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第四話 戦いの前

「ソイツを俺によこせ。」


「は?何言ってんだ?お前」


「あ!すみません!うちの連れが!ライト?本当にどうしたの?急に。おかしくなっちゃったの?」



「ミア、ちょっと黙ってろ」


ミアは文句を言いたそうな顔をしていたが、しぶしぶ遠くへ行ってくれた。


「何だよ、お前?いきなり吹っ掛けてきてさ。こいつをよこせだぁ?舐めたこといってんじゃねぇよ!」


そう言うと男は俺に唾を吐きかけてきた。


「こいつは、俺が大金叩いて買った女だ。そーやすやすと手放せるもんか! んー。まーでも、そーだな。テメエがこれに見合う対価を出して、その上で俺と勝負して勝ったならくれてやらぁ。お前の出した対価も無しで良い。だが負けたら、お前の対価を貰ってこっちは無しだ。これでどうだ?」


「分かった。こいつでどうだ?」


俺は右手に魔剣ラオスと呼ばれる剣を召喚した。

酒場の奴らはこちらに目を向けてざわざわしだした。


これはかつて俺が冒険の最中で見つけ、しばらくの間愛用していたものだ。もっとも、神聖剣を手にいれてからはほとんど使っていなかったが。それでも、手放すのは本当に嫌だ。

なのに、何故こうも軽く受け入れたんだろう。


「このレベルはどこ探しても見つからないと思うが?それに魔剣の部類だから、錆びたり刃こぼれが起こる心配も無い。どうだ?」


「テメエ、ソイツをどこで?…まぁいい。約束は約束だ。いいぜ。酒場では戦闘用の部屋が有るんだ。そこで良いか?」


俺は軽く頷いた。


「準備も大事だろ。そーだな。一時間後、そこで決戦だ。逃げたら殺すぞ?」


「ねぇ、大丈夫なの?さっき酒場で聞いてきたんだけどアイツ、かなりの大物よ?」


さっきまでどこかへ行ってくれていたミアが不安そうな顔で尋ねてきた。


「彼、ガロンっていってね、次期四天王最有力候補って言われてるらしいの。それに彼は君みたいに対価を出せる者に勝負を挑んでは必要以上にボコボコにして、荒稼ぎしてるらしいよ」


「そうなんだ」


「ちゃんと聞いてる?ねぇ?奴隷なんて良くないよ。本当に。そんなの諦めた方が良いよ。欲のために危ない目に遭うなんて絶対間違ってるって。それに、あんな凄い剣、絶対大切な物でしょ?」


確かにそうだ。下らないし、大切だから手放したくない。でも、理由は分からないけど、退くことは出来ない。


「なぁ、ミア。何でお前は出会ったばかりの俺をそんなに心配するんだ?」


「君だから、じゃないぞ。皆、出会った方々は大切な縁なんだよ。その縁は絶対大切にするんだ。その中の一人だし。でも、そうだね…」


ミアは少しだけ顔を赤らめながら、こう言った。


「なんでだろう?君だけは、何だか特別な気がするんだ!」


彼女の顔には、恥じらいと幸福感が含まれていた。

その顔を見ると、なんとも形容しがたい気持ちになった。


「もー!恥ずかしいなぁ!だから私は君には戦ってほしくないんだよ!…あれ、どうしたの?」


ミアは心配そうな顔でこちらを伺う。

俺が何かしたのか?


「なんで、泣いてるの?」


泣いている?俺が?なして?


あぁ。そうか。


先ほど起こった妙なフラッシュバックの影響だ。奴隷の王女の目が女の子が奴隷で連れていかれたときの目と重なって見えて怒ったのと同じように、ミアの顔が女の子の顔に重なって言いようもない悲しさが襲ってきたんだ。





「本当にもう大丈夫なの?」


「あぁ。急にごめんな。もう大丈夫。気が動転してたみたいだ。でもまぁ、今は落ち着いた。心配してくれてありがとう」


ミアは変な顔をしながらニタニタ笑っている。


「なんか言いたいことでもあんのかよ?」


「フフフフ、別にぃー?」


「なんだよ?」


「いやさぁ、君が私と会話してくれてるのが面白くってさ!出会ったばかりのときは単語だけだったのに。それに、君のしゃべり方大人ぶってるときと子供みたいなときがあるからさぁ」


「うるせーよ!」


俺は恥ずかしがりながらも笑って見せた。


あぁ。楽しい。

ここに転生してからは何かを恨んだり、憎んだりしてばかりだった。

その前も、ずっと一人で戦ってたから誰かと喋れるなんて考えてすらいなかった。


魔物なんて、信用できない。 ずっとそう思ってたし、今でもそうだ。

でも、もしかしたら

俺は彼女のことを少し、信頼してもいいのかもしれない。


「いやさ、本当にありがとう。色々。」


「うん。どういたしまして!」


彼女はニッコリと笑顔を向けた。


「でもさ…。ごめん。やっぱり戦いを逃げ出すことはできない」


「…分かった。もうとめないよ。君が真剣に考えたんだもんね!それじゃあ私からは何も言うことはないよ!」


「そう、ありがとう」


「君は感謝してばっかだなぁ!」


「そんなわけ…ホントだ」


俺たちは互いに顔を合わせて笑った。

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