ドジっ子
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場も温まってきたところで3戦目にいこうとしたところで、鋭い声が割り込んできた。
「試験前に遊んでいるなんて余裕だな」
「ごめん、うるさかっ・・・た?」
すぐに謝ってしまう日本人の悲しい性を発動しながら声のした方に振り返ってみれば、知らない男子生徒が立っていたので思わず疑問形になってしまった。
いや、ほんとに誰だ?
誰かの知り合いかと思い、疑似合コンメンバーを見るも、みんな似たように困惑した表情だった。俺たちの戸惑いなど意に介さずにさらに謎の乱入者は続ける。
「しかも他所の教室で騒ぐなんて非常識極まりな、」
「そこにいるのは元山君かしら?」
他所の教室?ここは俺たちの教室で間違いないんだが。困惑がさらに増大したところで、偶然教室の前を通りかかったカンナが謎の人物、元山氏に声をかけた。
「ん?愛羽さんか」
「この教室で何をしているの?」
「何って、他人の教室で騒ぐ非常識な人たちに注意を、」
「元山君。ここは2年A組の教室よ」
「・・・・・・・・・・ゑ?」
なるほどなぁ。自分の教室と間違えちゃったわけか。そんなおっちょこちょいあるんだなー。ある意味感心しながら元山氏を見ていると、その顔が徐々に赤く染まっていった。
「すっすまない!ここは2年B組だと・・・!見当違いな理由で当たってしまって本当に申し訳ない!」
目つきが鋭くて、一見とても怖い顔をしている元山氏が真っ赤な顔で謝罪してきた。もし自分が彼の立場だったら悶絶するレベルの恥ずかしい勘違いだ。ものすごくいたたまれない。
「気にしてないからいいよ」
「そうそう。ぶふっ。気にすんな」
「ぷぷっ間違いは誰にでもある」
田中と鈴木が思わずといった様子で吹き出しながらフォローを入れる。どちらかというとフォローと言うより止めを刺しているような気がしなくもないが。
「・・・お騒がせしてすまない」
最後にクラス全員にそう言って元山氏は背中を丸くして去って行った。
「クラスメイトがごめんなさいね」
カンナが謝る必要はないと思う。
「元山君はA組に編入しようと頑張ってるの」
「じゃあ来年は同じクラスになってるかもしれないのか」
「えぇ」
俺たちの所属するA組は特別進学クラスと呼ばれている少し特殊なクラスなのだ。A組に欠員が出た場合、特例としてA組の全教科の試験結果の平均を上回る点数を叩き出した他クラスの生徒は新年度からA組に編入することができるという仕組みがある。今年は色々と問題を起こした村上が退学したことにより、A組の編入枠が1人分出た。そのため、来年度に元山氏がクラスメイトになる可能性は十分にある。
「彼がA組に行ってしまったら寂しくなるわね」
「珍しいな。カンナがそこまで言うなんて」
「そうね。だって彼はうちのクラスの”癒し”だったから」
「「「あぁ・・・」」」
超ド級のドジっ子だもんな・・・見守っていたクラスメイト全員が優しい目になった瞬間だった。
生暖かい空気の中、初めての合コン&王様ゲームは幕を閉じた。
その日の放課後。試験期間中はドリボの仕事も休みにしてもらっているため、学校の図書館で一人、勉強をしている。
カリカリカリカリ。ペラッペラッ
この空間にいる全員が勉強していると思うと、自分も勉強しなければという気持ちになってくる。英語の教科書を左手で捲りながら、右手でシャーペンをクルクルと回す。
クルックルックルッ
教科書に書き込みをしようと思い、ペン回しを止めてシャー芯を出そうとしたとき、鋭いペン先が親指に刺さった。
あ、逆だった
シャーペンの向きを戻して改めて教科書に書き込んでいく。一人でドジって恥ずかしくなって、それを恥ずかしがってることにさらに恥ずかしくなるこの現象はなんだろう。・・・・・・勉強しよう。
誰にも見られていないことにホッとしていたとき、その一連の流れを見ていた人物がいたことを知るのはこのすぐ後のこと。
勉強に一区切りついて帰路に就くため荷物をまとめて図書館を出ると、後ろから声をかけられた。
「すみません」
「はい?・・・あ」
そこには昼休みにドジっ子ぶりを発揮してくれた彼が立っていた。えっと、名前、名前・・・もと?もと・・・なんだっけか。名前憶えるの苦手なんだよな。
「突然ですが、僕を弟子にしてください。師匠」
「・・・・・・うん?」
幻聴ですかね?勉強して疲れてんのかな。弟子とか師匠とか言われた気がしたんだが。思わず一歩下がる。
「えっと・・・もと、もとやん」
「元ヤンキーみたいな呼び方をしないでいただきたい。元山蒼穹です。蒼穹と書いてそらと読みます」
「ご丁寧にどうも。御子柴智夏です・・・あの、弟子って?」
頭の中で「弟子」と「師匠」がぐるぐる回って思考がまとまらない。
「さっき見てました。ペン先が指に刺さっても、表情一つ変えずにそのまま何事も無かったかのように勉強を続けて、」
「あれ見られてたんだ!?」
うわ、恥ずかし!誰も見てないしセーフとか思ってたのに。
「あれ僕もよくやるんです。そのたびに恥ずかしくなる。だが、師匠は痛がる素振りどころか恥ずかしそうにもしなかった」
「師匠呼びやめなさい」
まぁ、痛みは感じない体質なんで。表情は眼鏡かけててわかりづらいだけなんで。
「僕もそんな強さが欲しいんです。だから弟子にしてください、師匠!」
「弟子は受け付けてないです!それじゃ!」
脱兎のごとくその場から離脱する。あのドジっ子、ヤバい。
~執筆中BGM紹介~
炎炎ノ消防隊より「veil」歌手・作詞・作曲:須田景凪様
もとやんの名前の由来は感想欄でお世話になっているT様だったり。




