番外編 手紙
長くなっちゃいました。
今回の番外編は智夏たちの母であるマリア視点。最後の方は冬瑚視点です。
『お母さんへ
お元気ですか?冬瑚は元気です。
最近ねこの名前が「ハル」に決まりました。ハルは「もちまる」とか「しらたま」と呼んでいたときは反応してくれなかったのに、「ハル」と呼ぶようになってからは振り向いてくれるようになりました。新しい名前がお気に入りみたいです。夏兄も秋兄も香苗ちゃんも、もちろん冬瑚も気に入ってます。
秋兄も夏兄も全然お母さんに手紙を書いていないみたいなので、代わりに冬瑚がお伝えします。
秋兄は声変わりが来たそうです。夏兄がそれを聞いたとき「お赤飯たかなきゃ!」と言っていましたが、秋兄が「ばくはつするからやめてくれ」と言っていました。お米がばくはつなんてするわけないのに、変なの。と、このときはそう思ったんだ。
秋兄は声が出しづらいみたいで、最近いらいらしてるの。だから何か冬瑚にできることはないかと思って、夏兄と一緒にお夕飯をつくることにしました。作るのは秋くんが好きなギョーザです。夏兄が「手伝うよ」と言ったので「じゃあねぎを切ってね」と冬瑚は言いました。その10秒後、ねぎがばくはつしました。なんでかな?夏兄の手にはばくだんがついてるのかな?
とりあえず夏兄を台所から追い出したよ。秋兄が夏兄を絶対に台所に近寄らせなかった理由がようやくわかりました。でも危ないからって、ギョーザを焼くときは夏兄が横にいたよ。冬瑚より夏兄の方がぜったい危ないと思うんだけどなぁ。
ギョーザはとってもおいしかったよ。いつかお母さんにも食べてほしいな。
冬瑚より』
『母さんへ
冬瑚に手紙を書きなさいと叱られたため、こうして筆を執りました。普段手紙を書くことはないので不思議な感じです。何を書けばいいのかまったくわからないので、冬瑚と兄貴のことを書きます。
冬瑚の手紙にもあったかもしれませんが、声変わりでストレスが溜まっていた僕を見かねた冬瑚がギョーザを作ってくれました。とてもおいしかったです。冬瑚は僕に似て料理が上手な子です。兄貴は相変わらず食材を爆発させてたみたいですが。
兄貴は最近なにかと忙しくしています。生配信?の動画で依頼が増えたとかで、対応に追われているとか本人は言っていましたが、忙しくしている原因は他にもあるんじゃないかと睨んでいます。他には・・・猫のハルに寝ているときに顔面に座られたみたいで、窒息死するかと思ったそうです。それでもどこか幸せそうな顔をしていたので、兄貴にはそういう癖があるのかも。
寒くなってきたので、体調に気を付けて。
秋人』
『母さんへ
冬瑚に可愛く叱られてしまったので手紙を書きます。みんな元気でやってます。強いて言えば、秋人に声変わりが来ました。背もぐんぐん伸びてるみたいで、いつか秋人に身長が抜かれてしまうかもしれません。それはちょっと悔しいので牛乳飲もうと思います。
今度の土曜日に、冬瑚の通う小学校で授業参観があるらしいので、許可がおりたら来てください。ちなみに冬瑚は学校で授業参観があることを教えてくれなかったので、俺たちは授業参観があることを知らないと思っています。来るなら秘密で、サプライズで。
体を大切に。
智夏より』
3通の個性が詰まった手紙を読み終えた、母マリアは担当の医師と向き合っていた。
「ぷっ、あはははっは!ほんとに面白いねぇ!マリアさんの自慢の子どもたち!」
「先生、笑いすぎです」
精神病院の医師である栗井先生は、とても良い人なのだが、笑いのツボがおかしいのが玉に瑕である。
「ぶっふふ、失敬。つい、ね。だって自分のことは触れずに他の兄弟のことを書いているんだよ?上二人は特に。いやぁ本当に似たもの兄弟だ」
そう、自分のことはあまり話さないのは3人とも同じらしく、秋人の近況を冬瑚と智夏の手紙から知るのだ。そのまた逆も然り。みんな自分より他の兄弟に目が行くみたい。そんなあの子たちが可愛くて、そして少し心配だ。
「それで先生。よろしいでしょうか?」
「あぁ週末の外出の件、了解した。授業参観なら男性は少ないだろうし、この文面から察するに、智夏君も一緒に行くのだろう?それなら許可を出すよ」
「本当ですか!ありがとうございます!!」
久しぶりに我が子に会える。それがとても嬉しかった。
授業参観ってどんな服を着ればいいのかしら?やっぱりスーツ?それともお着物?駄目ね。授業参観に行くのは初めてだから何もわからないわ。それに、冬瑚は私が行って、喜んでくれるのかしら・・・?
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「迎えに来たよ」
病院まで迎えに来てくれた智夏は、少し見ないうちに背が伸びたのではないだろうか。それを伝えると、本人は嬉しそうな顔で笑っていた。
「香苗さんは?」
3人がお世話になっている香苗さんにお礼と、初対面の時にすごく失礼なことをしたのでその謝罪をしようと思っていたのだが、肝心の香苗さんの姿が見えない。
「急な呼び出しがあったみたいで。母さんに会えないこと、残念がってたよ」
「そう。香苗さんはいい人ね」
私より年下なのにしっかりと子供たちを育ててくれて、とても優しくて人間ができている。それに比べてなんで私はこんなにダメダメなのかしら。
「そういえば香苗さんも母さんと手紙のやり取りしたいって言ってたよ」
息子の口から飛び出た言葉に驚いた。
「そんな・・・謝罪もお礼も直接言えてないのに、いきなり手紙だなんて、失礼ではないかしら?」
「香苗ちゃんがしたいって言ってるんだから大丈夫だよ」
大丈夫って言ったって・・・。うじうじと考えているうちにいつの間にかタクシーに乗っていた。隣の席で外の景色を眺めている息子の横顔を見る。以前会ったときは眼鏡と前髪で目を隠していたが、今日は前髪をオールバックにしている。我が息子ながらいい男に育ってくれたわぁ。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど」
どうやら見ていたことがバレてしまったらしい。本当はもっと眺めていたかったが、あんまりしつこいと嫌われてしまいそうなので視線を前に戻す。
「学校でモテモテでしょ?」
秋人もイケメンに育っていたが、前の旦那の血が色濃く出ているので日本人顔だ。智夏と冬瑚は私の血が濃く出たようで、あまり日本人っぽくない。
「そうでもないよ」
「ふふっ」
子どもとこういう会話をしたのは初めてだから楽しいわ。智夏は居心地悪そうだけれど。ごめんなさいね。
「それに、俺がモテたいのはたった一人だけだよ」
「まぁ!まぁまぁまぁ!心に決めた子がいるのね!学校の子?あの職場の子?きゃっ!」
「母さん落ち着いて」
年甲斐もなくはしゃいじゃったわ。でも良かった。智夏に大切な人が現れてくれて。とっても優しい表情をしていたもの。きっと素敵な方なのね。
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「冬瑚の家は授業参観に誰が来るんだ?」
お昼休みに津麦ちゃんにそう聞かれた。津麦ちゃんの家族は午前中に来てた。
「来ないよ。だって誰にも言ってないもん」
「なんで言わなかったの?」
「だって・・・」
夏兄は最近忙しそうだし。秋兄は今日学校あるって言ってたし。香苗ちゃんは今日お休みだったけど休みの日は休んでもらいたいし。結局お仕事入って行っちゃったけど。それにお母さんは遠くにいるし。うだうだと言わなかった言い訳を頭の中に並べる。そもそも授業参観に誰かが来たことなど一度もないのだ。家族にどうやって切り出せばいいのかすら、冬瑚にはわからなかった。
授業開始のチャイムが鳴り、陰鬱な気持ちのまま5限目の授業が始まる。授業が始まってしばらくして、教室の後ろや廊下に誰かの親が並んでいた。来るはずないってわかっているのに、誰かが近づいてくるたびにちらちらと見て、そのたびに落ち込んでしまう。
授業に集中しよう、もう後は振り返らないでおこう、と決めたときだった。教室の後ろでざわめきが起きた。思わず後ろを振り向くと、そこにはいるはずのない人たちが立っていた。
「夏兄・・・お母さん・・・」
なんで授業参観があることを知ってたの?どうして来てくれたの?わけがわからず頭の中は混乱しているが、それでも来てくれて嬉しいという気持ちで心が満たされる。小さく手を振るお母さんにそっと手を振り返し、夏兄に「ありがと!」と口パクで伝える。クラスメイト達はそれを見て二人が私の家族だと気付いて騒ぎ出した。
「冬瑚ちゃんのお母さん美人さんだね!そっくり!」
「御子柴のお兄ちゃん超かっこいいじゃん!」
「なんかキラキラしてる!有名人みたい!」
それぞれが騒ぎ出したところで、先生がぱんぱんと手を叩いて皆を注意する。
「ほらみんな!今は授業中だから前向いてー!親御さんにいいところ見せようねー」
「「「はーい」」」
二人が来てくれたんだもんね、冬瑚の頑張ってる姿をちゃんと見てもらわないと!張り切って授業に挑む冬瑚なのであった。
その後2人が帰った後、寂しく思っていたところに学校帰りの秋兄と仕事帰りの香苗ちゃんが来てくれて嬉しかった。今日は最高の一日だった!
~執筆中BGM紹介~
最弱無敗の神装機竜より「飛竜の騎士」歌手:TRUE様 作詞:唐沢美帆様 作曲:矢鴇つかさ(Arte Refact)様
読者様からのおススメ曲でした!




