第五話 プライドの権化
一時間後、俺たちは約束の場所で待っていた。
俺はミアの勧めで近くの武器屋で一通りの装備をを揃えた。
武器に関しては、魔剣ラオスを使えば大丈夫だろうということで買わないことにした。
残念なことに手持ちが無かったので、ミアに貸してもらうことにした。
お願いする際、ミアは笑いながら「必ず返して貰いにいくからね!」と言っていた。
いやはや、恥ずかしい限りです。
「へぇー。逃げなかったんだぁ。偉いねぇ!」
少したってからやって来たガロンは煽るように言ってきた。奴の装備を見ると、やけにギラギラしていてうるさい格好だった。
「約束の奴隷は連れてきたから安心しろよ!」
ガロンの横にはあの王女が確かにいた。最も、こちらはみすぼらしい格好だったが。
「逃げるわけねぇだろ。俺から吹っ掛けたんだし」
「まぁー。そーだよなぁ。そりゃあそうだ!お前から吹っ掛けたんだよなぁ」
ガロンは気持ちの悪い笑みを溢しながら言ってきた。
何かを企んでいるのだろう。 どうでも良いが。
「お前から吹っ掛けたんだからよぉ!少しぐらい俺が有利な条件で良いよなぁ!?」
「別に良いぞ」
「はい言質頂きましたぁ!それじゃあ、まずお前はあの剣の使用禁止な!それと、入ってこい!」
ガロンがそう叫ぶと、奴の後ろからゾロゾロと魔物がやって来た。
「こいつら、俺含めてざっと三十人。vsお前ひとりだ」
「えぇ!そんなのおかしいよ!」
「はい嬢ちゃん残念!もう言質は取っちゃったんだよ。なぁお前ら!」
ガロンがそう叫ぶと、辺りからワァー。という声が聞こえて来た。
どうやらガロンがこのために人を集めていたようだ。
まさか、ここまでゲスな奴とは。怒りを通り越して呆れてくる。
「早く、やろうぜ」
「くくく、まだ勝てると思ってんのか? 殺してやらぁ!」
そう叫ぶと、ガロン達は一斉に襲ってきた。
この瞬間、俺は衝撃を受けた。
こいつら。統率力無さすぎだろ。
寄せ集めかもしれないが、それにしてもこれは酷すぎる。
ただただ個人が暴れてるだけだ。チームプレーしたことない俺でもこれよりはましだぞ。
これじゃ統率もクソもない。なんなら一人で戦った方が楽な気もする。
「おっらー。喰らえぇぇ!」
「術義 <雷光>」
「剣技 <グレートバーン>」
本当にすっちゃかめっちゃかだ。酷すぎる。
なんだか見ているこっちがしんどくなってくる。
これ以上は誰も得しないだろうし、終わらせてあげよう。
「剣技」
途端、俺の右腕に大量の光が集まってきた。
「<グレネードスーパーハイパーグレートマキシマムゴットドラスティックスパークアンモニアウルトラマックスファイナルパンチ>!」
果てしなく長い技名。
剣技と言いながら殴るだけの突っ込みどころ満載の究極奥義。
だが、能力は強い。放った瞬間、恐ろしいまでの風圧が光と混じって辺りを吹き飛ばした。
「「「「ぐわぁぁぁぁぁーーー!」」」」
まともに喰らった奴らはおろか、少しはなれていた奴らも風圧をくらって吹き飛ばされていった。もっと体感鍛えろよ。
「うっし。成功! にしても…やっぱこれ剣技じゃなくて、拳技だよな?」
辺りからは声が聞こえない。
見渡して見るとほとんどの奴らが倒れていた。
あぁ。やっぱり寄せ集めだったか。何かあるんじゃないかと思ってたけど、がっかりだ。
「ぐほ、げほ、何なんだよ、今のは」
気絶の山の中から、ボロボロのガロンが出てきた。
鎧はせっかくギラギラ光ってたのに、くすんでしまっている。まるでアイツの心みたいだ。
「ええっと、<グレネードスーパーハイパーグレートマキシマムゴットドラスティックスパークアンモニアウルトラマックスファイナルパンチ>だよ」
「はぁ?何なんだよ、その魔法は!おかしいだろ!?第一なんて長い魔法名だよ!それにあの火力はおかしすぎる!なんだ?テメエズルしたろだろ!」
ガロンは怒りをあらわにして叫んでくる。 うるせぇ。
「そーだ!分かったぞ!魔剣使っただろ!そーだろ!テメエ、そりゃ反則だ!お前の負けだ!残念立ったなぁ!どうだ!なんとか言い返して見ろって…」
「うるせー!!!しつこいんだよ!このドクサレ野郎が!
男のくせにグチグチグチ!うぜーんだよ!
さっきから<グレネードスーパーハイパーグレートマキシマムゴットドラスティックスパークアンモニアウルトラマックスファイナルパンチ>の能力だって何度もいってんだろ!くどいんだよ!バーカ!
そんなテメエの物差しでしか物事を測れねぇから俺に勝てねえんだろうが!!」
俺はそう言うと奴に向かって唾を吐いてやった。良い気味だ。
…ん?俺って普段こんなことするやつだったっけ?
まぁ、良いか。こいつがムカつくのは確かだし。
「…してやる」
「聞こえないぞ。もっと大きな声でいってくれ」
「…してやる。殺してやる!」
あぁ。駄目だ。目がイってる。壊れたんだ。弱い男だ。つまんない。
いや、つまらないとかの問題ではない。
この程度の事柄で壊れてしまうなんて…こいつは危険だ。
「ゼファファファファ!ゲス野郎が!死んで後悔しやがれ」
やはり…。こいつは俗に言うプライドの塊のような化け物だ。少し不満があったら周りに攻撃をする危険な存在。 倒しておいた方が、良いのかもしれない。
「喰らえ! 術義 <死王>」
まずい!これは!
俺は急いで周りの雑魚が落としていた剣を拾い上げた。
「剣技 <真実の光剣>」
「もう遅い!死ね!」
奴の剣から黒く染まった技が飛び出してきた。
その瞬間、巨大な破裂がこの辺一帯を襲った!
「グフフフフ!死んじまったか!…あぁ!」
奴の腹部に、俺の拾った剣が突き刺さっていた。
その腹からはどす黒い血が溢れだしていた。
<真実の光剣>はその付近で最も憎しみが強いものを無条件で突き刺す技だ。
魔神との戦いで使わなかったのは、奴より俺の方が憎しみが強かったからだ。この技は使用者関係無く一人、突き刺すまで攻撃をしてくる。
それにしても…
「いや、マジに危なかった。<真実の光剣>で刺してなかったらどうなってたことか」
あの魔法、<死王>は三百年前でもかなり有名な技だった。黒く染まった深淵が使用者の身に纏われ、触れた者を崩壊させると言う技だ。余りの残虐さと、その代償に己もただでは済まないということから、使用されていなかった。
まぁ、奴のは腹部を刺されていたとはいえ、制御できず暴発するレベルだったが。
「さて、まだやるのか」
「うううう、うるせー!!!術義 <黒炎>!!」
もはや見境も無しに撃っている。これでは被害がふえるだけでまるで意味が無い。
「術義 <神の鉤爪>」
辺りに撒き散らされた<黒炎>を一瞬にしてかき消して、奴を切り裂いた。
「じゃあな。プライドの権化」
プライドの権化の次期四天王候補戦はこれにて終了。
いやー!短かったです。