ようやく
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ちゅーしちゃえよ〜と冷やかしてきた子供達のうち、男の子3人が俺の前に、女の子3人が彩歌さんの前に集まってきた。6人とも冬瑚と同じくらいかそれよりも少し歳上くらいか。
「兄ちゃん達付き合ってんだろ?なんでチューしないの?」
「私たち付き合ってないっスよ」
と言うと、子供たちが「え?付き合ってないの?」と信じられないものを見たかのような目で俺たちを見てくる。そして男子グループと女子グループがなにやら頷き合うと、俺と彩歌さんの腕を引っ張ってきた。
「兄ちゃんは俺たちと来てもらおうか」
「お姉ちゃんはあたし達と一緒ね」
おっと、カツアゲですかい?ってそんなわけないかとセルフツッコミしながら子供たちに導かれるまま、球状のジャングルジムの中に入った。
「兄ちゃんここ座って」
「作戦会議だぜ!」
「僕たちに任せといて」
一体何を任せるんだ?事態がまだ飲み込めていないが、ちらりと彩歌さんの方を見ると女の子たちと土管のような大きめの遊具の中に入っていった。まぁ、楽しそうだったしいっか。
それにしてもジャングルジムの中って狭いな。元々高校生男子が遊ぶように設計されていないので、うっかり気を抜くと頭を鉄の棒にぶつけそうだ。
「兄ちゃんはあのお姉さんのこと好きなんだよな?」
「うん。好きだよ」
改めて言葉にすると実感が沸くというかなんというか。そんな俺の感慨など一蹴するかのような質問が次から次に飛んでくる。
「じゃあなんで告白しないの?」
「好きなら好きって言えばいいじゃん」
「今のよくわかんない状態のままでいいのかよ!」
「よ、よくないです」
子供たちの正論がグサグサグサッと心の柔い部分に刺さる。もしかしなくても今頃彩歌さんもこの質問攻めにあっているのだろうか。
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一方、女子チームの様子はというと。
「ねぇお姉ちゃん。今の時代、女から攻めないと始まらないんだよ」
「今まで自分から攻めたことあるの?」
「さっき見てたけどお兄さんの方から動いてたじゃん」
自分からも積極的に動かなきゃ冷められちゃうよ、と子供たちからありがたいお言葉を頂戴し、彩歌は項垂れていた。
本当にこの子たちの言う通りっス。プリクラのときだって智夏クンが動いてくれなかったらきっと気まずい雰囲気になっていた。自己反省をしている中でとんでもない事実に気が付いた。
「私が智夏クンにドキドキしたことは数あれど、智夏クンが私にドキドキしたことって一度もないのでは!?」
「「「えぇ~?」」」
「それはまずいよー」
見当違いな心配をする彩歌とそれを増長させる子供たちなのであった。
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彩歌にドキドキされっぱなしの智夏はというと。
「僕、彼女いるから聞きたいことあったら何でも聞いてよ」
小学3年生くらいで一丁前に彼女いるんかーい!とか思わなくもなかったが、ここは素直になろう。
「お師匠、この俺にどうかご教授お願い致します」
深々と頭を下げて懇願する。年下相手に何やってんだ、って?恋愛の先達にご意見頂戴するんだから礼は尽くさないといけないだろ。
「うむ。何が聞きたいんだい?」
おぉ!自分よりもはるかに小さい背中から後光が見える。
「告白のタイミングがわかりません」
「あ、僕告白されたことはあってもしたことはないからわかんないや」
ガァーン、と鈍い音が鳴ったがこれは俺の心情を表した音ではなく、後ろにずっこけたときに頭をジャングルジムの棒にぶつけた音である。
「智夏クン大丈夫っスか!?」
「「「おぅわっ!!」」」
「さ、彩歌さん」
いつの間にかジャングルジムの近くにいた彩歌さんが俺の頭の心配をしてくる。・・・この言い方だと俺の頭がおかしくなったみたいだな。突然の彩歌さんの出現に子供たちは驚きながら、じりじりと器用にジャングルジムの隙間を縫って後退していく。
「じゃあ俺たちこれで!」
「兄ちゃん、男は度胸だよ」
「僕たちあっちで見守ってるから!」
と言い残して女子たちが待つ向こうの遊具まで走り去ってしまった。呆然と小さくなっていく背中を見つめていると、背中をトントンと優しく叩かれた。誰に呼ばれたかなんて言うまでもない。
「智夏クン、私はとても大切なことに気付いたっス」
ものすごく真剣な表情で彩歌さんが言うので、子供たちから何か言われたのだろうかと思いながら話の続きを待つ。
「今日一日、いや、今までずっと、私は智夏クンにドキドキさせられるばかりで、智夏クンをドキドキさせてはいない・・・ってなに笑ってるっスか!」
「ふっあははっ、す、すみません。だって、すんごい真剣な表情で何を言うのかと思えば」
「彩歌さんは俺にドキドキしてくれたの?」
「そっそれは、そのぉ、」
「俺もずっと彩歌さんにドキドキしてますよ。きっとあなた以上に」
「っ!・・・本当に?私にドキドキしてくれてたっすか?」
「今もドキドキしてます。彩歌さんの優しい言葉に、俺に向き合ってくれる瞳に、踏み込んで来てくれるその姿に」
「好きです、彩歌さん。俺と付き合ってください」
「わ、わ、わ」
「わ?」
「私から告白しようと思ったのに!!」
ぽろぽろと零れ落ちる真珠のような涙をそっと指先で拭いとる。震えて今にも消えてしまいそうな声に耳を研ぎ澄ませる。一つも聞き落とさないように。
「私、年上だよ?それでも、いいの?」
「年上の彩歌さんに惚れたんです。俺はあなたが良い」
「っ!」
俺の胸に飛び込んでくる彩歌さんを抱きとめる。
「彩歌さん。返事、聞かせて?」
「好き!大好きっス!智夏クンのことが宇宙一好き!」
彩歌さんが潤んだ瞳で俺を見上げてくる。その頬にそっと手を添えて、唇に―――。
「ようやく付き合えたのかよ~」
「兄ちゃん頑張ったな!」
「カッコよかったよ」
「ちょっと男子!今いいところだったのに邪魔!」
・・・・・・・・・子供たちが見てること忘れてた。
~執筆中BGM紹介~
エウレカセブンAOより「アイオライト」歌手:joy様 作詞・作曲:天田優子様




