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女神ちゃん

修学旅行編で出てきたあの人が出てくるよ!忘れた方は43話「血の海」にGO!





部屋に一人残り、さっきまで一緒にいた子供たちのことを考える。


『みんな大好き!くだものちゃん!』のキャラクターソングを録るために、5人それぞれの子どもたちに1対1で向き合う。ハルト、衣吹ちゃん、大彌君、冬瑚、そして最後に和馬だ。


皆それぞれに良いものを持っており、これならなんとか冬瑚だけが浮く、ということにはなら無さそうで安心である。


「これも役に立ったな」


そう言って頭の上のもじゃもじゃを触る。やはり子供たちは狐面を被った年上の男が少し怖かったらしく、虹色のアフロのかつらでレッスンしたところ、かなり距離が近くなったように思う。心の中で礼を言いながらそっとアフロを段ボールに戻す。


足元に置いていたかつらが入っていた段ボール箱に視線を落とす。実はスタッフさんからもらったこの段ボールの中には色いろなかつらが入っていたのだ。たまたまアフロが上にあったからそれを取っただけなのだが・・・


「これを取らなくてよかった・・・」


手に取ったのはピンク色の長髪のかつらである。片手でするりと狐面を取って、おもむろにピンク髪のかつらを被る。


この部屋の西側の壁は鏡になっているので、鏡の前に移動してかつらを被った自分の姿を見る。


「・・・ぷっ、全然似合わない」


目の前にはピンク色のかつらを被った間抜けな自分の姿が映っていた。このときかつらを被ったのはほんの気まぐれ。すぐに取ろうとかつらに手を伸ばしたときだった。


乱暴に扉が開かれ、彼女が部屋に飛び込んできたのは。


「ちょっと匿ってほしいっス!!」


肩で息をしながら部屋の中を視線が彷徨い、その目が俺を捉えた。


「・・・?・・・。・・・!」


彼女が何かを言う前に、素早く距離を詰めて「しー」と人差し指を彼女の口に当てる。さっき飛び込んできた時に「匿って」と言ったのは、誰かに追いかけられていたからだろう。


「ここで待っててください」


そう言い残して部屋から廊下に出る。彼女を追いかけているのはどこのバカ野郎だ。


「やっべ、かわい子ちゃん見つけたと思ったら今度は女神かよ。すげーなここ」


金髪のそのチャラそうな口調に服装、嫌というほどに覚えがあった。


「あれ?女神ちゃんどっかで俺と会ってる?」

「誰が女神ちゃんだゴラ」


思ってた以上にドスの利いた声が出た。このナンパ野郎まだ懲りてなかったのか。


「女神ちゃんハスキーボイスってやつ?そこもかっわいーね!」


このふざけたことを言っている男は修学旅行に行ったときに香織をナンパしていた男の一人。そしてすいか役の和馬の兄でもある。たしか大学生だったか。


「あ、わかった。女神ちゃん人見知りでしょ!俺そういうのわかっちゃうんだよね~」

「・・・」


一体なにがわかったのか。というかなんで俺、ナンパされてるんだっけ?えっと、かつら被って、あの人がいきなり部屋に飛び込んできて、誰かに追われてるようだったから俺が対応しようと外に出て・・・


「その髪の色かわいいね!どこで染めたの?まさかの地毛?うける~」

「おい」

「女神ちゃん身長高いよね~何かスポーツやってた系?俺バスケやってたんだぜ!」

「おい。聞けコラ。一人で長々とうるせぇ!」


ナンパ野郎の胸ぐらを掴むと驚いたのか一瞬止まったが、やはりすぐ喋りだす。


「いきなり大胆!肉食系女子ってやつかな?安心して、俺も肉食系!」


今まで俺の話を聞かない人は何人もいたけど、こいつそれ以上!ぶっちぎりの一位!毛嫌いしてる奴にナンパされて鳥肌が止まらないので胸ぐらを掴みながら下から睨み上げる。(残念ながら身長はこいつの方が少し、ほんの少しだけ高いのだ)


「女神やら女子やらなんだよ!俺は男だ!」

「女神ちゃん俺ッ子かぁ~」


おかしい。俺もこいつも日本語を話しているはずなのに、会話のキャッチボールができていない。未知の生命体に遭遇している気分だ。


そもそもなんでこいつ俺のこと女扱いしてるんだ?首を傾げると、さらさらと目の端にピンク色の髪が映った。あ、かつら被ってるの忘れてた。


頭上のかつらをむんずと掴み取り、ぽいっと床に投げ捨て、もう一度ナンパ野郎に言う。


「俺は!お・と・こ・だ!」

「・・・へ?・・・・・・・・・なぁぁああっ!お前あのときのイケメン野郎!」

「お前にお前呼ばわりされたくねぇ。このナンパ野郎が」


いつかの再現のような言葉の応酬を繰り広げていると、俺の後ろの扉からそろりと彼女が顔を覗かせた。それを見てナンパ野郎がぱぁっと顔を輝かせながら近づいていく、ので全力でそれを阻止する。


「なんだよ邪魔すんなよイケメンこの野郎!」

「邪魔するわ!この人は俺の、」


いま、なんて言おうとした・・・?


「この人は俺の、なんスか?智夏クン」


それはもう満面の笑みで目の前に歩いてきた、人気声優の鳴海彩歌(なるみさいか)は言葉の続きを促す。


「俺の・・・」


頭から湯気が出てるんじゃないかと思うほど、顔に熱が集まっている。


「ふふっごめんなさいっス。からかいすぎました」

「鳴海さん・・・」


自分でもどうかと思うほど弱々しい声が出た。あのまま勢いでとんでもないこと叫びそうだったような・・・うぅっ恥ずい。


「あの・・・俺いたたまれないんだけど、どうすりゃいいの」


そういえばこんな奴もいたな。すっかり忘れてた。それにしてもなんだっけこいつの名前?


「たけうま・・・やじうま・・・?」

「それが何を指しているのか知らんが俺の名前は颯馬(そうま)だっ!」


そうそう確かそんな名前だった。


「お前忘れてただろ!」

「必要ないと思って」

「ひでぇ!返せ俺の純情と女神ちゃんを!」

「うるさいなぁ。ほら、お迎えが来てるぞ」


ナンパ野郎こと颯馬の後ろには目をつり上げた弟の和馬がいた。こってり絞ってやれ。


「お兄ちゃん。僕恥ずかしいよ。智夏お兄ちゃんにまた迷惑かけて。こんなに綺麗な人追っかけ回して」

「なんで追っかけ回したって知ってんだ?」

「ほんとに追っかけ回してたんだ」

「げ。カマかけたのかよ~和馬母ちゃんみてぇ」


5歳、いや6歳だったか。小学校入学前の少年にカマかけられる大学生。ないわ~。


「そもそもお兄ちゃんなんで来たの」

「弟が酷い。お前のために弁当届けてやったんだろーがー」

「それはありがと。でもそれとこれとは別。二人にちゃんと謝って」

「え~」


謝罪を渋る兄に弟は切り札を出す。


「本棚の奥、鍵付きの引き出し、クローゼットの最上段」


和馬の言葉に兄の颯馬が目をむく。まぁ、その3つといえば、なぁ?隠し場所だろうな。何がとは言わないが。


「・・・な、なんでそれを!」

「全部捨てられたくなかったら謝って」

「はい!ごめんなさい!」


弟強し。兄の弱点を完全に掌握している。この歳で苦労してるんだな。前まで迷子になって泣いてたのに、大きくなって。およよ、と泣いていると颯馬が気持ち悪そうなものを見る目で見てきたので、さっき被ってたピンク色のかつらを奴に被せて写真を撮ってやった。今後和馬にこの不肖の兄の手綱を握ってもらうため、弱みになりそうなこのかつらの写真を和馬のスマホに送っておいた。



~執筆中BGM紹介~

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!より「ワンダーステラ」歌手:fhana様 作詞:林英樹様 作曲:佐藤純一様

読者様からのおススメ曲でした!

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄の弱み握ってる5,6歳児凄い……!! そして前書きにビビりました。 「血の海」とか言うのあったっけ!⁉ってw
[一言] 子供を恐れさせないためにとはいえ、狐面に虹色アフロなんて通報通り越して黄色い救急車呼ばれても文句を言えない格好で歌う夏君に敬意を表します。筋金入りの幼児マニアですね。 夏君に通報は出来ない…
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