彩歌さんの簡単クッキング
お料理しちゃうゾ☆
今日はエイプリルフールですね。えーと、実は作者は犬派!
今回はお察しの通り彩歌さん視点でお送りします。
『夏くんが頭痛いって!!!』
この前送ってもらったときに連絡先を交換した智夏クン達の育ての親、香苗ちゃんから今朝電話が来た。
「頭がい、痛い?え、えー!?」
『夏くん風邪ひいたみたいでね。痛みが戻ったのかと思って夏くんのほっぺたをつねってみたんだけど、どうも外からの痛みはまだ感じないみたいなのよ』
「そうですか…。でも、内側からの痛みは感じられるようになったってことですよね!」
『そう、よね。進歩よね!私が焦っちゃダメよね』
「智夏クンのペースでゆっくりと直していけばいいと思うっス。…その、智夏クンの看病に行ってもいいっスか?!」
あぁー!!言っちゃった!どうしよう彼女の分際で、とか思われたら。心の中で冷や汗をかきまくっていたとき、スマホの向こうの香苗ちゃんが嬉しそうな声を出した。
『ほんと!?夏くんったら「看病はいらない」「仕事あるんでしょ」「俺は大丈夫だから」って苦しそうに言って私たちを遠ざけるんだもん。あ、でもお仕事大丈夫なの?』
「今日は夜から仕事なので朝は大丈夫っス!」
『あら~!それじゃあ家の中の物は勝手に使っていいからね。あと、夏くんの部屋の机の上に注目よ!』
「へ?机の上?」
『じゃあ鍵は開けとくからよろしくね~』
………鍵開けといて大丈夫?
急いで家を出てバスに揺られながら智夏クンのお家に着いたのが10時30分過ぎ。
「ほんとに鍵が開いてる…。お、おじゃましまーす」
返事はない。そろりそろりと足音を立てずに屋内に侵入し…これじゃまるで泥棒じゃないっスか。
リビングに入ると『夏くんの部屋はココ!』とちょっとした手書きの屋内図の書き置きがあった。その紙を持ってそーっと部屋を覗く。
「……っ…はぁ…はぁ」
辛そうに呼吸する智夏クンがベッドに横たわっていて、胸が苦しくなった。彼が起きないようにそっと近づいて、少し汗ばんでいる右手をそっと自分の手で包み込む。
「頑張れ、頑張れ智夏クン」
心なしか呼吸が楽になったように見えたのは自惚れだろうか。智夏クンの右手を布団の中に戻して、自分はリビングに向かう。智夏クンの部屋から出るとき入れ替わるように白猫のハルちゃん(あれ?男の子だっけ?)が部屋に入っていった。
好きに使っていいと言われたので、勝手に台所を拝借してお粥を作る。
ドキドキ!彩歌さんの簡単クッキング~ぱふぱふ~
まず、炊飯ジャーの中の炊いてあったお米を少々もらい、小鍋に入れます。このとき、勢いをつけすぎて白米が飛び散らないようにしましょう。次にお米の入った小鍋にお水を入れます。分量は、まぁ、勘です。ここでちょっとアレンジを加えます。別の器に卵を割り、かき混ぜます。そして隠し味…でもないっスね。おつゆを適当に入れます。テキトーではないっス。適当っス。ここ大事!それで半分くらい卵をお鍋に入れて蓋を閉じ、中火で数分ことことします。
脳内エセクッキング番組を妄想していたとき、リビングのドアが開いた。
「あ、智夏クン。もう起きて大丈夫っスか?」
「…おかしい。うちで彩歌さんがエプロンを着て台所に立っている幻覚が見える」
まずいっス。これは相当お熱にやられちゃってる。あと、ちょっと眠そうに目をこすってる姿が可愛い…。ハッ!いかんいかん!去れ煩悩!
「智夏クン。それは幻覚じゃないっスよ」
「……うん?えっ?」
大丈夫かな?
心配になって手を洗って智夏クンの元に小走りで向かい、おでこにそっと触れる。
「まだ熱いっスね」
「もしかして本物?」
まだ言うか。
「偽物でも出たっスか?本物の鳴海彩歌だよ」
名前を言ったとき、眠たそうな目がカッと開き、ズザザーっ!と智夏クンが後ずさった。
「俺いま風邪ひいてるんでダメです。近づかないでください」
「そんなに急に動いちゃ危ないっスよ」
他人の心配よりまずは自分の心配をしてほしいっス。
言った傍からへなへなと倒れ込んだ智夏クンの体を支えるが、体格差もあって一緒に倒れ込んでしまった。病人一人支えられないとか情けないっス…。自分の情けなさに呆れていると、智夏クンが瞳を潤ませながら何度も謝ってきた。
「ごめん、ごめん彩歌さん。ほんとにごめん…」
「もう謝るの禁止っス!ほら、立てる?」
智夏クンが謝らなきゃいけないことなんて何一つないのに。風邪で気持ちが滅入ってしまっているらしい。肩を支えながら近くのソファーに寝かせ、るところで気づいてしまった。熱で火照った顔、潤んだ瞳、熱い吐息…なんだこの色気は!?ユーはほんとに高校生ですか!?
「…ヒェ」
「彩歌さん?」
思わず声が出てしまって、智夏クンに不思議がられてしまったが、その後なんでもない、と首を振ると、へにょ、と屈託ない笑顔が直撃した。……………彼氏が尊い。みんな聞いて、私の彼氏可愛すぎない?
相手は病人!浮かれるな自分!と煩悩を消し去り、急いで台所に戻って火を消し、残った卵を上からかける。そしてそのまま智夏クンの部屋に行って毛布を取る。あれ?なんか重いな。
「わ!ハルちゃんがぶら下がってる!ごめんね、大丈夫だったっスか?」
ぷらーんと毛布からぶら下がっていたハルちゃんを床に下ろすと、ハルちゃんはトコトコと机の方に向かって歩いていく。
「そういえば香苗ちゃんが机の上がどうのって言ってたような」
机の上を見ると、『dear Saika』と書いてあるメッセージカードが付いた手のひらサイズのプレゼントケースが置いてあった。
これは見ないふりをした方がいいのか、それとも受け取った方がいいのか悩んでいると、ハルちゃんが机に飛び乗って、そのプレゼントを尻尾で私の方に押してきた。
「こ、これはもらってよろしいということでしょうか、ハルちゃん」
「にゃ~う」
お許しが出たので毛布とプレゼントを持ってリビングに戻る。いつの間にかハルちゃんも後ろに付いてきていた。
「あ、あの智夏クン、机の上にあったこれって…」
しまった、という顔をした智夏クンを見て、やっぱり持ってきちゃダメだったかと後悔していると、ハルちゃんがソファーに寝ている智夏クンの顔面に座った。
「うぉ…ハル、重いからどいてくれ…」
「わわ!ハルちゃんダメっスよ」
「みゃーん」
ハルちゃんを抱き上げて床に下ろす。と、智夏クンの手がそっと私の髪に触れた。
「彩歌さん、全然格好付かないけど、遅めのクリスマスプレゼント、受け取ってくれる?」
「は、はい」
だから、色気がー!!!
~執筆中BGM紹介~
キューピー3分クッキングより「おもちゃの兵隊の行進曲」作曲:レオン・イエッセル様
作者は猫派です。でもイッヌも大好き。特に大型犬が好き。




