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沈黙姫と7柱

シナリオ様のプロットがのってきたので、のせてみます.短編のつもりです.

あるマンションのリビング.

幼い女の子はソファに座る自分の父親が、余りにも悲しそうに泣くので溜まらず抱き締めた.喪服を着た親子は強く抱き締めあった.いない母親の分の力を含めて.


別の日.

エレベーターから女の子が出てくる.背負っているランドセルは夕焼けの光を反射する.女の子は廊下を歩歩いて、首から下げた鍵で扉を開けて中に入る.

外とはうってかわって中は暗い.

携帯でどこかに電話をかけながら、流れ作業で電気をつけていく.リビングのテーブルに三千円を見ずに手にとる.


ソファに座ってアニメを見ながら、女の子はピザを食べる.女の子一人には広すぎるソファーには動物の縫いぐるみが連座している.牛、馬、羊、山羊、鶏、犬のに、女の子がピザを持たない手で抱えている膝の上の豚を含めた7体の動物人形.女の子は時計を見て、テレビを消した.


夜遅く父親は帰ってきて、疲れた体で娘の部屋に向かう.暗い部屋で蛍光する天井の星、お気に入りのぬいぐるみたちと共にベッドで横になっている娘の後ろ姿を見て不憫そうに頭を撫でる父.薄目を開けている事に気づかずおやすみと言って父親が部屋を出ると、女の子は豚を更に力強く抱き締めて、瞳を閉じた.


薄暗い部屋の真ん中に置かれたテーブル.タロットを手札にテーブルを囲う面々.貧乏揺すり激しく、遂に興奮して椅子から立ち上がる一人.

[コケコッコォーッ]

[しーっ、女の子が起きるだろ]

父親が部屋を出てしばらくたち、瞼の向こうが少し騒がしくなって、たまらず女の子は目を開けた.ぼやけた視界が鮮明さになるにつれ、目の前の異様さに気づいて半身を起こした.先に気付いたのは犬だった.

[ほら、いワンこっちゃねぇ]

他の動物たちも一斉に女の子のほうを見た.異様な光景に女の子は瞬いた.

黒い鼻と瞳を輝かせる犬.

唯一立ち上がっている赤いトサカの鶏.

黄色い眼にふちどられた一文字の瞳の山羊.

眼鏡の位置を指で整える黒い顔の羊.

荒い呼吸に合わせて天を突く角が上下する牛.

恐らく卓上の篭からとった食べかけの林檎を持つ馬.

[はじメェから寝てなんかいなかったわよ]

しわがれ声は羊だった.

オイルライターの蓋を開ける音、葉巻に火をつけたのは豚だった.テーブルを囲う彼らはいずれも首から下は黒いスーツを着た人間そのものだった.

ライターの蓋を閉じる音.深く煙を吐き出したあと豚は言った.

[おいで、眠くないのなら一緒に遊ぼう]

女の子は立ち上がりゆっくりと彼らに加わった.


女の子は座ったままじっと白い壁をまっすぐ見ていた.テーブルを挟んで対面に座る白衣の女性.女の子の隣に座る心配そうな顔の父親.女の子は父親と心のお医者さんとの三者面談にうんざりしていた.父親は心配症で、以前まで感じていた孤独感も彼らと遊ぶようになって既に感じなくなっていた.だが父親はぬいぐるみ相手に話している女の子を偶然目にしてから怖くなり、父子家庭の重責も手伝っての通院だった.

女医は若く整った顔をしており、熱心に父親の言葉に耳を傾けながらも、空想の友達だの色々な話しをして安心させた.女の子はこの女医が気に入らなかった.


[化粧見た?明らかにパパに色メェを使っていたわ]

しわがれた声で同調を誘う羊はバラム.

アモンは普通の鶏もようにあちこちを落ち着きなく見ている.

[モォ..またその話しか]

呆れた声を出すモロクは何もしてないのに、呼吸にあわせて肩と角を上下させている.

[でも確かに気に入らねえ、いかにも自分ではわかってますって面して好き勝手言いやがって]

腕組みをしてバラムの意見に同調する犬のグシオン.

[パパだって惚れ込んでるんだから、どうしょうもねえ]

山羊のレオナールは溜め息を吐きながら、タロットカードの山札を切っている.隣でりんごを頬張りながら、馬のオロバスは同調して頷く.

葉巻の煙を勢いよく吐き出して、豚のベルゼブブが注目を集める.

[おい、もういいだろ]

ベルゼブブはレオナールを見た.レオナールは山札を女の子の目の前で三つに分けて卓上に置いた.そして女の子の指差す順に山札を重ねたあと、一番下のカードを女の子に差し出した.差し出されたカードを女の子が捲るとそれは恋人のカードだった.


数年後、窓からの明かりがリビングの棚の上の写真立てを照らす.仲睦まじそうに寄り添うくだんの女医と父親の間で一人だけ不服そうな女の子.


朝でもなく、夜でもなく、下校時間にもまだ早い昼.学生鞄からはぬいぐるみの豚足がはみ出ている.ゆっくりと鍵を開けて、誰もいないのを確認して安堵する学生服の女の子.玄関を抜けて部屋に向かう後ろで鍵の開く音.まだ幼さの残る顔でゆっくり振り返ると、かつての女医で継母が買い物袋を手に玄関で佇んでいた.


[学校をサボるとはどういうことだ]

白髪の増えた父の怒気を孕んだ声に、唇を尖らせてうつむく女の子.

[しかも無断欠席はこれがはじめてじゃないんだってな]

怒声は更に大きくなり、女の子は反応して豚を抱き締める力も強くなる.

[まあまあ、いま複雑な時期だから]

継母が父を制止するにも関わらず、気に入らないのか女の子は冷たく下からの視線を浴びせる.

[親になんだその目は、だいたい]

いい終わるのを待たず、女の子は部屋に駆けていく.どこに行くと怒鳴る父を抑える継母.引き出された女の子の悲しみと憎しみは乱暴に閉まるドアの音に現れていた.


膝を抱えて椅子に座る女の子の頭を優しく撫でるベルゼブブ.

[ちょっと学校に行かなかったくらいであそこまで怒る事はないじゃない!]怒るバラム.隣で腕を組んで頷いているアモン.

[でも学校に行かなかったんだから悪いのはこっちじゃ]

モロクの意見にも頷くアモン.

[おまえはどっちの味方なんだ!]グシオンの怒声にとぼけ顔のアモン.

[だいたい気に入らないのはあの女よ、母親面して]

[母親だろ、血は繋がってないが]怒り心頭のバラムに対して答えるモロク.林檎を頬張り[でもあいつのせいでお父さんにバレたんだよな]と主張すると、そうよそうよと追従するバラム.

山札から悪魔のカードを引いたレオナール.[でもあの女が来てからパパが変わったのは事実だ]

女の子の耳元に近づく豚鼻.

[お前の大事なものはこのままだとあの女に奪われてしまう]

膝の間に埋めた顔をあげて、ベルゼブブを見る女の子.[お前はそれでいいのか]

ベルゼブブの方を女の子が見た.

だがベルゼブブはおろか、レオナール、グシオン、アモン、オロバス、バラムそしてモロクたち皆テーブルと自分だけを遺して霞の様に消えていた.


まだ登校にはだいぶ早い.女の子は目覚めて背が汗で濡れて冷たい事に気付いた.布団を払いのけてもやはりぬいぐるみ達は見当たらない.女の子は寝巻きのまま部屋を飛び出た.どこを探してもいない.

考えに考えあぐねて閃いた.まさかとは思ったがたまらず体が駆け出した.


破れたごみ袋の山.まだ早かったお陰でゴミが少なく、うち一つのごみ袋破れたどてっ腹から顔を出しているぬいぐるみの馬の顔.女の子の手にとった汚れた豚のぬいぐるみ、余りにも強く握ったせいかわなわなと震えている.

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