威嚇
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今回は彩歌視点で進みます!最後だけ智夏くんに戻ります。
ぐつぐつぐつぐつ
わぁお鍋が美味しそう・・・って純粋に楽しめたら良かったっスけど、そんな鋼の心臓を生憎と持ち合わせてはいなかったのが悔やまれる。うっかりすると緊張で心臓が口からまろび出そうになる。うぷっ。
お鍋を挟んでテーブルの向かい側に座るのは、右から順に、
「夏くんの叔母の香苗だよ~香苗ちゃんって呼んで~」
「弟の秋人です。呼び方はなんでもいーです」
「・・・妹の冬瑚、です」
彼氏のご家族勢ぞろいである。香苗ち、ちゃん、はすっごいニコニコというかニヤニヤしていて、秋人クンはちょっと気まずそう。うんうん、わかるっスその気持ち。弟が彼女を突然家に連れてきたら多分私もそういう顔になる!
「冬瑚?お腹痛いの?」
智夏クン、それは絶対違うと思う。
現在小学二年生だという冬瑚ちゃん。金色の髪に青色の瞳が眩しい、お人形さんみたいに可愛い女の子っス。でも、お人形さんみたいな笑顔、ではなくて、今はぎゅっと口を引き結んで私から視線を逸らさない。その姿はまるで親猫を取られた子猫の威嚇のようで可愛い・・・。
きっと大好きなお兄ちゃんが、どこの馬の骨ともわからない女(私)に取られちゃうかもしれない、と不安になっているのだろう。本人にとっては精一杯の威嚇のつもりなのだろうけど、それすら可愛いのは反則ではないでしょうか。
・・・それにしてもこの家族。顔面の偏差値高すぎではないだろうか。私の彼氏は言わずもがな世界一かっこいいが。香苗ちゃんも相当な美人であるし、秋人クンは智夏クンとはまた違ったベクトルのイケメンさんだし、冬瑚ちゃんはさっき言ったとおりだし。彼氏の家であることも含めて肩身が狭い。
そろそろ口から心臓がポロリしそうだな、と遠い目で思ったところで見当違いな心配をしていた智夏クンが話し始めた。
「みんな、聞いてほしい。真剣にお付き合いしている、鳴海彩歌さんです」
「ご紹介にあずかりました、鳴海彩歌です。声優をやっています」
「一応俺と彩歌さんが付き合っていることは秘密なので、言いふらさないとは思うけど、よろしくお願いします」
ぺこりと二人で頭を下げる。
「秘密ならあんなとこで抱き合ってたらダメでしょ」
「すみません。なんかこう、勢いで」
秋人クンの鋭いツッコミに対して、言い訳にもなっていない言葉をしどろもどろになりながら話す智夏クンに顔が赤くなる。弟さんと妹さんの目の前でなんてこと言うのっ!
「若いっていいわぁ」
「あ、お鍋良い感じだから食べよ」
「いただきまーす!」
なんだろうこのゆるっとマイペース感。さっきまでずっと私を見ていた冬瑚ちゃんの視線が、秋人クンの言葉で一気にお鍋に持っていかれた。
・・・ハッ!ここは一番の下っ端である余所者の私がお鍋の中身を振り分けるべき!おたま、おたまはどこに?
「はい、鳴海さんの分。多かったら少なくするけど」
「あ、いえ、ダイジョブ、です」
「年下だし敬語じゃなくていい」
「わかったっス」
「ス?」
私がおたまを無様に探している間に、彩りよく取り分けられたお鍋の中身が入った器を差し出された。秋人クン・・・!私がスタート地点に立った時点で既に勝負は決まっていたというの!?せめて「私が取り分けますよ」っていうセリフは言いたかった。内心で肩を落としながら御子柴家の良妻賢母に白旗を振る。
「はい、冬瑚の分。お腹痛いなら少なくするか?」
「冬瑚お腹痛くないよ!」
「そっか」
智夏クンと秋人クン、顔はあまり似ていないけど、そっくりな兄弟だったみたい。これは妹は苦労しそうっスね。
「「「いただきます」」」
全員の分が行き渡ったところで、手を合わせていただきますを言う。普段は一人暮らしの分、こうしてみんなでごはんを食べるのはなんだか楽しい。さっきまでは心臓が口から顔を出すかと思ったが、彼らと少しだけでも言葉を交わしたことで緊張がほぐれたみたいだった。
安心してご飯をパクリ。・・・ん!?
「おいしい!」
なにこれおいしい!
「ん。良かった」
「秋人は料理上手なんですよ」
自分のことのように自慢げに話す智夏クンを微笑ましく思いながら、それでも箸は止めない。いや、止まらないと言うべきか。
「これはもう完全に胃袋掴んだわね」
「がっつり鷲掴みされちゃったっス」
「え。秋人がまさかのライバル?俺秋人に勝てる自信まったくないんだけど」
「あちゃ~夏くんそこは「弟だろうが俺の愛しい彼女は譲らねぇ!」くらい言わないと駄目よ?」
「テーブルをひっくり返して?」
「テーブルをひっくり返すなら事前に言ってね。お鍋避難させるから」
「いや、冗談だからね!?」
わいわいと楽しいお鍋パーティはこうしてあっという間に過ぎていった。
夕食をご馳走になったお礼に、せめて皿洗いは、と強引に水場を占拠し、腕まくりをしていたときだった。
「冬瑚がする」
「え?」
「冬瑚が皿洗いするの!」
いつの間にか後ろに立っていた冬瑚ちゃんが私をぐいぐいと隅に押し、シンクの前に立った。それを見かねた智夏クンが冬瑚ちゃんを咎めようとしたのが見えたので、視線でそれを止める。ここで智夏クンが止めに入ったら余計に拗れると思ったのだ。
「智夏クンは向こうで座っててくださいっス。冬瑚ちゃん、一緒に皿洗いしましょうか!」
「・・・一緒?」
「そう、一緒に!」
台所の隅にあった、冬瑚ちゃんのための物と思われる小さな踏み台を持ってくる。
「この踏み台、冬瑚ちゃんのっスよね?料理の手伝いをしてるの?」
「・・・うん。秋兄のを手伝ったりしてるの」
きちんと返事をしてくれるあたり、本当は優しくて良い子なのだ。だからこそ、もっとこの子と仲良くなりたい。智夏クンに似て優しいこの子はきっと、後から私に酷いことをした、と自分を責めてしまうだろうから。そんな思いはさせたくない。
「偉いね。智夏お兄ちゃんとは料理しないの?」
「夏兄は料理ができないの」
「できない?苦手とかじゃなくて?」
「野菜を切ると爆散するの。だから秋兄が”台所進入禁止令”を夏兄に出したんだよ」
「台所進入禁止令・・・ふふっ、なんスかそれ。面白すぎっス」
「でもね、野菜が爆散するならお肉握ったらミンチになるんじゃないか、って秋兄が言い出してね!夏兄に試しにお肉を握らせてみたの!」
「えぇ!?それで、そのお肉はどうなったんスか?」
私が洗ったお皿を冬瑚ちゃんが隣で拭きながら作業を進めていき、全ての皿を洗い終えるときにはすっかり仲良くなっていたのだった。
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「台所から楽しそうな笑い声が聞こえてくるわね」
「何を話してるんだろ?」
「兄貴の馬鹿話だろ」
「ひど!?でもまぁ、そんなものであの2人の仲が良くなるなら安いものだけど」
最初は冬瑚の様子に戸惑ったが、どうやら彩歌さんがうまくやったようだ。居間で香苗ちゃんと秋人と話しながら白猫のハルの喉元をなでる。
「それで?いつから付き合ってるの?」
「・・・言わなきゃだめ?」
「きーにーなーるー!」
「ツキクラのイベントのときにも鳴海さんいたよな?そのときから付き合ってんの?」
「秋人も興味あるんだ!?意外だなー」
「そりゃ、まぁ、人並みには」
のらりくらりと2人の追及を躱していると、仲良く手を繋ぎながら台所を出てきた冬瑚と彩歌さんを迎えるのだった。
~執筆中BGM紹介~
ひみつのアッコちゃんより「すきすきソング」歌手:水森亜土様 作詞:山元護久様・井上ひさし様 作曲:小林亜星様
読者様からのおススメ曲でした!
前回作者の走るお話をしましたが、読者様のY様から頂いた走る話が面白かった・・・良い子は真似しちゃだめなやつ!




