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第六話 勇者

ガロンは気を失った。腹部に刺さっていた剣は切り裂いた時の影響で砕けていた。


ガロン自体としては刺さっていた腹部の傷と<神の鉤爪(ゴットグロウ)>で切り裂かれた後の傷口からは多量の血が流れていた。


その血の色はどす黒かった。これが<死王(デスキング)>の呪い。血がどす黒くなることでうまく血液の役割を果たせなくなってしまう。

放置すると、一時間足らずで死に至るのだ。


まぁ、自業自得だろう。仕方がない。

それにコイツは周りにも被害を与えようとした。

自分だけが正しいと錯覚している。死んで当然のクズだ。


とはいえ苦しみをずっと感じさせるのは辛すぎる。

一思いに、殺してやろう。


奴の前に近づいた時だった。


「術義 <治癒(ナース)>」


みるみるうちにガロンの体が再生していく。気は失っているが、かなり回復したようだ。


「なんで邪魔をしたんだ。ミア」


俺は向こうにいるミアを睨み付けた。遠くからだったが向こうもこちらを睨み付けていた。<治癒(ナース)>はし終わったらしく、こちらに対して戦闘体制をとっていた。


「もう、勝負は終わったんだよ!なのに、殺す必要無いじゃん!」


「違うな。こういう奴は即座に殺したほうが良いんだ。相手のことを考えられない。己がプライドのために周りを犠牲にする。今ここで見逃しても、奴は必ず復讐しにくる。そのとき、犠牲者が出るかも知れないんだ」


「違う…違う違う!誰だって変わることが出来る!確かに、アイツは周りが見えていなかったし、今まで沢山の方を傷つけてきた!でもね、今回のことで弱い人の気持ちが分かったと思う。なのに、殺すなんて…」


ミアの目には悲しみと憎悪、そして恐怖が宿っていた。

それはまるで、怖いものでも見るかのように


「なぁ、ミア。俺は…何に見える」


「…伝説の…勇者」


「…そうか」


ミアがいったおっかないと言ったことを思い出す。

伝説の勇者。人から言われればとても心地の良く、素敵な言葉なんだろう。でも、魔界では違う。伝説の勇者は魔物たちの命を脅かした存在。

涼しい顔で惨殺を繰り返す、化け物のような存在だ。


つまりミアは、俺を化け物と言っているのだ。


「なぁ、ミア。俺がなんでパーティーを組まないって言ったか、分かるか」


ミアは戦闘体制を崩さずに首を横に振った。


「邪魔だからだよ。結局足手まといになるだけなんだ。仲間だなんて綺麗事並べる癖にいざ窮地に追いやられたら仲間を蹴落として自分だけ助かろうとする奴ばかり。馬鹿馬鹿しい。」


「そんなこと…」


「あるさ。信用できないんだよ。誰もな。お前はそう思わないようだが、

俺に言わせればお前も妄言吐いて悦に入ってるようにしか見えないよ。そんな下らないものよりも、言うことを聞くだけの使い捨ての駒になる奴隷のほうが俺にとっては必要な存在だ」



ミアは俺の頬に全力でビンタをした。

ミアは目に涙を浮かべながらこちらをじっと見る。


「最低」


そう言うと、ミアは踵を返していった。


叩かれた頬がジーンと痛んでくる。


叩かれても仕方がない。方便とは言え、俺はとんでもないことを言ったのだから。憎むべき奴隷制度を必要と言い己を傷つけ、彼女を貶すことで、俺を信頼してくれていた彼女の心をも傷つけてしまった。


本当に申し訳無いと思う。だが、後悔はしていない。

彼女を俺から引き離させるためあえて言ったのだから。


「う…ぐ…。ガハッ!」


どうやらガロンが目覚めたようだ。あのダメージをここまで回復させるとは、ミアは凄い奴だったんだと今更理解させられる。


「なぁ、俺が勝ったんだ。約束は守って貰うぞ」


「う…るせぇ…。まだ…俺は…」


「なんだ。まだやるつもりかよ」


「ひ…ひぃ!すみません!冗談です!いま、奴隷の権限を明け渡します!」


ガロンは怯えながら呪文を唱えた。その瞬間、眩い光が身を包んだ。

これで、権限が俺に手に入ったのだと理解できた。


「こ…これでどうでしょう?」


「あぁ。十分だ。去れ」


「え、ですが…」


「なんだ。まだ話があるのか」


「いえ、何も御座いません!」


ガロンは慌てたように立ち去っていった。

余りにも哀れだった。これが先程まで威張っていた奴か。


「さて、どうするか」


俺は王女を見る。じっとこちらを見つめている。

懇願のような、諦めのような、切ない目。


「それじゃあまぁ、取り敢えず…。

     奴隷主従権限を破棄する。今からお前は自由だ」


その瞬間、きらびやかな光が彼女を包む。奴隷としての任を終了したという証だ。

王女は衝撃を受けたかのように目を見開いてこちらを見る。


「どう…して…?」


「奴隷なんて…要らないから。そんなもの…無いほうが良い」


「不思議な魔物。さっきと言ってることが全然違う」


当たり前だ。先程のはミアを怒らせるために言った言葉だから。そして、俺から引き離させるために。

俺と彼女では暮らしていた世界も違いすぎる。

そんな状態で一緒にいても、いずれ彼女が悲しむだけだ。


「さぁ、好きなところに行け。さっきも言ったようにお前は自由だ。何をしようと知ったこっちゃない」


「あの…。おこがましいお願いなんですが、私の故郷まで送り届けてくれませんか?」


思わず彼女の顔を見る。先程までとはうって変わって、真剣にこちらを見つめている。


「何故だ。俺はお前の主人でもない。故に助けてやる筋合いも無いんだぞ」


「貴方しかいないのです!」


彼女は大声で叫んだ。


「私の故郷は今、魔物たちによって壊滅状態にあります。それを救ってくれるのは、貴方しかいないのです!」


「他の国に要請すれば良いだろう。それに俺は魔物だ。敵にそんな願いをする馬鹿がどこにいる」


「他の国も魔族の襲撃で手一杯だと…。それに、貴方は人間である私を助けるために戦ってくれた」


「それはただ、奴の行動が癪に触っただけだ。可愛そうなテメエを助けるためとか、悪から正義を守るとか、そんな素敵な理由じゃねえよ」


「それでも、貴方のお陰で私は今自由になれてる!貴方にビンタをした女の子とは意味が違いますけど、私も貴方が勇者に見えたんです!」


王女はこちらに純粋な笑顔を向けた。

その純粋な笑顔には少々驚いた。やはりこの子も普通の少女なのだ。

それをあんな風に道具のように扱うなんて…。

やはり、奴隷なんて無くさないといけない。


それより少し気掛かりなことが生まれた。

壊滅状態。王女が奴隷。そして、奴隷商。これは偶然なんだろうか。もしかすると…。ふむ。行く価値はありそうだ。


「分かった。ついていこう」


「本当ですか!?ありがとうございます!私はラピス。改めてお願いします」


こうして、俺とラピスの冒険が始まった。

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