あまーい!!
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廊下で騒いでいたので一旦全員でレッスンをしていた部屋に戻る。
「なんであのときのイケメン野郎がここにいるんだよ?」
けっ、と吐き捨てながらナンパ野郎こと和馬の兄の颯馬が俺に尋ねてきた。いまさらそこ聞くのか?と思ったが、言うと絶対突っかかってくるので言わないでおく。ったくこの人本当に大学生か?中身中学生とかじゃないの?
「仕事」
「はぁ?仕事ってまだ高校生だろお前」
「じゃあバイト」
「じゃあってなんだ、じゃあって。もっと年上を敬えよ」
人のことをお前呼ばわりするやつを敬う気はない、と自分のことを棚に上げて鼻で笑う。傍から見るとかなり幼稚なやり取りを繰り広げていると、横からこらえきれなくなったような笑い声が聞こえてきた。思わず笑い声の主をじとっと見てしまう。
「ふふ、ごめんなさいっス。智夏クンが男の子の顔をするから、なんか可愛くって。ふふっ」
男の子の顔をすると可愛い・・・?どういうことだろう。どうせならカッコいいと言われたい。ハードボイルド系のアニメで勉強するか。目指せ、ライフルが似合う男!・・・って違うか。
可愛いと言われて複雑な気持ちもあるが、鳴海さんが笑ってくれてるならまぁいいか、とも思ってしまう俺も大概である。
「あまーい!!」
両目をカッと見開いて突然颯馬が叫ぶ。なんだこいつ。情緒不安定か。
「和馬、早く弁当食おうぜ!」
「えー?お兄ちゃんと一緒にお昼食べるの嫌なんだけど」
「お兄ちゃん泣くぞ!?」
可愛らしい顔をくしゃっと歪めて和馬が颯馬を拒否する。俺が秋人に同じこと言われたら本当に泣くかもしれない。いや、反抗期が来た!って喜んじゃうかも・・・いやでもやっぱり悲しいな。
「じゃあまた後でね、智夏お兄ちゃん」
ぐずる兄を引っ張りながら部屋を出て行く和馬。しばらくその背中を鳴海さんと二人見つめていたが、和馬がちらりと俺たちを振り返り、軽くウインクをする。
……あとはごゆっくりってことでしょうか、和馬さん。まじかっけぇっす。うっかり惚れるところでした。
でも参ったな。まだ2人きりにはならないと思っていたのに。改めて鳴海さんを見ると、俺を見ていた鳴海さんと目が合った。驚いた拍子に目を逸らして、また視線を戻す。すると鳴海さんも同じようにまた俺を見てきた。
「今日たまたまこの近くで仕事があって、たまたま智夏クンがここにいるって聞いて。それでたまたま時間が空いたから」
「会いに来てくれたんですか?」
と聞くとショートボブの髪から覗く耳の先を赤くしながら、こくりと頷いた。たまたま、を強調しながら言っていたが、要は会いに来てくれたのだ。嬉しくないはずがない。
「ありがとうございます。わざわざ会いに来てくれて」
「わざわざじゃなくて、たまたまっス!」
「そうですね。たまたまですね」
「もーっ!」
二人でピアノの前にある椅子に隣り合って座る。このピアノの椅子って一人で座ると大きめだが二人で座ると手狭になるんだよな。設計した人は狙ってるのか?肩と肩が触れるかどうかの絶妙な距離。
「次の日曜ですね」
「いよいよっスね」
次の日曜は12月1日。以前鳴海さんに時間をくださいと言った日である。簡単に言うと2人でお出かけだ。
「楽しみですね」
「楽しみっスねぇ。智夏クンのエスコートが」
「おっとプレッシャーが」
「アルパカ並みに繊細っスね」
「アルパカって繊細なんですか?」
「いつか見たテレビでそう言ってたっス」
他愛もないことを話しながら、鳴海さんの指先に自分の指先を重ねる。互いの体温を指先から感じながら話していると、突然部屋の扉が開かれた。
「かつら被ってるの忘れてたから返しに来てやったぞ!」
「「…」」
すくっと立ち上がり、無言で部屋に飛び込んできた颯馬の手にあったかつらを奪い取り、足元にあった段ボールに投げ入れる。
「あ、もしかして邪魔しちゃった感じ?なんつってー」
「そうだよ何邪魔してくれちゃってんのえぇ?俺になんか恨みでもあるの?その無駄にキラキラした金髪、カラスに狙われるといいな!」
「なんの呪いだよ!?」
カラスに狙われる呪いをかけたところで、ちょうどいい時間だと言って鳴海さんは仕事に戻っていった。
その後冬瑚とお昼を食べて楽しみ、(狐面が鼻から上だけになったので仮面を取らずに食事できる)午後からまた子供たちとレッスンをしたのだった。この調子なら近く歌を録ることができそうだ。
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迎えた12月1日。待ち合わせの時間の2時間前に、俺は巷で話題の男性専用の美容室にやってきていた。
「髪は切らずにカッコよくしてください!」
「ヘアアレンジですね~かしこまりました~」
本当は髪も切りたかったのだが、前髪まで切ってしまうと今後陰キャスタイルになれないので、保身のためにヘアアレンジだけをお願いする。ヘタレと笑いたいなら笑うがいい!俺は田中に言われた「女子に追いかけられる」という言葉が怖いんだ!あとは普通に陰キャスタイルが落ち着くというのもある。
つらつらと言い訳を頭の中に並べているが、つまり彼女の隣に並べるような人間になりたいのだ。
「前髪はセンターでわけて、全体は今はやりの柔らかいスパイラルパーマでー」
すぱいらるぱーま?
「柔らかめのワックスで揉みこんで軽く散らしてー」
柔らかめのワックス?
あれよあれよという間に髪形が変わっていき、仕上がった時には周囲からどよめきが起きた。
「ご要望通りカッコよくなりましたよ!これから頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます!」
~執筆中BGM紹介~
心霊探偵八雲より「calm flower」作曲:R・O・N様




