プリザーブドフラワー
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水族館のパネルで写真を撮った後、4人で順路を進む。
「あ!コツメカワウソだ!」
「可愛いね~」
「うん。肩に乗せて歩きたい」
「肩こりそうね~」
風の森のナウシアを家で見てから、たびたび冬瑚が動物を肩に乗せたいと言っている。わかるよ、その気持ち。俺はあの空飛ぶ機械に乗ってみたい。
イルカショーを見て興奮したり、ドクターフィッシュに手の周りをちょんちょんされたり充実した時間を過ごした。
最後は深海魚コーナーで、そのフロアはまるで夜のように暗かった。こういう所でこそ子供は迷子になるんだ、冬瑚としっかり手を繋いでおこー・・・っと?
あれ、誰もいない。おかしいな。さっきまでは一緒にいたのに。
「ねぇねぇこのクラゲ可愛いね!」
「そうだね・・・ん?」
横から腕をポンポンと叩かれ、聞き覚えのある声が聞こえたためつい反応してしまったが、冬瑚や香苗ちゃんの声ではなかった。
「あれ、香織?」
「へ?・・・ち、ちにゃ、智夏くん!?」
「はい、智夏です」
俺のことを誰かと間違えて話しかけてきた人物はクラスのマドンナ的存在、花村香織だった。
「智夏くんなんでここに!?」
「なんでって・・・海の生き物たちを見に、かな?」
それ以外の目的で水族館に来る人ってあんまりいないんじゃないか?俺の解答はどうやら香織にとってはゼロ点だったらしく、周囲に配慮して小声で混乱している。
「そうじゃないよ!そういうことじゃなくてね!」
違うのか・・・あ、水族館に来た理由が知りたいのかな。それにしても今の俺って迷子なんだろうか。この歳で迷子って貴重な経験だな。
「妹のリクエストで海に来て、その帰りに水族館に寄った。って言う解答であってる?」
「そ、そういうことかー!・・・てっきり好きな子と一緒に来ているのかと」
「ん?ごめん聞こえなかった」
「なななんでもないよ!」
ななな?埋蔵金のあのななな?後半ぽそっと香織が喋った内容は声が小さすぎて聞き取ることができなかった。
「香織はどうしてここに?」
「私は中学の時の友達と一緒に来たんだよ。・・・彼氏とかじゃないからね!!!大事なことだからもっかい言うね!彼氏じゃないからね!」
「は、はい」
ずずいっと顔を近づけて、なぜか「彼氏じゃない」を強調する香織。学校で俺が「香織、彼氏いるってよ」って吹聴して回ると思われたのだろうか。そんなことしませんぞよ。
もしもこの場に突っ込み属性持ちがいたら、ハリセンで智夏の頭を叩いて「彼氏がいるってお前に勘違いさせたくないから強調したんだよ!!」と叫んだことだろう。
「「・・・」」
妙な沈黙が落ちた。自然と目は水槽の神秘的なクラゲに吸い寄せられる。そよそよと風にあおられるかのように揺蕩うクラゲは夜空にそっと灯る星のように綺麗だった。
「綺麗」
「綺麗だね」
香織と思わず言葉が重なった。それほどに綺麗だったのだ。
「そこは「君が綺麗だ」って言わないとだめだよ夏兄」
「ううううわわわわ!!!」
「お姉さん大丈夫?」
ひっそりと背後に現れた冬瑚に香織が腰を抜かしたので咄嗟に背中を支える。冬瑚もそこまで驚かれると思っていなかったようで香織を心配している。
「だだだ大丈夫だよ」
「ごめんね?」
「私の方こそこんなに驚いちゃってごめんね!って智夏君ごめん重かったよね?!」
「いや全然。妹がごめんね」
俺が支えているのに途中で気づいて慌てて飛びのいた。女子のみなさんはよくご自分のことを重いとかおっしゃいますがそんなことはありませんよ。それはもう羽のように軽いです、えぇ。
「かーおーりーどこー?」
「あ、ナオちゃん」
香織を探す声が聞こえてきたので、ここで別れることにする。
「それじゃあ終業式で」
「うん、またね」
お互いに手を振ってそれぞれのグループに合流した。秋人から開口一番に
「その歳で迷子とかヤバくないか?」
と真顔で言われてしまった。とりあえず「俺もそう思う」と本心を告げておいた。素直、だいじ。
「冬瑚が手を握ってあげましょう」
「ありがとうございます」
「うむ!」
水族館から帰り、家までヨシムーに送ってもらった。そしてヨシムーも加えて5人で晩御飯を食べ、微妙に秋人とヨシムーの距離も縮まった所でヨシムーは帰宅。それぞれお風呂に入り、こっくりこっくりと舟を漕ぎだした冬瑚に就寝を促した数時間後。
日付は25日。クリスマス当日である。
香苗ちゃんがどこかから用意したサンタ服に身を包み、3人のサンタがそれぞれが用意したプレゼントの包みを持つ。
「さてサンタ諸君。まずは君たちに香苗サンタからプレゼントです!」
受け取った小包を開けると、そこには以前リクエストした通りの参考書が入っていた。しかも高校で使っている教科書に沿った内容の物だった。どこでリサーチしたのだろう。
「ありがとう香苗ちゃん」
「むふふ」
秋人が受け取ったプレゼントはシリコンスチーム鍋とシリコン素材のお弁当用のカップだった。
「シリコンのカップ、前から欲しいと思ってた。から、ありがと」
「ぬふふ」
「さっきから笑い方変だね」
「いや~我が子がかわいくってね」
堂々と言ってのけた香苗ちゃんの言葉を聞いた俺たちが赤面した。赤いサンタの格好をした3人がなにをやってんだか。
なんとか気を持ち直して、隣の秋人と目を合わせて、タイミングを合わせる。
「智夏サンタから香苗ちゃんへクリスマスプレゼントです」
「あ、秋人サンタからも」
自分で「秋人サンタ」というのは恥ずかしいのか、少しつっかえながら秋人と2人で後ろに隠しておいたプレゼントを香苗ちゃんに渡す。
「私にも用意しておいてくれてたの?ありがと~!!」
男2人で悩みに悩んだ結果、花屋で偶然見つけ一目惚れしたコレを渡すことに決めたのだ。
「キレーだね。これ、プリザーブドフラワー?」
「そうだよ」
ピンクとオレンジ、そして緑のバラが上品にまとめられたプリザーブドフラワーを香苗ちゃんに贈った。
ピンクのバラには「暖かい心、感謝」、オレンジのバラには「信頼、愛情」そして緑のバラには「あなたは希望を持ち得る」という意味があるんだとか。
香苗ちゃんの目に光るものを見つけたが、黙っていることにした。まるで赤ちゃんを抱くように優しくその腕に包み込んで、香苗ちゃんは俺たちに言った。
「ありがとう。大切にするね」
お互いにプレゼントを交換し終わったところで、本命の元へ向かう。目指すは我が妹、冬瑚の部屋!そして我々サンタのミッションは冬瑚に気付かれずにプレゼントを部屋に置いてくること!!!
~執筆中BGM紹介~
灰と幻想のグリムガルより「knew day」歌手:(K)NoW_NAME様 作詞:eNu様 作曲:R・O・N様
読者様からのおススメ曲でした!
プレゼントの包みを開けるときって性格が出ますよね。ちなみに智夏はなるべく丁寧に素手で剥がす派(ただしちょこっと破ける)、秋人はカッターでテープを切って包みをノーダメージで開ける派です。作者は豪快に破る派。




