風を切って
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今回、主人公走ります。ちなみに作者が最近走ったのは・・・あれ?最近走った記憶がないぞ?
ドジっ子もとやんから「弟子にしてください」と言われ、思わず逃げてしまった。この現代社会で、男子高校生に弟子入りを志願する人なんているでしょうか?いや、いない。そんな人がいたら弟子入りするね。あ、ここにいた。
「・・・声、聴きたい」
精神的に疲弊しすぎて、心が癒しを欲している。彩歌さんの声が聴きたい。電話をかけてもいいだろうか。いや、でも仕事中だったら迷惑か?
うだうだといや、でも、を繰り返しながら迷っていると、途中から悩んでいることにすら面倒になってきた。・・・よし、かけよう。
スマホをカバンから取り出す。何度か画面をタップすると、コール音が聞こえてきた。
『智夏クン?どうかしたっスか?』
「これといって用はなかったけど、声が聴きたくて」
『っ!反則っスよ・・・』
「?」
声が急に遠くなってうまく聞き取れなかったが、かすかに聞こえたそれが正しいのならば、返す答えはただ一つ。
「彼氏ですから」
電話の向こうで彩歌さんが何か唸っている声がしたが、この短時間でもう元気が出てきた。彼女は偉大だな。
「彩歌さん、クリスマス空いてます?」
『ごめんなさい、24日も25日も仕事が入ってるっス』
「それは残念。じゃあ23日は?」
『その日なら!空いてるっス!』
俺の質問に食い気味に答える姿を微笑ましく思いながら、約束を交わす。
「デートしよ?彩歌さん」
『喜んで!・・・あの、智夏クン』
「はい」
嬉しそうに返事をしてくれた声とは変わって、真剣な声で名前を呼ばれて思わず「はい」と答えてしまった。
『エレナちゃんからさっき聞いたんだけどね』
「は、はい」
なんだろう、嫌な予感しかしない。
『王様ゲーム、したそうじゃないっスか』
「は、い」
おわかりだろうか。さっきから同じ返事しか返していないが段々と切羽詰まってきていることに。
『何か言うことはないっスか?』
「はいィ!女子の頭を撫でました!ごめんなさい!」
『素直でよろしい。・・・こんなことで嫉妬して、私の方こそごめんなさいっス』
「・・・彩歌さん、今どこ?」
『え?前会った駅の近くっスけど』
「待っててもらっていいですか?」
『・・・うん』
スマホをポケットに突っ込んで、全力で駅まで走る。彩歌さんのことを不安にさせたくない、と思う一方で、嫉妬してくれたことに喜んでいる自分がいる。こんなことを言ったら嫌われてしまうだろうか。
12月の冷たい風を切って彼女の元へ急ぐ。
「智夏クン!」
駅の出口のすぐそこまで迎えに来てくれた彩歌さんの姿を見つけた。そこまで一直線に進み、勢いのまま抱きしめる。
「ごめん、不安にさせて」
「うん」
「あと、嫉妬してくれて嬉しかった」
「う~ん?嬉しいっスか?」
「こうして抱きしめるくらいには嬉しかったです」
電話越しでは得られないこの温もり。心がぽかぽかと満たされていくような幸せな感覚。
「ぅおっほん!うっうん!!」
駅の隅っことはいえ邪魔だったかな、と思い咳払いの聞こえた方に顔を向け・・・
「何してんの?兄貴」
「夏兄がいるのー?秋兄なんも見えないよ。おーい、秋兄~」
そこには中学の制服を着た秋人と、秋人に目隠しされている冬瑚がいた。
「智夏クン?兄貴って聞こえたけど?」
彩歌さんに秋人たちを紹介するのは全然いい。むしろ自慢したいくらいだ。けど、なんだろうこの気恥ずかしさは。弟妹に彼女といるところを見られるこの言い表しようのない恥ずかしさは。弟妹でコレなら香苗ちゃんに見られた日には、
「あらららららら?夏くぅん?」
「うぁぁああ」
ニヤニヤが止まらない香苗ちゃんと、神妙な顔で冬瑚の目を隠す秋人と、視覚を塞がれたことにより状況を理解していない冬瑚と、何が何だかわからず困惑しきりの彩歌さんと、気恥ずかしさが臨界突破してもはや悟りを開けそうな俺。カオス。
「とりあえず、うちにおいで?」
満面の笑みで彩歌さんを誘う香苗ちゃんを見て、断るのは難しそうだと諦める。
「彩歌さん、この後予定ある?」
「いや、ないっスけど・・・あの、もしかして」
「家族です。俺の、家族です」
「あ、え?、あの、その!」
「彩歌さん、落ち着いて?」
香苗ちゃん達と俺の顔を交互に見て顔が赤くなったり青くなったり忙しい彩歌さんを見て、さらにニヤニヤを深める香苗ちゃん。
「まぁまぁ。詳しいことはうちで聞きましょうね~」
そして始まる、ドキドキハラハラの鍋パーティーが。
~執筆中BGM紹介~
「白銀」歌手・作詞・作曲:Eve様
読者様からのおススメ曲でした!
真剣に振り返って最後に走った記憶を辿ってみれば、数か月前にレジにスマホを忘れたことを思い出して走った記憶が・・・




