表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

レオニーダと2

 レオニーダの家には広い庭がある。薬草畑と小さな池だけでは収まらないそこには、使用されていない場所ももちろんあった。その一角でハーディエットはひたすら穴を掘っていた。

 手巾に包んだ卵を持たされたレオニーダは、遠い目をしながら作業を眺めた。

 土に埋めたら孵る気がすると主張するハーディエットに、レオニーダは真っ向から反対した。


「種と卵は違うんだ!」

「普通の卵と違うんだからやってみないと分かんない! 温めようとする度に逃げるし!」


 結局ハーディエットに押し切られ、こうして穴掘りが終わるのを待っている。

 手の中の卵が震えているのは気のせいだと思いたい。

 手巾が湿ってきているのも気のせいだと思いたい。

 新種の魔物でないことを信じるばかりだ。


「卵ちょうだい」


 作業が終わったようだと、穴を見たレオニーダは目を見開いた。ハーディエットの腕の長さ位の穴が出来上がっていた。


「……随分と、がんばったんだな」

「うん、すぐに出て来られないようにね」


 すぐに出て来られないと孵った時大変なことになるんじゃないか。


 レオニーダは思ったが、早く卵を手放したかった為、口を噤んだ。


「ふふふ、こうして手巾に包まれていては手にくっつけまい。さあ、大人しく穴に入るがいい」


 言うや否や、ハーディエットはレオニーダの手から素早く卵を掴み、穴に放り入れた。


「卵が出てこない内に土を被せて! 早く!」


 レオニーダは促されるまま、ハーディエットと共に穴を埋めた。

 ハーディエットが汚れた手を払いながら満足気に笑う。


「芽が出るまでの期間って十日位?」


 レオニーダは嫌な予感がした。


「卵が孵ったら教えてね」

「今すぐ掘り返せ!」




 卵は土の中にいたとは思えないほどきれいだった。自力で上がって来たようで、掘り始めてから然程かからず見つかったが、泥だらけの手に触られるのが嫌なのかすぐにハーディエットのポケットに入ってしまった。


「ドルー達はどう思っているんだ」


 今までのあり得なさ過ぎる卵の行動に、つい答えの分かりきった問を漏らしてしまう。


「謎生物って言ったら納得してたよ」

「そうだろうな。そうだろうよ」


 どっと疲れが押し寄せる。

 レオニーダは、謎生物でいいんじゃないかとだんだん思い始めてきていた。


「あっ」


 ハーディエットが急に池の方へと駆け出した。数歩進んだところですぐに止まり、池を指差した。


「でっかいカエルがいるよ」


 レオニーダは息を飲んだ。


「あ、尻尾がある」

「ハーディー、いいからこっちに来なさい」


 声が震えた。

 武器になりそうなものを素早く探すが、庭の外れに役立つ物は何もない。


「あれは魔獣だ」


 中型犬位の茶色いカエルの魔獣が池から上がって来ていた。まだこちらには気付いていない。

 魔獣は空気中の魔素を取り込んだ結果変異し、身体能力と凶暴性が飛躍的に増した元動物だ。魔物と違い魔術は使えないが、襲われれば怪我だけでは済まないこともある。カエル型魔獣は弱い方の部類だといえるが、武器のない状態で退治することは難しい。家には池の横を通らねば戻ることができない。気付かれる前に助けを呼びに外に出ようとハーディエットの背を押した。

 ハーディエットがレオニーダを見上げた。


「もうじき大人になるのかな」

「なるか、馬鹿!」


 魔獣がぎょろりとした目をこちらに向けた。しまったと思った時には、魔獣は重く響く鳴き声を上げ跳躍していた。もう目の前まで迫っていた。

 レオニーダは咄嗟にハーディエットを背に庇った。


「レオニーダさん!」


 レオニーダの腕に魔獣の舌が巻きつく。傾ぐ身体にたたらを踏んだ。


「レオニーダさんから離れろ!」

「ハーディー、離れるんだ!」


 ハーディエットは魔獣に向かって卵を投げつけた。

 勢いの足らなかったそれは魔獣の前に落ちた。小さく二三度跳ねた後、コロコロと転がり――

 勢い良く跳ね上がった。

 卵は魔獣の口を下から突き破り、その勢いのまま背中へと突っ込む。魔獣の腹に小さな塊が浮き上がっては消えた。それが数度繰り返された頃、呻き声を上げていた魔獣は動かなくなった。


「すごい、すごいよ! 卵が魔獣をやっつけた!」


 手を叩き大喜びするハーディエットに、レオニーダは腕が自由になっていたことに気付いた。

 だらしなく開いた口から卵がコロコロと転がり出て来る。体を振って付着した液体を飛ばすと、跳ねるようにしてハーディエットの元に向かった。そして褒めろと言わんばかりにゆらゆらと体を揺らした。


「すごいね。魔獣をやっつけるなんて只の卵じゃないよ。助かったよ。ありがとう」


 素直に褒めるハーディエットに、卵は照れたようにクルクルと回った。

 ハーディエットはレオニーダを見た。


「やっぱり謎生物だと思うよ」


 いまだ回り続ける卵を見ながら、レオニーダは疲れたように言った。


「儂もそう思うよ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ