クリスマスの前の日
今回ついにあの人たちの関係が動く、かもしれない…!
期末試験最終日を終えて、迎えた24日のクリスマス・イヴ・・・の朝。
「ほはよ~」
あくびをしながら、両手に白猫のハルを抱きしめてリビングに入って挨拶をする冬瑚。学校は終業式の日まで休みなので普段よりゆったりとした起床である。
「おはよ、冬瑚」
「はよ」
「冬ちゃんおはよ~」
リビングには既に冬瑚以外の3人が揃っていた。これはかなり珍しいことであり、冬瑚も寝惚け眼で驚いている。
四人そろっての休みの日がそもそも珍しいうえに、冬瑚よりみんな早起きなんて初めてのことだもんな。
「冬瑚、朝ごはん。ほらハルも」
いつの間にかご飯を茶碗に盛って机に準備していた秋人まじ良妻。ハルの分の朝ごはんもきっちりと用意してある。
「みんな今日はどうしたの~?」
ハルを床に下ろして自分の席に着き、朝ごはんを頬張りながら早起きの理由を問う冬瑚。
「冬ちゃんが朝ごはん食べ終わったら発表します!」
「え~何かな~?」
「しっかり噛んで食べろよ」
思いがけず4人揃ったことに喜びを隠せない冬瑚は朝ごはんを食べながら器用に頬を緩ませている。
秋人お母さん監修のもと、よく噛んで食べ終えた朝食の食器を片したあと、ソファーの上に座りながら冬瑚を手招きする。
とことこと歩み寄ってきた冬瑚をひょいと持ち上げて自分の膝の上に座らせる。あ~温かい。
「冬瑚、今日は何の日?」
「クリスマスの前の日!」
「正解!今日はクリスマス・イヴだね」
よく言えました、と冬瑚の頭を撫でる。冬瑚は「うへへ」と蕩けて頭を撫でられるがまま。こんなに警戒心が無くてこの先大丈夫なんだろうか。知らない人についていったりしないか心配である。
「冬ちゃんどこ行きたい?」
「ま、まさか・・・!」
香苗ちゃんがニンマリと笑いながら冬瑚に悪魔の質問をする。
「冬瑚が行った場所にみんなで行ってくれるの!?」
「ふっふっふっそういうことさ!さぁ望みはなんですか?冬瑚お嬢様」
「え、えと、じゃあ、う~ん・・・あ!」
うちのお嬢様が捻りだした行きたい場所を聞いたとき、3人で顔を見合わせた。
ザッパ~ン!!
「海だ~!!!」
はい、ということでやって参りました海!こんな寒い時期にわざわざ海に来る人なんてそうそういないだろうと思ってやってきてみれば、夏ほどではないにしろぼちぼち人がいた。
波の音を聞いた途端に走り出した冬瑚を急いで追った秋人たち2人の背中を香苗ちゃんと、あともう一人と見守る。
「若いもんは元気でいいですねぇ」
「高校二年生の若造が何を言っているの」
「高校生は海見たら走りだすっていう習性があるんだろ?」
「そんな習性俺は持ってないですよ、吉村先生」
「学校外で先生はやめろ」
「じゃあヨシムーで」
冬瑚が海に行きたいと言ったとき、さて足はどうしようか、バスで行こうか電車で行こうかと悩んだとき、香苗ちゃんがブラックな笑顔で「ちょっとアッシー君呼ぶから待っててね」と言ったのだ。そしてやって来たのがなんと俺のクラスの担任である吉村先生だったのだ。香苗ちゃんと吉村先生は高校の同級生であり、バンドを組んでいたこともあるそうな。
それにてもこの2人、なぁんかいい感じじゃこざいやせんか?
「おじいちゃん2人は置いて私も若者に混ざって来よ~っと」
「人をアッシー君にしておいておじいちゃんとか、香苗は相変わらずだな」
香苗ちゃんが波打ち際で遊ぶ冬瑚と秋人と合流したのを見ながら、男同士、ぽつりぽつりと語りだす。
「香苗ちゃんにアタックしないんですか」
「しない・・・いまのところは」
「煮え切らないですね」
「大人ってそういうもんだ」
「俺の担任をしてるからですか?」
「それもあるな」
昔からの恋とはいえ、生徒の保護者に手を出す構図は世間が許さなさそうだ。
「俺が卒業するまで見てるだけですか」
「そのつもりだったんだがな・・・こうしてひとの気も知らずに向こうから引きずり込んでくるし」
「まぁ、香苗ちゃんですから」
「だな」
いまヨシムーと話しているのは、教師と生徒の関係ではなく、なんというか、再婚相手とその連れ子の会話、みたいな?うまく表現はできないが険悪な雰囲気でないことだけは確かである。
「俺たちは、邪魔ですか?」
「さぁな。一緒に暮らしてみねぇとわかんねーなー」
「それもそうですね。そもそも香苗ちゃんがOKしてくれるとも限らないわけですし」
「そうなんだよな~」
「協力はしませんから」
「ガキのお節介なんざいらねーよ」
素直に頼めば協力してやらないこともなかったかもしれないのに。大人って面倒な生き物だな。
「俺は香苗ちゃんの味方ですから」
「知ってる」
「泣かせたら許しませんよ」
「どう許さないんだ?お前絶対ぶん殴るとかできないタイプだろ」
「そうですね。向こう一週間足の小指をぶつけ続ける呪いはこの前かけましたし・・・」
「あれやっぱりお前か!」
「しょうがないので今度はドアノブを触るたびに静電気が起きる呪いでもかけることにします」
「おっかねぇな」
父と息子の会話ってこんな感じなんだろうかと、ふと思った。普通の家族とは、だいぶ違う形だろうけど。だけど未来を想像すると笑いあってる姿しか見えなくて、俺は気恥ずかしさを紛らわせるように少し乱暴に立ち上がる。
「行きましょうか」
「え、俺も?」
「将を射んとする者はまず馬を射よ、って言うじゃないですか。まずは冬瑚や秋人に気に入られた方がいいかもですよ」
「お前さっき協力しないって言ったじゃねぇか」
「これは強力じゃなくてアドバイスです。・・・それに、男では多い方がいいかと思いまして」
「え、ツンデレ?」
「なんとでも」
この日からたまにヨシムーがうちに遊びに来るようになったのはまた別のお話。
~執筆中BGM紹介~
殴る女より「終わりなき旅」歌手:Mr.Children様 作詞・作曲:KAZUTOSHI SAKURAI様
読者様からのおススメ曲でした!
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作者のパソコンがイカレポンチなのか、バグなのかよくわかりませんが、感想返信がうまくいきません。返信に時間がかかってしまい大変申し訳ございません。




