ターニングポイント
ち、ちちち遅刻しましたぁぁぁぁあああ!!!ごめんなさい!!!
本作の主人公、御子柴智夏はサウンドクリエイターや作曲家として外で活動する時は基本的に鼻から上を隠す狐面をして髪を後ろで括っています。そんなに長くはないのでスズメの尻尾みたいになってます。
「夏くん、Luna×Runaって知ってる?」
熱もすっかり下がった翌日の朝。突然、香苗ちゃんから聞かれたそれに首を傾げる。
「アニメの名前とか?」
「全然違いますね~」
「それじゃあ会社の名前?」
「ぶっぶ~」
両手でバツを作って不正解を告げられた。こうなったらもうアレに頼るしかないな。ポケットからスマホを取り出して検索にかける。
「あー!スマホは反則だぞ~」
「反則も何もルールなんて初めからなかったでしょ」
「私がルールだ」
「かっけぇ」
え~と、《Luna×Runaとは日本の2人組女性アイドルのこと。》ふむふむ。
「なるほどアイドルの名前か」
「正解!」
両手で大きなマルを作って笑っている香苗ちゃんをじっと見つめる。10秒か、20秒か、ひたすら瞬きもせずに見つめていると、香苗ちゃんがそろ~っと目を逸らした。
「いきなりなんでこの人たちのことを聞いてきたのかな?」
「そ、それは、え~っとね」
怪しいんだよなぁ…。冷や汗を流す香苗ちゃんにさらに質問を重ねる。
「今日付き合ってほしい場所があるって言ってたのは、このLuna×Runaって人たちと関係があるの?」
きわめて穏便に、にこ~っと香苗ちゃんに質問していた横で、秋人が冬瑚に余計なことを吹き込んでいた。
「冬瑚、いじめはよくないからな。あれは反面教師だ」
「反面教師ってなに?」
「悪人のお手本ってことだな」
「そっか。夏兄いま、すっごい悪い笑顔してるもんね」
「そこ!お兄ちゃんを悪人にしない!」
秋人に注意を入れるときも、視線は香苗ちゃんに固定したまま。すると観念したように、香苗ちゃんが口を開いた。
「じ、実はね…」
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お星さまカフェのテーブル席にて、俺はいまLuna×Runaの2人と向き合っていた。ミルクティーみたいな色の腰まである髪をハーフアップにしている落ち着いた雰囲気の女性が自己紹介をし始める。
「初めまして。私は本田月子と申します」
本田さんがぺこりと頭を下げたのでつられてこちらも頭を下げる。次に本田さんの隣に座っていた桜色の髪をしたポニーテールの女性が下を向いたまま、ぼそぼそと自己紹介に入る。
「は、初めまして。…猫平瑠奈、です」
月子に瑠奈、か…。
「初めまして。御子柴智夏です」
ちなみに今回は狐面をしていない。いつも学校に行っているような前髪を下ろして眼鏡をかけるスタイルだ。最近嬉しいことに狐面の知名度が上がってきたので、こっちの陰キャスタイルの方が目立たない、ということに最近気づいた。
「御子柴さんって」
「「はい」」
ここには御子柴さんが2人。当然苗字で呼ばれると2人とも反応してしまう。本田さんが慌てたように「智夏さんの方です」と言った。
「苗字だと紛らわしいので名前で呼んでください」
「では、智夏ちゃんで」
「智夏ちゃん」
「ぶふっ!」
本田さんはあれかな。ちょっと人との距離の詰め方が独特なのかな。隣で笑っている香苗ちゃんは放っておくことにする。
「智夏ちゃんは実際にお会いして見ると、随分とお若いですね。高校生くらいでしょうか」
「高校2年生です」
「こ、ここ高校生とか若い。若い子こわいぃぃぃ」
「あの、猫平さん?」
猫平さんも本田さんも、髪色は明るいのになんというか……
「あぁ…今、髪は桜色のくせに性格暗すぎwwwって、お、思われた…。つら」
「お二人とも髪色と性格があまり合っていませんね、とは思いましたが笑ってはいないですよ」
外と中がちぐはぐで、よくこれでアイドルをやってこれたなと思う。アイドルの知り合いなんていないからこういうのが普通なのかもしれないけど。
話が全然進まないので、香苗ちゃんが軌道修正に入る。
「ほら2人とも。昨日のロビーで騒いでた勢いはどうしたの。夏く、うちの智夏に相談があるんでしょ」
「そうでした。智夏ちゃん、私達Luna×Runaに曲を作ってくださいませんか?」
「い、いま、私達ピンチで。次の曲が売れなかったらクビに、な、なりそうなんです」
香苗ちゃんから事前に曲の依頼とは聞いていたが、クビがかかっていたとは聞いていない。香苗ちゃんの方を振り返るとすごい勢いで目を逸らされた。
わかってたよね?わかってて黙ってたよね?
「あの、クビがかかった大事な曲に、なぜ俺が選ばれたんでしょうか?」
「そ、それは智夏ちゃんの」
猫平さんも「智夏ちゃん」呼びですか、そうですか。お二人とも仲がよろしいですね。
「智夏ちゃんの、曲を聞いて。「この人だ!」って思って…」
「お願いします。どうかLuna×Runaに曲を作ってください!」
「お願いします!」
これが御子柴智夏とLuna×Runaとの最初の出会い。そしてこれから先、長く付き合っていくことになる。
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数年後、人気音楽番組『ターニングポイント』にて。
「今日は男女問わず絶大な人気を誇るLuna×Runaのお二人にお越しいただきました~!」
マイクを持った司会を務める女性タレントが2人組の歌手をゲストに場を盛り上げていた。
「「よろしくお願いします!」」
カメラに向かって眩しいほどの笑顔を向ける二人。
「Luna×Runaのお二人と言えば、なんと言ってもその圧倒的歌唱力ですよね!そんなLuna×Runaのターニングポイントとは?」
「私達Luna×Runaのターニングポイントは、とある作曲家さんに出会ったことです」
「その人に出会わなければ、私たちは皆さんに知られることなく、ひっそりと解散していたと思います」
超売れっ子の二人にここまで言わせる作曲家の正体について、スタジオにいた全員が興味を惹かれる。
「その作曲家さんは、Luna×Runaの超人気曲である『星屑の軌跡』の他、多くの人気曲をLuna×Runaのお二人と共に世に生み出しています。そろそろみなさん、その作曲家さんが誰か、気になってきましたよね?」
「気になる~!」
「では、Luna×Runaのお二人に、ターニングポイントとなった、ある作曲家さんのお名前を発表していただきます!」
「「私達Luna×Runaの恩人は、――――――」」
~執筆中BGM紹介~
とある科学の超電磁砲Tより「nameless story」歌手:岸田教団&THE明星ロケッツ様 作詞・編曲:岸田様 作曲:草野華余子様/岸田様




