第一話 転生した先
『目覚めよ。勇者よ。勇者ライトよ』
何者かの声が聞こえる。誰だ?
『起きよ。我が忠実なる部下となる男よ』
そこでゆっくりと目を開ける。
差し込む光が眩し…くない。むしろやけに暗い。
俺は…確かバルディオスとの決戦で死んで…。転生したはずだったが。
不意に恐怖が体を襲ってくる。声の方からだ。
ゆっくりと振り返ってみる。その瞬間戦慄する。
『初めまして…か?勇者ライトよ。ようこそ。魔界へ私は…名乗る必要は無いかね?』
そうだ。ずっと追っていた相手。全ての元凶にして最凶の存在。
「魔神…か?」
姿は見えず、輪郭だけがぼんやりとしている。しかし、確かに感じる。今まで感じたことのない程の恐怖が。
『良く分かったな。流石は勇者だ』
「なんで俺はこんなところに居るんだ。転生したはずだろ!?それに魔界ってどういうことだ。お前が何かをやったのか!?」
『質問は一つずつにしてくれ。頭がいたくなる。そうだな、まずは、貴様の転生は成功している』
「成功している?ということはここは未来ということか」
『御名答。ここは貴様が死んで三百年ほど前となるかな。続いて魔界と言う意味だが、答えは簡単だ。貴様は我の忠実なる下部として転生したのさ。理由は簡単。私がそのように仕向けたからだ』
魔神の声には嘲笑のようなものが含まれていた。
なん…だと。俺が…魔神の下部に。
俺は今まで、こいつを倒すために戦ってきたのに
そんなこと…
そんなこと、許されない!
「俺は貴様の部下になんかならねぇ!ここでお前を倒して平和を掴むんだ!」
俺は奴の方へ走り出した。
「神聖剣!」
俺は前世で愛用していた剣の名を叫んだ。
すると、俺の右手に実体として現れた。
どうやらステータスや技は前世から引き継がれているようだ。これなら!
「喰らえ! 剣技 <神龍逆鱗>」
しかし、俺の攻撃は奴の目の前で消滅してしまった。
『自惚れも程々にしておけ、小僧。魔王すら倒せぬ貴様に、我が倒せるものか!神技 <黒雷>』
無数の巨大な雷が俺に襲う。終わりのない攻撃に気を失いかける。
『神技 <暗黒の棺>』
これは!体が言うことを聞かない。動けない!
俺は箱のようなものに閉じ込められた。もはや抵抗することも出来ない。
止まらない雷と抵抗の出来ない棺で、俺はとうとう気を失った。
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『少しは落ち着いたか。勇者よ』
「黙れ。俺はお前の下につく気は無いぞ!」
『まだ意地をはるか。まぁいい。どちらにせよ貴様は我の下部に変わりは無いのだからな。それに、考えても見ろ。貴様は今魔物だ。逃げたしたところで人間は貴様を殺しにかかるだろう。だが、ここに居れば憎き我の近くに入れる。その気になればいつでも殺せる距離さ。どうだ?この千載一遇のチャンスを貴様のつまらぬプライドで壊すつもりか?』
確かにそうだ。奴の口車に乗せられたようで癪には障るが怒ったところで俺にメリットは無い。
ここで耐えれば、いつかは奴を倒して平和を掴めるかもしれない。
「分かった。だが、これだけは覚えておけ。俺は必ずお前を殺す」