ジェンガ
お仕事パートはお休みです。作中は大晦日でございます。去れ、煩悩…!
Luna×Runaの二人に付いて回って(決してストーカーではない)数日。クビを切られそうになっているだけあって仕事の方は残念ながらほとんど無かった。しかし歌やダンスのレッスンはあったので彼女たちの魅力を知るには十分だった。ダンスにバランス感覚に…あと、持久力とか。
そして今日は12月31日。大晦日である。さすがに今日はストーカー…じゃなくて魅力発見のための密着もお休みである。
「今日は夜更かししてもいいー?」
クリスマスに無理やり休みをもぎ取った反動で大晦日のぎりぎりまで働いていた香苗ちゃんに、冬瑚が抱き着いて可愛くおねだりしている。
「冬ちゃん夜更かしできるの?」
「できる!だってみんなで一緒に年越しするために、お昼寝して準備したからね!」
「そっか!じゃあ夜更かし頑張ろう!」
「おー!」
夕食に年越しそばを食べ、歌番組を見ながらみんなでコタツを囲んで冬瑚の話や秋人の学校の話を聞いていた。冬瑚は体育の授業が、そして秋人は家庭科の授業が楽しいらしい。
「夏兄は?夏兄はなんの授業が好き?」
「う~ん。どれも、」
「どれも好き、は無しな」
秋人に先手を打たれてしまったので言葉に詰まってしまった。本当にどの授業も楽しいのだ。新しい知識を得ることに喜びを感じている。でも、あえて言うなら…
「美術、かな」
「「「やっぱり」」」
どうやら俺の答えは3人にとっては予想通りらしかった。
「だって、この前みんなで絵を描いたとき夏兄楽しそうだったもん」
「そうねぇ。最近夏くんまた絵を描いてるでしょ?」
「最近家だとピアノを弾くか、絵を描くかのどっちかだもんな」
「そんなにわかりやすいかな?」
それぞれに理由を言われてみんな見守ってくれているんだと嬉しくなると同時に、そんなに自分はわかりやすいのかと気恥ずかしくもなる。
「わかりやすいかと聞かれれば、わかりにくい方ね。夏くんは」
「兄貴は自分のことなんも言わねぇし。わかりにくいよ」
「秋兄もあんまり言わないけどね。でも夏兄はいつも聞くばっかりでお話はあんまりしないからわかりにくい!」
3連発でわかりにくいと言われて「やっぱりなぁ」と思う。けど、どれだけわかりにくくても、彼らがわかってくれるのは…
「でもまぁ、家族だからね~」
お酒が入って上機嫌な香苗ちゃんが冬瑚の髪をくるくると回して、サイドにお団子を二つ作っていた。なんだかチャイナ服が似合いそうな髪形である。
「香苗ちゃ~ん」
「なぁに?冬ちゃ~ん」
「旭くんは今日は来ないの?」
「んぐっ」
冬瑚の言っている旭くんとは、俺の担任の吉村先生の名前である。なぜ先生の名前が冬瑚の口から出るのかと言うと、クリスマスに一緒に遊んだからである。ちなみに先生は香苗ちゃんに片思い中。さっさとくっつけばいいのに、と思っているが俺が高校を卒業するまでは香苗ちゃんも先生もこの関係を変えるつもりはないらしい。大人ってよくわからない。
「今日は呼んでないから来ないよ。なんで旭のことを?」
「うん?ん~…なんとなく!」
会ったのはクリスマスの一回きりだと言うのに冬瑚が先生に懐いていて、お兄ちゃん的にはかなり妬ける。けど、息子的にはいい、のか…?いままで自分が父親ポジションにいた(自称)ので急にその地位が揺らいで気が気ではないような感じもするし。かなり複雑な心境である。
「むにゅ~」
変な鳴き声をあげて膝の上に飛び乗ってきた白猫のハルの喉元を撫でていると、冬瑚が積み木みたいなものが入った直方体の箱を持ってきた。
「ジェンガじゃん。懐かしいな」
秋人の言葉通り箱にはジェンガと書いてある。なんだろう、コレ。同じ形の板が何個も入っている。
冬瑚が箱をひっくり返して積み重なっていたジェンガなるものを綺麗に取り、出そうとしたのだが、途中でフタがあたって崩れてしまった。
「ぬわぁ!やっちまったぜぃっ!」
「それ誰のマネ?」
「隣の席の男の子のマネだよ!」
「冬瑚には似合わないからやめなさい」
「はーい。秋人お母さん!」
「誰がお母さんじゃい」
冬瑚がもう用なしと言わんばかりに床に置いたジェンガの箱をこっそりと取り、遊び方の説明書きを読む。
積み上げた板を崩さないように一本ずつ抜いていって上に重ねていくゲーム…なるほど。これなら簡単にできそうだ。
「ねぇねぇねぇねぇ!」
「香苗ちゃんうるさい」
秋人に冷たくあしらわれても気にすることなく、香苗ちゃんが言葉を続ける。
「せっかく崩れてるんだからさ!組み直す前にひと工夫加えてみない?」
「ひと工夫?」
「チャラチャチャッチャチャ~、付箋とえんぴつ~」
猫型ロボットよろしく、どこからともなく取り出してきたのは一言メモできるくらいの小さな付箋と鉛筆。付箋を五枚ずつそれぞれに配っていくと、香苗ちゃんはニヤリと笑って企みを話した。
「自分が欲しい能力を五つ付箋に書いて!」
またおかしなことを…。香苗ちゃんに呆れつつも特に否定するつもりもないので詳しく話を聞くことにする。
「能力ってたとえば?」
「”火を吹く”とか!それでね、一番多く能力を集められた人が最強ってことで!」
つまりジェンガの要素と、付箋の付いた板を引き当てる運要素も入ってくると。
「見事最強の座を勝ち取った人には香苗ちゃんがほっぺにチューしてあげる~」
完っ全にお酒に酔ってる……!酔っぱらった大人の厄介さといったらもうない。
「それじゃあ香苗ちゃんが最強になったらどうするの?鏡にチューするの?」
「え…なにそれツライ。考えただけで泣きそうになるぅ~」
「え~?じゃあ冬瑚がチューしてあげるね」
一心不乱にハルが俺の指を舐めているのも忘れてシュバッと手を挙げて冬瑚氏に質問をする。
「俺が最強になったら冬瑚はチューしてくれる?」
「いいよ~」
「よぉし俄然やる気が出てきました!」
「冬瑚、僕が最強になった時もよろしくね」
「ラジャーであります!」
「ちょっと夏くん、秋くん!最初からこの私がチューするって言ってるじゃないの!なにシスコン発揮してるの!」
「あ~うん。香苗ちゃんからのチューもチョー嬉しい」
「嬉しい嬉しい」
「そういうときだけ息ぴったりなんだからも~」
こうして冬瑚のチュー(と、おまけに香苗ちゃんも)を賭けて大晦日の仁義なき戦いが幕を開けるのだった。
~執筆中BGM紹介~
進撃の巨人 The Final Seasonより「僕の戦争」歌手:神聖かまってちゃん様 作詞・作曲:の子様
ジェンガはよく倒してた記憶がありやすね。




