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サンタ3人衆

ついに冬瑚の元へー!



香苗(かなえ)ちゃんがズビッと鼻を勢いよく(すす)ると、湿っぽくなっていた空気を取り払う。


「よーし!それじゃあ我が家のお姫様の元へクリスマスプレゼントを届けに行くぞ、サンタ共!」

「香苗ちゃんもサンタだろ」

「そうだった」


不覚、といった様子でハッとする香苗ちゃん。無理に明るく振舞おうとしている気がする。息子二人からプレゼントを受け取った照れ隠しだろうか。




それぞれ冬瑚宛のプレゼントを手に持ち、そろりそろりとリビングを出、ようとしたところで先頭を歩いていた香苗ちゃんが止まる。


「そうだ、写真を撮ろう!」

「「なんで?」」

「冬ちゃんが大きくなったときに、裏でサンタがこんなことしてました!って見せるために!」

「恥ず」


秋人、お前「恥ずかしい」という五文字すら略すのか。それが若人(わこうど)の宿命だとでも言うのか!


「いーからいーから。ほら、サンタっぽい顔して~」


サンタっぽい顔・・・?今は普段と違って眼鏡は外し、前髪はサンタ帽の中に入れているので表情は丸わかりである。俺のイメージするところでは、目が糸になるほどに笑顔が深いおじいさま。それを再現するとなると。


「いくよー!3、2、1」


パシャッ


3人で思い思いのサンタの顔になって写真を撮る。香苗ちゃんのカメラフォルダを3人で覗くと・・・


「「「同じ顔」」」


3人とも同じ顔をしていた。糸目で満面の笑みを浮かべるサンタ×3。コレを数年後の冬瑚が見たらどう思うだろうか。


「冬ちゃんに力いっぱい笑われそうね」

「この写真を引き伸ばして現像されそうだな」

「これを毎年繰り返すのか・・・」


自分たちの弱みを毎年生産していくなんて物好きだな。まぁ、冬瑚が笑ってくれるならいいか。多分他の二人も同じことを考えているのだろう、特に反対の声はあがらなかった。


「よ、よし!じゃあ行こう!」

「「イエス、マム!」」


音を立てずに慎重に歩みを進める。冬瑚の部屋の前に到着したとき、香苗ちゃんがそっと振り向き、小声で言った。


「夏くん行ってー!!」

「えぇ!?」


空いている左手に香苗ちゃんが持っていたプレゼントを渡された。


「兄貴、頼んだ」


ぽん、と秋人からもプレゼントを託されてしまった。


「えぇー?」


ここまでサンタ3人衆としてやってきたのに?ここまで来てソロになれと?しかも2人ともスマホのカメラを向けてきてるし。絶対ビデオ回してるよね、それ。俺を生贄にしたな、こやつら。


「・・・それじゃあ今から行ってきますよ~」

「「いってらっしゃ~い」」


3人分のプレゼントを片手に持って、慎重に扉を開ける。


キィィ


この家ちょっと古いんじゃないんですかね!?慎重に開けたというのに音が鳴りましたけど!


布団の中の冬瑚を見ると、「むにゃみひゃ」と寝言のような何かを言っている。セ、セーフ・・・!


こういうのはスピードが命と相場が決まっている。最短距離で冬瑚に近づき、枕元に3つのプレゼントを置いてくる。後ろでサンタの格好をしながらカメラを回す2人に口パクで


「任務完了」


と伝えると、二人ともサムズアップしてきた。冬瑚が起きないうちに急いで部屋を出ようとしたところで、勉強机の上に何かが置いてあることに気付いた。


透明なナイロンの小さな袋が3つ。暗闇に慣れてきた目で見えた中身はクッキーのようだった。袋と一緒にメッセージカードが添えられていた。


「サンタさん達へ

プレゼントをありがとう。お返しにクッキー作ったから食べてね。

冬瑚より」


と、冬瑚さーん!!!


膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えて、クッキーを手に・・・手に・・・


あの、そこからどいてくれませんかね、ハルさんや・・・


クッキーの袋3つを懐で温めるようにして寝転んでいるのは白猫のハル。ちなみにハルさんは起きている。目もバッチリ合っている。だがどいてはくれない。


横から、上から、下から、正面から手を伸ばせども全部猫パンチか尻尾で阻まれた。しかも背後からは笑いを必死に抑えようとして変な音を出す二人がカメラを回している。


クッキーが取れない。となれば元凶のハルさんを回収する方が早いか。うちに来た頃より大きくなった体を持ち上げる。


「ぐにゃ~」


シーっ!ハルさん、シーっ!素早く秋人にハルをバトンパスし、クッキーを改めて回収する。気分はさながらドラゴンの巣から卵を盗もうとする盗賊だ。


ゆっくりと冬瑚の部屋の扉を閉めて、廊下で長い長い息を吐く。世のサンタさん達はこんな苦労をしてプレゼントを届けているのだろうか。まじリスペクト。


リビングに戻り、香苗ちゃんと秋人にメッセージカードとクッキーを渡すと、二人とも膝から崩れ落ちた。


「娘が尊い」

「妹が尊い」

「全て尊い」


もちろん俺も膝から崩れ落ちた。冬瑚の部屋では我慢したからな。そして全員がハルにしっぽで顔をビンタされた。


各々達成感に浸りながら別れ、そして朝を迎える。リビングには冬瑚の元気いっぱいの声が響いていた。


「サンタさんからプレゼントが届いたの!しかも3つも!!」



~執筆中BGM紹介~

フレッシュプリキュア!より「プリキュア☆ハッピー☆クリスマス」歌手:キュアピーチ(沖佳苗) with ヤング・フレッシュ様 作詞:六ツ見純代様 作曲:James Pierpont様

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― 新着の感想 ―
[一言] 怪しい笑みを浮かべて幼女が眠る寝室へと侵入する男子高校生・・・この上ない通報案件! 約束のクリスマスだし、もう通報してもいいですね?えっ、まだイブだからダメ? サンタさんへのお返しを用意す…
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