第七話 これだから王女様は
「それじゃあ、まずは冒険出来るよう防具を整えよう」
「防具…ですか?」
「おう。防具」
ラピスは明らかに不満そうだ。別に今のこいつの格好よりは断然マシだし、安全性も高いのに何が不満なんだ。
「だって…。防具って動きにくいじゃないですかぁ。それに可愛くないですし」
ラピスは防具の文句をグダグダ言ってくる。
えぇ…。防具動きにくいって、慣れればあんなに動きやすいものも無いだろう。てか可愛く無いって、そんな基準で決められたら防具使えねえじゃねぇか。
「めっちゃ可愛いくて動きやすくて耐久力最強な防具って無いんですか?」
「有るわけ無いだろ馬鹿か」
「えぇ…。」
ラピスは見るからに落胆した。
いや何を考えたらでめっちゃ可愛い服で、身を護ってくれると考えたんだよ。
仮にそんなのが有ったとしても、高すぎて買えないだろう。
取りあえず俺は、可愛い洋服を諦めて貰えるような方法をとった。
「選べ。耐久力ゼロだけど可愛い洋服か耐久力は凄いけど全く可愛く無い防具か」
「可愛い装備でお願いします」
うんうん。そりゃそうだよ…な?
あれ、なんか変なこと聞こえた気がするんだが…
「な、なんて言った?今」
「ですから、可愛い装備でお願いします」
嘘だろ?冒険だぞ?下手すれば命が無くなるんだぞ。
それなのにお洒落を選ぶのか?駄目だ、お姫様の感性が分からない。
「な…なぁ、本当に、それで良いのか?死ぬかも知れないんだぞ?」
「それでも私は、服を取ります」
馬鹿だ。こいつは、本物の馬鹿だ。
ま、まぁ良いか。本人のご希望なら仕方がない。
「それじゃあ、買いに行きましょう」
あ、そう言えば。俺は重要なことに気づいてしまう。
「…そう言えば…。お金、無いんだった」
「え!お金って、無くなるものなんですか!?」
は?なにいってんのこの人。お金は無限じゃないに決まってんじゃん。
あ、この人王女様だから節約とか、そう言う考えがないのか。
あーと。今後苦労しそうだな。色々と。
「それじゃあ一体、どうしたら良いのです?」
「その格好のまま行くしか無いんじゃない」
「そんなの嫌です!」
そんなワガママ言われましても、こちらとしても困ってしまいます。
「なぁ、あんちゃん。金に困ってんだろ?それならホラ。やるよ」
先程まで倒れていた男の中の一人が立ち上がり、こちらにお金を差し出した。見るからに巨漢のゴブリンで、いかつい顔立ち。子供がみたら泣き出しそうになるような見た目だった。こいつだけは先程の戦いで一人、全然向かってこない奴がいた。
「ワリィな。話、聞かせて貰ったんだわ。だから、ホラよ」
「聞いてたのは別に構わないが、良いのか?貰って」
中を見てみると、この街での最強武器一個なら買える程の額が入っていた。
「がっはっは!良いってこたぁ。あんちゃん、強いんだな。敵ながら痺れちまったぜ。俺はカイゾウ。宜しくな」
「俺はライト。宜しく」
ライトと言うと、ラピスとカイゾウは驚いたようにこちらを見つめた。
「ライトっていやぁ、お前…まぁ、良いか。嬢ちゃんも良いのに拾って貰ったな!」
「なぁ、カイゾウ。なんでお前は、ガロンの味方をしていたんだ?」
俺はカイゾウに訪ねた。喋ってみて分かる。こいつは良い奴だ。少なくとも、あんなことをするのは腹が立つぐらいは。
「へへ、そう簡単には行かないのさ。この世の中はよ」
カイゾウは一瞬、寂しそうな顔をした。だが、すぐに気を取り直したかのように高らかに笑った。
「取りあえず、俺はあんたの戦いっぷりに惚れたのさ!次は正々堂々、男らしく勝負しようぜ!」
「分かった。約束だ」
俺たちはカイゾウの好意に甘え、お金をいただくことにした。
感謝の気持ちを伝えるとカイゾウは「そんなに感謝されると、こそばゆい気持ちになるな」と言っていた。
「さて、カイゾウから貰ったお金でなに買おうか」
「服!服を買いましょう!」
ラピスがやけに騒がしくこちらに申し出てくる。いや、まじでやかましい。
「分かった分かった。じゃあ行こう」
走っていくラピスを遠目に、俺はゆっくり、のんびりと歩いていった。
「あーと、これも良いなぁ!あ、でもでも、これも可愛いなぁ!ねぇ!どれが似合うと思います?」
「どれでも良い。てか、早くしてくれ。長い」
「そんなこと言われても、考えたいんですもん!どれが似合っているか、文句を言うんでしたら意見をお願いします」
この女、さっきからこんなことばかり言っている。かれこれ二時間は悩んでいるぞ。本当に長い。このペースじゃあ、出発は明日になってしまう。
そう言えば、前世でも王様の命令で王女様の買い物を手伝ったっけ?そのときもかなり待たされてしまったな。やっぱり王女様はどこも一緒なのか。
「あのー、最後に。これかーこれ。どっちが私に似合うと思います?」
そう言ってラピスは、青色のドレス(舞踏館で着るようなしっかりとしたものでは無いが)と白色のドレスを差し出した。
「あー。白」
ラピスは青色の髪の毛の少女なので、それを目立たせる白で良いと思った。
あと純粋に白の服の方が動きやすそう。
「えー。そうですか?私的には青の方がー。白はちょっとねー。ほらぁ、汚れたら目立ちますし」
なんだコイツ。選んであげたのにこの感じ。ていうか何?私的って。それがあるならさっさと選んどけよ。
てか可愛い服は着たいのに汚れたら目立つとかは気になるのね
「えー。じゃあもう青で良いんじゃない?」
「それじゃあどっちでも良いみたいじゃ無いですかー!」
どっちでも良いんだよ。
「うーん。決めました!白にします」
「アー。結局白なのね」
さっきの時間は何だったんだろう。
「はい。私的には青の方が好きなんですが、せっかくライトさんが選んでくれたのですから!」
ラピスは嬉しそうな笑顔をこちらに向けてきた。
喜んでくれたのならまぁ、別に良いか。
「なぁ、あの服1着でなんで全財産無くなるんだ?」
「1着じゃ有りませんよー!汚れても良いように、同じのを5着買ったんです!」
はぁ?おかしいだろおい。てか5着買うなら青と白1着ずつで良かっただろ。本当に無駄が多いな色々と。薬草とか買う予定だったのに。
「ありがとうございました!旅の途中でまた買う機会がありましたら、是非宜しくお願いします」
服を着替え、綺麗な格好になったラピスは別次元の存在かと思ってしまう程に可愛く、美しかった。
本当に。これだから王女様は。