第三話 謎の憎悪
「ひ、広すぎだろぉぉ!」
初めてみる街は余りにも広く、驚愕のレベルで思わず叫んでしまった。
こんなサイズの街は今まで見たことが無いぞ!
「何?初めて来たの?魔物なのに?変な奴」
俺とはうって変わって無関心そうなミア。これが普通だと?どうなってんの魔界。これなら人界襲う必要ないじゃん。
「それじゃあ、哀れな田舎者のライトくんには私が案内して差し上げよう」
「頼みます」
「素直で宜しい!」
正直こいつに頼むのは不安しか無いが、案内役が居ないと困るので仕方がない。
そう、仕方がないんだ。
誰かに言い訳をしながら、俺はミアにひきつられて行った。
「ここが街で一番人気の酒場だよ!ここでクエストを請けたりご飯を食べたり出来るんだ。人界にも似たような施設が有るらしいけど、正直ここほど盛んなところはないと思うよ!」
「てことは、ここで冒険者としての手続きをしなければいけないのか」
「うんにゃ、その必要は無いよ。だって、個人の能力は全て魔神様が確認しているから。酒場はあくまでも魔神様直々の依頼だとか、依頼の仲介者のような役割だから。ちなみにギルドに関しては酒場を介入させないといけないんだ。多分魔神様に分かるようにするためだと思うけど」
なるほど。魔界での酒場はあくまでも魔神が直接支配する場所なのか。
「さて、じゃあ入ろっか」
ミアにひきつられて酒場に入ると、魔物たちが飲んで駄弁って騒ぎたてている光景が飛び込んできた。
人間じゃないという違いは有るが、そこは確かに俺の知っている酒場だった。
「おー。スゲェ。」
「でしょでしょ?それにここにはかなりの手練れも来るんだ!彼らならもしかすると君の練習相手になってくれるかも」
「え?」
「フフフフフ!」
どうやら彼女は俺がスランプなんだと勘ぐって、それが解消されるよう真っ先にここを紹介してくれたようだ。
これは、素直にありがたい。
のんびりと辺りをみていると、向こうから一際うるさい笑い声が聞こえた。
「見ろよ!この女!」
「うっわ!超美人じゃん!奴隷?」
「そうそう。なにやら人間の王女らしいんだけど、拉致したっつう奴隷商から買ったんだよ!」
「なーなー!俺にも貸してくれよ!」
王女らしいボロボロの少女は首輪を付けられていた。
少女と目が合うと、何かを懇願するかのようにこちらを見つめてきた。
《………!………!》
不意に誰かの記憶がフラッシュバックのように流れてくる。
女の子は懸命に助けを呼んでいる。奴隷にさせられるようだ。
周りの大人は………が助けに行くのを無理やり止めるだけで、誰も助けない。
女の子がだんだんと遠くへ行ってしまう。それでも尚懇願するかのような目でこちらを見つめる。奴隷の王女と同じような目で。
動けない………は、ただ呆然と見ているだけだ。
とても悲しい。
なぜ?俺はあの子が誰かなんて知らないのに。
腹が立つ。何に?
憎い。何が?
助けたい。誰を?
俺はいったい、何に怒ってるんだ?
《………。大好きだよ》
許せない。腹が立つ。苦しい。悲しい。
奴隷なんて。それを当たり前のように容認する社会も。守れない俺も。
憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!
無限のように増幅する憎しみが体を蝕んでいく。
もはや、自分では歯止めの聞かないほどに。
「どうしたの、ライト? どこに行くの!?」
俺は奴隷をもつ男の前にたっていた。
「何?何か用?」
「ちょっとライト、どうしたの?」
「ソイツを俺によこせ。」
「「は?」」