ブーメラン
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今回は主人公の弟、秋人視点でお届け。
12月の後半に差し掛かろうかという今日この頃。僕の通う中学校と兄貴の通う高校は同時に期末試験期間を迎えている。試験期間中は兄貴の仕事もお休みをもらえるため、普段は家で勉強したりしているのだが、今日は放課後に兄貴と待ち合わせをしてとある場所に来ていた。
ごくり、と生唾を飲む。
「秋人の同級生の子が言ってたのって、このお店?」
「そう、だと思う」
目の前にはキラキラふわふわきゃぴきゃぴなファンシーショップ。僕と兄貴は冬瑚のクリスマスプレゼントを買いに、普段だったら絶対に立ち寄らないようなこの男子禁制感が半端ないお店までやって来たのだ。
「じゃあ入ろうか」
「待て待て待て待て!」
「えぇ?」
なんの躊躇いもなしにそのまま突撃しようとした兄貴を急いで制止して、ずるずると建物の脇に引きずる。
「コンビニに入るわけじゃないんだぞ!」
「うん?そうだね。ここファンシーショップだし」
「わかっててそれなのか!?」
「えー?何に怒ってるんだよ秋人」
この兄には羞恥心というものがないのか!?女の子やら女性やらしかいないお店に男が堂々と入れるわけないだろうが!
「そんなのTシャツ短パンでアマゾンに突入するようなもんだぞ!」
「いやここ冬の日本だけど」
「そうだけど、そうじゃなくて!!」
「?」
僕が変なのか?嘘だろ?あんなファンシーなショップに男子だけで入って無傷でいられるわけがない!あれやこれやと脳内で色々考えているうちに兄貴がポンと僕の両肩に手を乗せてキリッとした表情で言った。
「秋人、男なら覚悟を決めろ」
「あ、兄貴」
「冬瑚のために可愛いの買うんだろ?」
「・・・そうだな」
兄貴に諭されたのはなんとなく居心地が悪いが、言われたことはまともだと思う。だから覚悟を決めていざ、ファンシーショップへ!!
女性たちの賑やかな声に混ざって、コソコソと話す声が聞こえてきた。それは決して悪口ではない。悪口じゃないのだけども。
「ねぇあの男の子二人」
「兄弟かな?弟さんの方顔赤いね」
「かわいいね~」
かわいいってなんだよ!?っていうか女子のコソコソ話は大抵筒抜けなんだからな!!自分が思ってる以上に女子の高い声は聞こえやすいんだぞ!
「可愛いって言われるくらいならダセェって笑われた方がマシだ・・・」
「そういうものか?」
「兄貴にはわかんねぇよ」
「あ、今バカにされたのはさすがにわかったぞ」
女性用に作られているからなのか、それともたくさんの商品を並べたいという店側の意思なのか、商品が所狭しと並べられて狭い通路を兄貴の後ろに付いて進んでいく。弟としては兄の背中についていくこの構図はなかなかに許容しがたいものがあるが、背に腹は代えられない。それにしても、兄貴の身長はいつになったら追い越せるだろうか・・・
「わぷっ」
「あったぞ」
いきなり兄貴が立ち止まったので、その背に鼻からぶつかってしまった。ひりひりする鼻をこすりながら兄貴の背中から顔を出して指さす方を見る。
「ほんとだ」
「じゃ、俺は自分の買い物してくるから」
「・・・サンキュ」
「おう」
去り際に頭を一撫でされた。こういう所で僕はまだ子ども扱いされているんだな、と歯がゆくなる。まぁ、現状この有り様なわけだが。それでもいつか、兄貴の背を越しておっきくなってやる。
冬瑚へのクリスマスプレゼントを選んだあと、一目散にレジに向かい、自分史上最速で会計を終えて店を出る。レジから店の出口に向かう途中で何かを見て悩んでいる兄貴の姿を見つけたのでとりあえず店の外で待つことにする。
・・・あの雲イワシに似てるな。明日は夕飯にイワシでも出そうかな。
ぼーっと空を見ながら明日の夕飯について考えているとき、ふと冬瑚の声が聞こえた気がして視線を地上に戻す。
今日は冬瑚は遊びに行くと言っていたのでこんな場所にいるはずはない。きっと聞き間違いだ。そう思ったが、なんとなく周囲を見渡す。
「・・・・・・冬瑚?」
毎日見ている金髪が人の隙間から見えた。そのまま目で行方を追おうとしたところで、肩を叩かれた。
「秋人お待たせ。ってどうかしたか?」
「冬瑚がいた」
「ここに?見間違いじゃなくて?」
「僕が冬瑚を見間違えることなんてない」
「愚問でした」
自分の妹を見間違えるとかありえないだろ。寝惚けたことを抜かす兄貴は放っておくことにする。見える範囲から冬瑚の姿は消えてしまったので、冬瑚が向かった先へ行ってみる。
「たしかこの辺りで・・・あ、見つけた」
「ちょっとストーカーっぽいと思ったのはお兄ちゃんだけかな?」
「冬瑚が妹かも、って知った時にこっそり冬瑚のコンサートに行ってた兄貴も大概だろ」
「それブーメラン」
そーだよ悪いかよ。僕も姫野に頼んでコンサート見に行ったさ。結局は同じ穴の狢だ。自分は違うなんて思ったら大間違いだからな。
「こんなとこまで冬瑚一人で来たのかな?」
分が悪いと悟ったのか、泥試合だと今さら気づいたのか、兄貴があからさまに話題を逸らしてきた。
「一人・・・じゃ、ないな。誰かいる」
「どれどれ?」
冬瑚が、男と、いる。しかもあの制服は兄貴の高校と同じもの。つまり!
「犯人は高校生だ!」
「違う違う。犯人じゃなくて、あれは俺の友達の田中」
「は?友達?兄貴の友達がなんで冬瑚と一緒なんだよ」
わけわからん。しかも冬瑚、なんだかそわそわしてないか?
「冬瑚が田中に一目惚れしちゃったから?」
「・・・」
「ちょ!首締まってる!無言でお兄ちゃんの首を絞めるのはやめて!!」
は?一目惚れ?誰が?冬瑚が?は?・・・・・はぁ?
「兄貴はなんでそれを知ってて黙ってたのかな?」
「おーい秋人くーん!?世界が揺れてるぅぅぅ!!」
兄貴の制服のネクタイを力いっぱい引っ張ってガクガクと揺さぶる。
「僕は認めないからな!冬瑚にはまだ早い!」
「それは俺もそう思うぅぅぅぅ!!」
兄貴を揺さぶることに集中していたせいで、その日は冬瑚を見失って終わってしまった。
~執筆中BGM紹介~
灰と幻想のグリムガルより「seeds」歌手:(K)NoW_NAME様 作詞:eNu様 作曲:Shuhei Mutsuki様




