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優勝




年越しまで残り4時間ほど。時刻は20時過ぎ。テレビでは紅と白で歌合戦をやっているが、御子柴家でもまた、お互いに一歩も譲れぬ戦いが繰り広げられていた。


「ふへへ~これ取っちゃおーっと」

「な!香苗ちゃんのいじわる~」


お酒が回った香苗ちゃんがふにゃふにゃと笑いながら一番下のジェンガの板を抜き取ったことにより、ジャンがのタワーが不安定になる。


「あ、付箋ついてた!能力ゲットだぜ!」


抜き取った板に、俺たちの誰かが書いた能力の付箋が付いていたらしく、それをひらひらと頭上で見せびらかすように振っている。目は良い方なので、一瞬チラッと付箋に書いてある文字が見えた、のだが…変な文字が見えた気がする。


「何の能力だったの?」


俺が一瞬見た文字は「米」。これだけでもはや誰が書いたのかはわかるが、能力の内容がさっぱりわからないので酔っ払いの香苗ちゃんに聞いてみることにした。


「”炊き立てのお米をいつでも召喚できる”能力だって」


横でドヤ顔しながら頷いている秋人には申し訳ないが、ここは兄として言わせてもらおう。


「それは能力なのか?普通に”召喚”とかでよかったんじゃ……」

「兄貴はなんにもわかってないな」


秋人にやれやれ、と首を振られてちょっとムッとしてしまった。段々と秋人の小憎(こにく)たらしさが増していっている。…ハッ!もしやこれが反抗期ってやつですか!?順調に成長している証ですな。お兄ちゃんは嬉しいよ…


「兄貴、よくわからんけどその腹立つ顔を今すぐやめないと朝飯抜きだから」

「お兄ちゃんが(わる)うございました」


おそらくニヤニヤしていたであろう顔をキュッと引き締めて諸手(もろて)を挙げて謝罪する。飯抜き、ダメ、絶対。


「”炊き立てのお米をいつでも召喚できる”能力は、最強なんだよ」

「と、いいますと?」

「秋兄なに言ってるの?」


秋人の言っていることがまったく理解できない実の兄と妹を差し置いて、香苗ちゃんはうんうんと納得顔で頷いている。


「だって、腹が空いたらいつでも炊き立てご飯が食べられるんだぜ?炊飯ジャーのスイッチ入れ忘れててご飯が炊けてないときでもすぐにご飯が用意できるなんて最強じゃん」

「た、たしかに……!」


思わず納得…いやいや納得してどうする俺。


「秋兄、ご飯だけなの?おかずはどうするの?」

「おかずはパパっと作れるからな」

「「「お母さん…!」」」

「産んだ覚えはねぇよ!…まぁ、おかず系の能力も書いたけど」


『おかず系の能力』というワードの強さよ。


「それじゃあそのおかず系の能力とやらもゲットしないとね!せっかく”炊き立てご飯”の能力を引き当てたんだから」


”炊き立てのお米をいつでも召喚できる”能力は長かったのか”炊き立てご飯”の能力に呼び名が変わってしまった。もう最終的には”飯”とかになっているかもしれない。


「次は夏兄の番だよ」


そうだった。今はジェンガをしているんだった。能力の話が思ったよりも面白くてついつい忘れてしまっていた。


香苗ちゃんが一番下の一本を抜いてしまったので、バランスをとるために反対の板を取るか…いやでもそしたらタワー全体を支える板が一本だけになって倒れてしまうかもしれないし。うんんんん…ここは無難に安全そうなのを取って守りに入るか?


簡単に抜けそうな板に手を伸ばしたとき、正面からエールが届いた。


「夏兄、頑張って!」

「わかった」


冬瑚に応援されたら攻める以外の選択肢はない。香苗ちゃんが一番下の右の板を抜き取ったので、その反対側の左の板を抜き取ることにした。


ちょんちょん、と指先で突いてみる。するとジェンガのタワー全体がぐらぐらと揺れだした。ふむ、なるほどなるほど。


「勢いが大事だな、これは」


最初の予定では板を指で向こう側に押し出して抜き取る予定だったが、それだと全体に振動が伝わって崩れそうだったので横から一気に引き抜くことにした。


「ざわざわ…ざわざわ…」

「香苗ちゃん、お静かに」

「あっちゃぁ~夏くんに怒られちった。うはは!」


慎重にタイミングを見計らって、一気に引き抜いた。横に勢いよく引き抜いたせいか、ピサの斜塔のように絶妙なバランスでジェンガのタワーはその姿勢を保っていた。


抜き取った板を見ると、付箋が貼ってあった。よっしゃ、これで一歩ご褒美に近づいた。このゲームはジェンガの板に貼ってある能力をどれだけ集められるかで勝負が決まる。そして優勝者には冬瑚がほっぺにチューしてくれるのだ。これはシスコン連盟代表(今決めた。会員一人だけ)としては見過ごせない。なんとしてでも優勝してご褒美を頂かねば。


付箋に書いてあった能力は”千里眼(せんりがん)”だった。


「なになに?何の能力が当たったの?」

「”千里眼”…そう、コレ!こういうのが能力だよね!」

「あ~それ私が書いたやつだ。それを引き当てるとは夏くんもしやムッツリかい?」

「なっ…!」


なんてこと言うんだこの酔っ払いは!香苗ちゃんの手からお酒を奪おうとじりじりと睨みあっている横で、純粋な天使が秋人に無垢な質問をしていた。


「千里眼ってなに?」

「遠くまで見える目だな」

「ムッツリってなに?」

「あぁ…えっと、次は僕の番だな」

「なんで話を逸らしたの?ねぇ秋兄?」


秋人ごめんな!もう変なこと口走らないようにお酒はきっちり回収しといたからな!あと、ムッツリじゃないから。違うからな。



それから何回か自分の番がやってきて、かなり白熱したジェンガバトルになったのだが、最後は香苗ちゃんが攻めすぎて崩れてしまった。


「結果発表~!!」


どこぞの名司会者よろしく高い声で香苗ちゃんが勝者を発表する。


「優勝は~じゃん、じゃかじゃかじゃかじゃか…」


集めた付箋の枚数はみんな同じくらい。つまり能力の中身で勝敗が決まるわけだが…。


「勝者は~…わ・た・しです!いぇ~い!」

「「「えぇ~?」」」

「異論は認めませんよ~。だってこの能力見てよ。”ご飯””おかず””汁物””デザート”すべてが揃ったんだよ?もう優勝確定じゃん」


そりゃ勝てないわ。まさか秋人の食べ物能力シリーズ全部制覇してるなんて。というか秋人が書いた5つの能力のうち、最後の一つだけが気になった。


「じゃあ香苗ちゃんは鏡に向かってチューね」

「優勝したのに罰ゲーム」

「冗談だよ、ちゅっ」

「うへへへへへへ」


香苗ちゃんと冬瑚のいちゃいちゃを見せつけられてツライ…。でも一番幸せな結末かもな。


「ちなみに夏くんの集めた能力って全部ムッツリ、もごっ!」

「お口チャックでお願いしますね?」

「ふぁい。しゅみましぇん」



~執筆中BGM紹介~

怪病医ラムネより「SHAKE!SHAKE!SHAKE!」歌手:内田雄馬様 作詞・作曲:篠崎あやと様/橘亮祐様

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏君がどんな能力を集めたのかが凄く気になる・・・
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