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液体X

今回からまた本編に戻ります。




駅のど真ん中で立ち往生するわけにもいかないので、俺、彩歌(さいか)さん、エレナの3人で近くのファミレスに入る。


俺の横に彩歌さんが座り、対面にエレナが座る。2人の間の共通人物が俺しかいないため、必然紹介役は俺になる。


「こちらは鳴海彩歌さん」

「初めまして」

「初めましてっス」


お互いにペコリと会釈し、挨拶を交わす。


「そしてこちらがエレナ・トルストイ」

「トルストイさん」

「エレナで大丈夫ですわ」

「では私も彩歌で」


あぁ!沈黙が痛い!本当なら「俺の彼女です」って紹介したいけど!止められてるから言えないし!この場合なんて紹介するのが正解なんだ……?


「彩歌は、チーちゃんの彼女?」


俺がうだうだと悩んでいる間にエレナが爆弾を放り込んできやがった!ここは男の俺がビシッと言わねば。友達って言うのも違うし、知り合いって言うのもなんかな……。


「………大切な人」


なんとか捻りだした答えはなんとも幼稚なものだった。我ながら情けない。きっと呆れているだろうと思って隣の彩歌さんを見ると、その顔は熟れたイチゴのように真っ赤だった。


おっと、その反応は予想外だった。付き合ってることバレちゃいますよそんな可愛い反応してしまうと。


「………大切な人、ねぇ。ふ~ん。へぇ。ほほぉん。まぁこれ以上の追及は止めておくわ。ウサギに蹴られちゃうもの」

「それはウサギではなくて、馬では?」

「日本語って難しいわね」


ウサギに蹴られてもノーダメージじゃないか。肝心なところで日本語を間違って覚えてらっしゃる。


「智夏クン、智夏クン」


机の下で袖をくいくいと引っ張られ、彩歌さんに小声で呼ばれる。


「エレナちゃんは、友達っスか?」


不安げに揺れる瞳に、俺は自分の迂闊な行動に後悔した。彼女がいるのに他の女子と二人きりで歩くとか、普通に考えてダメじゃん……。俺のバカ野郎ぉぉ!


「友達じゃないですただの顔見知りですごめんなさいぃぃぃ!!!!」

「チーちゃん酷い!……けど、彩歌が心配するような関係じゃないことは確かですわ。チーちゃんに対して私が恋慕の情を抱くことはありえません。私には他に好きな人がちゃんといますもの」

「そっか。そっかぁ、良かった」


俺の袖を掴んでいた彩歌さんの手をキュッと握る。


「不安にさせて、ごめん」

「謝らないでくださいっス。勝手に不安になってたのは私の方っスから」

「いやそもそも不安にさせないようにするのが彼氏として……、あ」

「彼氏、ね。予想は付いてたけど。ていうか喉乾いたからメロンソーダ取ってきて~」


そんなにさらっと流すものなのか。俺の彼女事情にそこまで興味ないのか己は。


「はいはいわかりましたよ。彩歌さんは何が飲みたい?」

「え~っとじゃあウーロン茶で!」

「了解」


ドリンクバーに向かい、注文通りメロンソーダとウーロン茶と自分用のコーヒーを注ぐ。ファミレスは田中とよく来るのだが、以前に一度田中に受けた嫌がらせを思い出した。あれ、やってみるか。



コップを4つお盆に乗せてテーブルに戻ると、そこにはスマホを突き合わせてキャッキャと楽しそうに笑いあう2人の姿があった。男子三日会わざれば刮目して見よと言うが、女子は3分見ないうちに仲良くなれるらしい。


「お待たせいたしました」

「「ありがとう」」

「ほいよ」


それぞれの前に注文の品を置いていく。そして彩歌さんの前に特製のミックスジュースをそっと置いた。


「この到底飲み物とは思えない液体(エックス)はなんスか……?」

「スペシャルメニューでございます」


液体Xとは、ドリンクバーの全ての飲み物をブレンドした狂気的な飲み物である。苦くて甘くてドロッとしてすっぱくて臭いのだ。


「私はウーロン茶で十分満足なので、液体Xは智夏クンに譲ってあげるっス」


ス―っと液体Xの入ったコップを俺の前に移動させる彩歌さん。


「いやいやいや、俺はもう液体Xを味わってるので。それじゃあエレナにあげるよ」


対面に座るエレナの前にスーッとコップを移動させる。するとエレナがそのコップをテーブルの中央に移動させて、とある提案をしてきた。


「こういうのは罰ゲームで飲むものだと聞いたことがあるわ。ここはひとつ簡単なゲームをして最下位の人がコレを飲むというのはどう?」

「そういうのは言い出しっぺが罰ゲームに当たると相場が決まっているのを知らないのか」

「面白そうっスね。受けてた~つ!」


エレナが何やらスマホを操作して、とあるアプリを起動させた。その名も『ちっちゃいおっさん育成げぇむ』……なんだこれ。


「3分でちっちゃいおっさんをどこまで成長させられるかを競うゲームよ」

「「なるほどわからん」」

「2人とも息ぴったりね。とりあえずやってみればわかるわ。それじゃあ最初は私からやるわね」


と言って無言でスマホをいじりだすエレナ。ただ待っているのも暇なので、なんとなくさっき気になったことを彩歌さんに聞いてみる。


「さっき、エレナと何を話してたんですか?」

「実はこんなものをもらったのですよ」


ニシシと悪戯に笑うと、スマホに入った写真を見せてくる彩歌さん……ってそれ!


「その写真ってまさか!」

「智夏クンの小さいときの写真っス」

「ひぃ!消してください!今すぐ消去してください!」

「や~だ~」


その写真には俺とエレナの2人が映っていたのだが、エレナは満面の笑みで、そして横に立つ俺は号泣してる姿が撮られていたのだ。


「この写真、川に度胸試しで飛び込んだ後に撮ったって聞いたっス。7歳の智夏クンは怖かったのかな?うん?」


くそ、田中にやられたらうざくて速攻でキレるが、彩歌さんがやったらうざ可愛いじゃないですか。反則ですよそんなの。


「……心の準備もなしに川に落とされたので。そりゃ泣きますよ」

「可愛いなぁ。このこの!」


肘でつんつんしてきたので、肘でつんつんし返していると、エレナから


「爆発しろ!」


とありがたい言葉を頂戴した。ゲームの結果が出たようなので見せてもらうと、そこにはスーツを着た『就活に乗り出したおっさん』がいた。比較対象が無いのでなんとも言えないが、これはいい結果なのだろうか。そもそもこのゲームを作った人はどういう想いで作ったんだろ。


次に彩歌さんがゲームをしている間に、エレナに苦情を入れておく。


「人の恥ずかしい過去を晒さないでくれますかね」

「何も恥ずべきことはないよ。チーちゃんの過去はすべて可愛いの一言で片付くんだから」

「それが恥ずかしいと言っているんだけど?」


俺が一方的にエレナを威嚇していると、彩歌さんのゲーム結果が出たようで、画面を見る。そこには『石油王になったおっさん』がいた。


「この3分のうちに何があったんだ……」

「そんな……。上級者でも石油王にまでこぎつける人はなかなかいないのに」

「ちなみに石油王の上は何があるんだ?」

「新世界の神になったおっさん」

「じゃあそれを目指すよ」


彩歌さんからスマホを受け取り、ゲームスタートのボタンを押す。どうやらおっさんの行動を複数あるうちから選択していって、3分のうちにおっさんをどこまで成長させられるかを楽しむゲームらしい。いや全然楽しくはないけれども。


~3分後~


「参りました」


『引きニートのおっさん』という最底辺の結果を叩き出した俺は、2人が爆笑している中で液体Xを飲み干したのだった。


とっても刺激的な味だったとだけ言っておこう。

~執筆中BGM紹介~

ボールルームへようこそより「mix juiceのいうとおり」歌手:UNISON SQUARE GARDEN様 作詞・作曲:田淵智也様

読者様からのおススメ曲でした!


飲み物で遊んではいけません!

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― 新着の感想 ―
[一言] スーパーパワー獲得しそうな飲み物名。
[一言] とりあえず、美女二人と同席している夏君には爆発してもらいましょう。 私は爆弾など作れないので、「ボマー」という言葉を言いつつ触れると爆弾をセット出来る念能力者に依頼しておきました。
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