『僕は不良品なんです』
一昨日未明警察に通報があり、佐藤健二さん(41)が遺体で見つかりました。犯人は通報者の19歳の青年とみられ、現在警察で取り調べを受けています。被害者の佐藤さんは過去二度、婦女暴行により捕まっており他にも余罪があるとみられているため────
R15、残酷描写は保険です。
あらすじをコピーしてペッタンしておきます。ごめんなさい。
どこにでもいそう……は言い過ぎかもしれないが、普通の真面目そうな好青年、それが目の前にいる青年の第一印象だ。
青年は穏やかな顔でこちらを見ている。
飾り気の無い灰色の机を挟んで向かい合っている俺の顔は恐らく顰めっ面をしているだろう。
何せこの青年は昨日人を殺した殺人犯なのだから。
しかし何故こんな穏やかな顔をしていられるのだろうか。とても信じられない。こいつは自分で通報して捕まってからずっとこうだと聞いている。
俺には青年が得体の知れない怪物のようにさえ感じられる。
被害者は男性だった。過去二度強姦罪で捕まっており、他にも余罪があったと思われるような人物ではあったが、十分な報いを受けたと言えるような凄惨な殺され方であった。
釘、金槌、半田鏝……思い出したら気分が悪くなってきた。取り調べに集中しよう。
そうここは取調室、目の前の青年を取り調べるのが俺の仕事である。
どうして男を殺したのか? ある程度調べがついていたがあえて聞いた。
青年は穏やかな表情のままこう言い放った。
「強姦は死刑に値すると思ったからです」
予想されていた答えだ。
つい最近自殺事件が起こっていた。自殺したのは若い女性、19歳の大学生で丁度目の前の青年と同じ年齢なのだ。自殺理由は強姦だと思われる。被害者男性はその容疑者として警察が目を付けていた。
その男を痛めつけるように殺したんだ、まずは恨みの線で自殺した女性と関係があるのか疑うだろう。調べてみれば青年と自殺した女性は出身小学校が同じことが分かった。
だから率直に青年にその被害者女性が関係あるのかを尋ねた。
「確かに増井さんはいい人でした。と言っても僕が彼女と話したのは何年も前のことですので最近の彼女については知りませんが……
でも彼女のことです、優しく善良だったに違いありません。そんな彼女が何で殺されなければいけなかったんでしょうね」
つまりはその復讐で男を拷問紛いの方法で殺したのかと俺は半ば確認じみた尋ね方をした。
「いえ、彼女は確かに知り合いではありましたが僕とはそれほど縁が深かったわけではありませんし、復讐なんて高尚なもので人を殺したわけじゃありません」
こいつは高尚の意味を分かっているのだろうか?
青年の言葉は続く。
「犯罪はどうして犯罪なのか警察のお兄さんは考えたことはありますか?」
あまりに唐突な内容で俺は咄嗟に答えることができなかった。いや、よそう。唐突でなくとも俺は答えられなかったろう。犯罪は犯罪、悪いことだっていう要領を得ない答えしか用意できない。
青年は始めから返答は期待していなかったのか言葉を続ける。
「それは社会にとって認めると害がある行為だからだって僕は考えました。だって同族を殺すことも、物を奪うことも動物なら普通のことじゃないですか。だから行為そのものは悪じゃない。殺人なんかがよくないって思うのは洗脳紛いの教育で植えつけられた作られた感性なんですよ。
社会って巨大になり過ぎてわからなくなっているだけで弱い個々が身を寄せ合って安心するために作った群れじゃないですか。なのに群れの中でまで命の危険が有るんじゃ安心できないから。だから殺人とかは社会の存続を揺るがす認められない悪になるんです」
あまりに青年が堂々としているために納得しそうになるが青年の考えは極端なものだ。
人間と動物は違う、人間は一種の動物に過ぎないなんて言う奴もいるが俺はそう考えている。だってそうだろう? 人には生きる上で要らないものが多過ぎる。その無駄が人を人たらしめているんだ。
俺は口を開く……が、青年はそれを遮るように言葉を続ける。
「けれど、それらを認めないようにするための仕組みを利用する人たちや犯罪者たちに同情するような人たちが出てきて今はうまくそれらを排除できない。社会が群れとして大き過ぎるがために行動が不自由なんだ」
自分が社会の代わりに悪人を罰したのだとでも言うつもりか。
「僕は不良品なんです」
唐突に青年はそんなことを言い出した。声にはどこか自嘲が混じり、その顔は今までの穏やかなものとは打って変わってどこか哀しげだ。
青年のその雰囲気に飲まれ、俺は何の言葉も発せなかった。
「僕は頑張れない人間なんです。そして呆れるほど融通が利きません。一度勉強を不毛だと思ってから、勉強を頑張ることが出来ませんでした。普通科の高等学校を卒業した以上、職業訓練を受けるために大学や専門学校に行った方がいいのも分かっていました。けれど行く気にはなれませんでした。それで僕は腐っていきました。僕は不良品なんです。理解していても変わることが出来ないんです。僕は必要とされません。不良品です社会ゴミなんです」
たかが一年でとも思ったが、こいつにとっては"一年も"なんだろう。これまでの様子からすると意外だが、存外にこの青年は心が弱いのかもしれない。
俺は再び口を開きかけるが、青年を見てやめる。
「まだ続きがあります。僕は自分に何が出来るのか考えたんです。こんな自分に何ができるのか、考えて考えて考えてそして一つの考えに至りました。人に出来ないことをしよう────同じ社会ゴミの排除をしようって。一度いい考えだと思ったら、これ以外考えられなくなりました。そんな時です、────知り合いが殺されたって聞いたのは」
流石にここまで言われたらわかる。
「僕が考えたのは────」
「要らないもの同士の潰し合い、だろ。派手な自殺だなぁ」
こんなにも大胆なことことができるのに、何で行き着く先が自殺なんて後ろ向きなのか。
青年には初めて今まで見せなかった動揺が見えた。
今まで得体の知れない怪物だった青年がとても人間らしく思える。殺人犯と言えどもちゃんと人間なんだ。どこか安堵に似たものを感じた。
「……そうです。僕が考えたのは要らないもの同士が潰し合えばいいという考えです」
そういう青年はどこかバツが悪そうな顔をしていた。そして言葉を続ける。
「僕がしたのは殺人です。例え相手がゴミだろうと殺人は殺人……僕は犯罪者です。でも、僕は反省はしません。釈放されれば僕はまた同じことを繰り返すでしょう。何度も、何度も、それこそ僕が壊れるまで」
どうやら彼に必要なのは説教のようだ。だがまあもう昼だし、一旦取り調べは切り上げよう。必要なことは聞き出せた。
取り調べ室から出ると何だか騒がしい。
見に行ってみるとどうやらマスコミが押し寄せているようだ。恐らくは青年の起こした事件だろうが異様に数が多い。どういうことなのか近くに同僚がいたので聞いてみる。
「ああ、なんか例の青年がSNSを利用してあらかじめ時間になったら文章を公開するようにしていたのを一部に告知しててな、それが公開されちまって拡散、この通りさ」
どうやらその文章は俺がさっき取り調べて聞いたようなことを綺麗にまとめて加筆したようなものだそうだ。
あの青年は自殺するにあたってご丁寧に遺書を残してたらしい。全く、やられた。あーあ、こりゃ忙しいだろうな。
心の中で説教を増やすことを決意しつつ、取り敢えず飯を食うために俺はこの場をあとにした。
ほんとはこんなの書いている暇ないんですけど、つい出来心で……
急に思いついちゃったから仕方ないんです、はい。
それとまだまだ掘り下げて議論すべきこととかあったけど妥協しました。ごめんなさい。
追記:実は名前が出ているのが死んだ人だけだったりします。