50年後の誰か
「江梨花さん、気がついたらもう50年経つんだね」
「そうですねー、正雄さんとこうしてもう50年なんですねー」
お互いソファーに座りながら懐かしむように微笑んでいた。
「どうだい?丁度区切りもいいしお世話になった倉板さんのところにお邪魔しに行かないかい?」
「そうですねー、私たちを会わせてくれた方ですしお礼でも言いに行きましょうか」
そう言うと2人は早速、近所に住んでいる倉板さんの家に向かうのでした。
「でも正雄さん?身体は大丈夫なんですか?あれ以来体を動かすようなこともしていないのに…」
「なあに、昔は何十k位走っていたものよ、このくらいの距離…なんて…こと…は…ぁ!」
正雄は若き時、野球をやっていたときに壊していた膝を庇いながら一歩、また一歩と歩を進めていった。
「相変わらず頑固なんですからもう…休み休み行きましょうね」
江梨花は後ろから転ばないように、正雄のあとをついていくのでした。
休憩もしながら一時間かけてなんとか倉板さんの家に着くことができた。
「倉板さん!倉板さん居ますか?」
「おう!中田君に紺川さん二人してどうしたのさ?まあ上がってよ」
「いやなに、こうして一緒に住んで50年経ったので倉板さんにお礼でも言いにいこうと思いましてな」
「正雄さんったら歩いていくって無理しちゃって…お陰でこんなに時間がかかってしまいました」
江梨花は笑いながら正雄の手を繋ぎ足元に注意しながら家の中に入っていった。
「いやーもうあれから50年ですよー、倉板さんに紹介されてからそのままお付き合いして…」
二人がみつめあいながら懐かしんでいた。
が、倉板は二人の指を見て目を細めた…
「まだ結婚してないの?」
「気がついたらこんなになってたねー」
「そうですね…考えたこともあったんですけどね…」
その台詞を聞きテーブルを叩き、
「結婚しなさいよ!! いつまで結婚しないつもりさ!!二人が結婚するまで死ねないじゃん!!」
もう90にもなろうとしているとも思えない勢いで捲し立てると見つめ合いながら、
「…そうだね…50年か…今からでも遅くないか…」
「もうこんな年ですが結婚はしたいですね」
「今から行きなさいよ!!決心したんなら今すぐ!!タクシーでも使って行きなさい!!」
正雄は決心し身体に鞭をうち、立ち上がり倉板に向かい合って、
「いや、タクシーなぞ使わん!!この足で市役所まで行ってくるわ!」
「大丈夫なんですか?ここから20キロ位ありますよ正雄さん?」
心配する江梨花を昔のように笑いながら、
「時間はあるんだ、ゆっくりでもいいじゃないか」
「そうですね、途中で休みながら行きましょうか」
「俺が死ぬまでには帰ってくるんだよ」
笑いながら倉板は少し目に涙を浮かべていた…
「では倉板さん行ってくるよ」
「帰ってきたらまたお話ししましょうね」
「あぁ、待ってるよ」
そう言い、手を降って倉板は家に入っていった。
「さあ行こうか…今日が付き合って50年、新婚生活を始めるために市役所へ」
「はい、行きましょう。辛かったらいつでもいってくださいね。」
二人は結婚するため、遠くにある市役所を目指しゆっくりと歩いていくのであった…