてたけど俺は井村みたいにバットを早く振れないから一拍じゃ遅いな。0.8拍くらいかな。
なんとなく調整しながらバットを構え直す。
耳を澄ませて、音に集中する。風の音、砂を踏む音、そして、ピッチャーが構える音。
……ここだ!
カッキィィィン!
~執筆中BGM紹介~
メジャーより「心絵」歌手:ロードオブメジャー様 作詞・作曲:北川賢一様
どなたかがおススメの曲として紹介してくださっていたような気もするのですが…すみません、作者の記憶容量は雀の涙ほどでして…




