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冬に人気のあの曲

久しぶりに12時に間に合いませんでした。ごめんなそん。




彩歌さんが家に来てから数日後。俺、香苗ちゃん、秋人のそれぞれでプレゼントを用意することを決め、各自準備に取り掛かっている。


あの日、彩歌さんを香苗ちゃんが送って行った後、俺たちはまだまだ遊び足りないといった様子の冬瑚を寝かしつけて、香苗ちゃんの帰りを待っていた。そして帰ってきた香苗ちゃんから冬瑚の願いを聞いた。


『みんなに一緒にいてほしい』


本人は我が儘と言っていたこの願いを聞いた瞬間、俺たちは何が何でもクリスマスは冬瑚と一緒に過ごす事を決めた。例え槍が振ろうとも、空から女の子が降ってこようとも。まぁ、女の子が空から降ってくるなんてどこの天空の城だって話だが。


話が脱線したが要するに、クリスマスを家族で過ごすことは俺たちサンタに与えられた試練なわけである。俺と秋人は学校が休みなので今のところは大丈夫だが、問題は香苗ちゃんである。年末は社長の手伝いで色々と雑務が回ってくるらしく、毎年かなり忙しいらしいのだ。え?恋人と過ごしてたんじゃないのって?本人曰く「恋人より仕事ばっかり優先してたら誰もいなくなっちゃった~」って。


俺たちが香苗ちゃんの結婚の機会を奪っていたなら大変申し訳なかったのだが、その心配は無用だったらしい。それに、香苗ちゃんには・・・







「あ!夏兄!来たよ!津麦(つむぎ)ちゃんとお兄さん来たよ!」


冬瑚、嬉しそうだなー。それは親友の津麦ちゃんが来るからかい?それとも初恋の君である田中が来るからかい?お兄ちゃんの心境はとても複雑だよ。


いつもは下ろしたままの綺麗な金髪を今日に限って三つ編みにした理由はあえて考えないようにしとくよ。


「いらっしゃ~い!!津麦ちゃん、お兄さん!」

「冬瑚、さっきぶり!」

「こら津麦。きちんと挨拶しろ」

「お邪魔します!」


早速お兄ちゃんっぷりを発揮した田中と元気いっぱいの津麦ちゃんを、走って玄関まで迎えに行った冬瑚に遅れて迎える。


「いらっしゃい」

「しばちゃん先生!今日からよろしくおねがいします!」

「はい。こちらこそよろしくね」


田中の妹、津麦ちゃんがサンタさんに望んだ願い事は「ピアノを習いたい」だった。それを聞いた田中は「絶対3日でやめるだろ」と言ってしまったそうで、売り言葉に買い言葉でムキになった津麦ちゃんが「できるもん」と言ったらしい。そこでピアノ経験者の俺が本格的にピアノを習う前に、お試しとして先生を数回することになったのだ。


「あ~えっと、しばちゃんごめん。もう一人見学が増えたんだけど、いいか?」

「それは全然いいけど」


誰が?と聞こうとしたところで、田中の後ろからひょっこり顔を出したのは見覚えのある顔だった。


「しばちゃんお兄ちゃん、お久しぶりです」

征義(せいぎ)君!」

「僕のこと覚えてくれてたんですか?嬉しいです」


可愛いことを言ってくれたのは田中の弟で、津麦ちゃんの双子の弟の征義(せいぎ)君である。冬瑚がうちに来る前に一度だけ、この双子と遊んだとき以来だ。


「征義君もピアノを習いに?」

「ううん。僕は暇だから遊びに来ただけです」

「そっか」


大変素直でよろしい。天パが入っているのか少しふわっとしている髪をぽんぽんと触る。


「それじゃあ移動しようか」

「「「はーい」」」







「これ学校にあるピアノと一緒だー!!」


わー!とはしゃぎながらピアノが置いてある部屋に駆け足で入る津麦ちゃん。小学校のピアノもグランドピアノらしい。


「これ買ったのか?」

「いや、前の住人が置いて行ったらしい」

「へぇ~。じゃ、俺たちはこっちで勉強してるから。津麦のことよろしくな」

「はーい」


部屋の隅にある机を引っ張り出して、征義君と冬瑚の小学校の宿題をこなす姿を見守る田中。


「しばちゃん先生。まずは何をしたらいーの?」

「そうだねぇ。津麦ちゃんは弾きたい曲があるのかな?」

「あるよ!あのね、」


ありのままの姿で大丈夫よ~レリーゴー!


津麦ちゃんのリクエストは冬に人気のあの曲だった。なるほどね。白紙の五線譜を取り出してリクエスト曲のサビを簡単な音だけで構成して音符を書き出していく。


「サラサラ~って書いちゃうんだね。すごいね、しばちゃん先生」

「津麦ちゃんも頑張ればできるようになるよ」

「えー?ほんとかなぁ?」


楽譜を書いている自分の未来の姿を想像したのか、とても楽しそうだ。


「おっほん。それじゃあ津麦ちゃん、音符は読めるかい?」

「読めません先生!」

「それじゃあまずはドから」


小学校の音楽の授業ではピアニカを習っているらしいが、音階はまだ覚えている途中らしい。ドから順に読み方を教えていき、リクエスト曲の音符にドレミを書き込んでいく。妙に字がでかいのが津麦ちゃんらしい。


それから3時間、途中で秋人が作ってくれたクッキーでティータイムを挟みながら津麦ちゃんにピアノを教える。そして帰る頃にはすっかり、


「ねーお兄ちゃん!津麦はやっぱりピアノが習いたい!すっごい楽しいの!!」

「そんなに楽しかったのか?」

「うん!だってね、しばちゃん先生の教え方、とっても優しくてね!とってもかっこよかった!」


田中()征義君()にいかに自分がピアノを習いたいか力説する津麦ちゃんを横目に冬瑚が俺の服を引っ張って、しゃがんで、とせがむ。言われた通りにその場でしゃがむと、冬瑚が耳元でこっそり教えてくれた。


「津麦ちゃんね、夏兄の『たまゆら』の生配信を見てピアノを習いたくなったんだって言ってたよ。夏兄は憧れなんだって」

「憧れ、か」


俺がピアノを習おうと思ったきっかけも、ピアニストの母の姿に憧れたからだったな。ピアニストの母に憧れて始めたピアノは、紆余曲折を経て新しい風に繋がった。


そして新しい風がどこに繋がっていくのか、今から楽しみである。



~執筆中BGM紹介~

アナと雪の女王より「レット・イット・ゴー~ありのままで~」歌手:松たか子様 作詞・作曲:Kristen Anderson-Lopez様・Robert Lopez様 日本語訳詞:高橋知伽江様 

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏君、友人の妹に手取り足取り何をしようとしているのかな? これは通報を・・・と言いたいところだけど、冬瑚ちゃんの願いを叶えるためにも自制せねば。 ピアノというとユーチューバーが目立ってます…
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