痛い
前回に引き続きまたもや遅刻ですね。お詫びに作者とっておきの笑顔を披露します。え?見えてない?心の目で見るのです・・・
カァァン!カァァン!
何の音だ?真っ暗で何も見えない。暗闇の中に何かを打ちつけるような音だけがひたすらに響いている。
音を頼りに歩みを進めると、明かりが見えてきたのでホッとして小走りで向かう。
カァァン!カァァン!
明かりだと思ていたソレは炉の光だった。すべてを溶かしそうなほどに燃え上がった炉の炎は、近づくにつれて汗が噴き出してくるほどに熱い。そしてそんな熱い炉のすぐそばには人がたくさんいた。
・・・人っていうか、小人?しかもおっさんばっかり
頭にタオルをハチマキのようにしばった小っちゃいおっさん達が、必死に熱々の炉から取り出した塊を、数人がかりで持ったハンマーで何度も何度も叩いている。
「あの~何をしてらっしゃるんですか?」
「黙らんか小童がぁっ!いま良いところなんじゃ!!」
「あ、すみません」
明らかに怒鳴ってきた小っちゃいおっさんその1の方が集中を乱す声を出していた気がするのだが、すぐに謝ってしまう日本人の悲しい性が出てしまった。
カァァン!カァァン!
人間用のサイズと思われるハンマーを小っちゃいおっさん5人で持って息を合わせて打ち下ろす様は見事だ。
音をずっと聞いていると、小っちゃいおっさんその2がいつの間にか俺の肩に乗っていた。
「なぁ小僧よ」
「なんですか?」
人のことを小童とか小僧とかなんだこの小っちゃいおっさん達は。だいたい小さいのは俺じゃなくてそっちだろ。年上の彼女ができたからか、最近子ども扱いされることに過剰に反応してしまう。
「ワシも彼女が欲しい」
「知らねー!!」
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「・・・ハッ。夢か」
とんでもない夢を見た。
「うぁ・・・いってぇ」
あの小っちゃいおっさん達がハンマーを振り下ろす音って俺の頭が痛む音だったのでは?ていうか頭の中からハンマーで殴られてるのか、ってくらいに痛い。痛みを感じるのが久しぶり過ぎてこんなに痛いのだろうか。
喉も針で刺されるみたいに痛いし熱あがってるし最悪だ・・・。
家の中は静かなので香苗ちゃん達は家を出たのだろう。俺が熱を出したとわかった後、全員が休んで家に残るとか言い出して大変だったのだ。高校生なんだから一人でも大丈夫だ、と痛む喉でなんとか説得して全員が家を出た音を聞いた途端に力尽きて眠ったのを思い出した。
いま何時だ?カーテンを閉め切っているのでだいたいの時間すらわからない。スマホの画面を起動すると時刻はお昼の11時過ぎ。
スマホにはたくさんの通知が来ていて、一番通知が多かったクラスのグループチャットを開く。
『御子柴大丈夫か?』
『御子柴君生きてる?』
『さっき超ドジっ子元山くんが来年度からうちのクラスに入ることが決まったよ』
元山、という名前に一瞬ピンと来なかったが、超ドジっ子と聞いて思い出した。
『御子柴のこと師匠って呼んでたぞ』
『いつの間に弟子取ってたんだよww』
『俺らも師匠って呼んだ方がいいか?www』
もとやんあの野郎!ポチポチとスマホを操作してチャットを送る。
『俺のことは師匠って呼ばなくていいから元山のことはもとやんって呼んであげて』
いまはちょうど終業式の真っ最中のはずなので、だれからも返事は返ってこない。クラスのグループチャットを閉じた後、香苗ちゃんから通知が入っているのに気づいて、タップする。
『助っ人を呼んでおいたからね。辛かったらちゃんと連絡するんだよ』
助っ人?社長とかかな。まぁいいや。それより汗かいたから風呂に入りたい。
勢いを付けて上体を起こしたら頭がぐらぐらしたが気にせず部屋を出る。風呂に向かってのろのろと歩くと、リビングの電気が付けっぱなしなことに気付いた。
行き先を風呂からリビングに変えて、リビングのドアを開けると空腹を刺激する鍋の音が聞こえてきた。
「あ、智夏クン。もう起きて大丈夫っスか?」
「・・・おかしい。うちで彩歌さんがエプロンを着て台所に立っている幻覚が見える」
やべ、頭に熱が回ってんのかな。小っちゃいおっさんの次はカワイイ彼女が出てきた。
「智夏クン。それは幻覚じゃないっスよ」
「・・・・・・うん?えっ?」
幻覚が幻覚じゃないって否定している。え、じゃあ幻覚じゃないの?そもそも幻覚ってなんだっけ?
手を拭いてパタパタと俺に向かってくる彩歌さんは幻覚にしてはリアルすぎる。そしてその白い手が俺のおでこにそっと触れる感覚も。
「まだ熱いっスね」
「もしかして本物?」
「偽物でも出たっスか?本物の鳴海彩歌だよ」
香苗ちゃんの言ってた助っ人って彩歌さんのことかー!!脳が完全に彩歌さんを本物だと認識した瞬間にズザザー!と後ずさって距離を取る。
「俺いま風邪ひいてるんでダメです。近づかないでください」
「そんなに急に動いちゃ危ないっスよ」
あ、まずい力抜けた・・・。
その場に倒れ込みそうになった俺をすんでのところで受け止めてくれる彩歌さん。しかし体格差もあって一緒に床に倒れ込んでしまった。自分があまりにも情けなさ過ぎて泣きそう。
「ごめん、ごめん彩歌さん。ほんとにごめん・・・」
「もう謝るの禁止っス!ほら、立てる?・・・ヒェ」
「彩歌さん?」
急に変な声を出したかと思ったらすぐ近くに顔を真っ赤にした彩歌さんがいた。どうしようすっごい可愛い。
なんとか近くのソファーに横たわり、彩歌さんが毛布をどこからか取り出してきてかけてくれた。・・・て、これ俺の部屋にあった毛布じゃん。うぅ部屋見られた恥ずかしい。見られて困るようなものなかった、よな?
「あ、あの智夏クン、机の上にあったこれって・・・」
勝手に持ってきてゴメンね、と言って彩歌さんが毛布と一緒に持ってきたのは綺麗にラッピングされた手のひらサイズの箱だった。しかもメッセージカードにはご丁寧に『dear Saika』と書かれている。
彼女宛に買ったクリスマスプレゼントを机の上に置きっぱなしにし、挙句の果てに彼女本人にそれが見つかるとか、ナニソレ。俺もう穴掘ってくる。そんで埋まってくる。
~執筆中BGM紹介~
魔道祖師より「季路」歌手:Aimer様 作詞:aimerrhythm様 作曲:飛内将大様




