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※ 混乱する魔王様

ブックマークが1000件を超えまして、読んでくださる皆さまに感謝です。


引き続きのビリー視点。アイリーンが見ていない裏側の話です。

母上は、美人だ。

燃えるように赤い髪は、風に揺れると柔らかそうに靡く。目尻は少しつり上がっているけれど、目つきが悪いとは感じない。意志の強さを感じさせる目だ。瞳は輝く黄金で―――孤独と拒絶の色を浮かべていた。初めてその目を見たとき、信じられない思いだった。僕がスライムだったころ、猫目の少女はとても温かいまなざしで僕を見ていたから。


人間の学び舎である『学園』での彼女はまさに、孤高の女王だった。その黄金は氷のように冷たくて、どうして母上がそんな目をするのか不思議でならなかった。しかしその疑問はすぐに解決した。



おそらく、授業の一環なのだろう。檻に入れられた弱い魔物が闘技場のような場所に運ばれ、鎖付きで逃げられぬようにしながら戦闘の訓練をさせている光景。

戦う意思すら持たない、怯える小さな魔物を数人がかりで斬りつける―――それはどう見ても、虐殺行為だった。その授業に、母上は絶対関わらなかった。



『抵抗の意思がない者を痛めつけて、何が訓練ですか。弱者を虐げることが私たちの使命ですか。相手が魔物なら虐げてもよいとでもお思いですか。私には理解できません。こんなことに時間を使うくらいなら、魔物の図鑑でも読んでいる方が有意義に過ごせます。では失礼』



魔物と対する授業がある度、母上はこう言って他の人間から離れた。他の人間たちもそんな母上を「使命感が足りない」「魔物が怖くて逃げた臆病者」と罵って避けた。

母上は孤独だった。誰も母上を理解しようとせず、母上を拒絶した。そしてそれと反比例するように、愛想を振りまく一人の少女に心を集めていった。


見ているだけなのがずっと辛かった。けれど母上に物理的なダメージがあるわけではなくて、僕は何もできなかった。



そんな中、大事件が起こった。一人の令嬢を殺害しようとした罪で、母上がこの国を追い出されることになったのだ。

勿論母上は何もしていないと、僕は断言できる。無実の罪で悪意に晒される母上は痛々しくて、けれどあんな国にずっといるよりは絶対に、出て行った方がマシだと思った。



「……愚かな人間共め。だが、こちらとしては都合がいいな」



報告を受けた魔王様は薄く笑っていた。



「アイリーン嬢を我が城へ迎えよう。ここで人間共のことなど忘れ、心やすらかに暮らして貰えばいい。ビリー、彼女を迎えに行け」


「はい、魔王様」




人間が魔の森と呼ぶ、人が足を踏み入れない森。そこで僕は母上と再会した。

間近に見る母上はやはりとても綺麗な人で、早く魔王様にお会いしてほしくて説明する間も惜しみ、瞬間移動(テレポート)の魔術で城にお連れした。



「ずっと会いたいと思っていた」



頭を下げているから魔王様の顔は分からないけれど、降ってくる声は多分に喜色を含んでいて、きっと明るい表情をしているのだろうと想像ができた。

そして次の言葉で、僕は驚きのあまり固まることになる。



「魔王リヴァルトはアイリーン=テンペジアの愛を乞う。どうか私の妃になってくれ」





――――――――――――――




母上をお部屋にお連れして、少し(というには長すぎる)おしゃべりの後、僕は再び魔王様の元へ向かった。

玉座にある魔王様はというと、顔を抑えてうつむいていた。理由は確実に、先ほど母上と会った時の、アレだろう。僕が来たことにも気づかぬほど悩んでおられる様子なので、声をかけることにした。



「……魔王様、ビリーが参上いたしました」


「あぁ、ビリーか……。……彼女はどうしている?」


「少し混乱していますけど、体に不調はないかと。メイド達に軽い食事と身の回りの世話を頼んできました。今日はもう休むでしょう」


「そうか……」



魔王様はそれからしばらく無言だった。言葉はないが、何か色々と悩んでいるらしいことが、時々漏れるため息から窺える。



「………ビリー。初対面の相手に求婚されるというのは、どう思うものだろうか」



ようやく口を開いた魔王様のセリフに、僕は苦笑いするしかない。

魔王様が僕に母上を連れてくるよう命じた時の予定では、お連れした後は魔王城の客として迎え入れて穏やかに過ごしてもらうはずだったのだ。

それが何故か、魔王様は母上に「妃になってほしい」と言っていて……あの時は驚きのあまり固まった。



「………とにかく吃驚すると思います」


「そうだろうな……私もあんなことを言うつもりはなかった。それが、彼女を目にしたら体が勝手に動いて……あのようなことに。生まれて初めての失態だ。明日からどのように彼女と接すればいいか分からない」



深い、深い、ため息を吐いた魔王様。恐らく今魔王様は、自分の行動について反省や後悔、そのほか羞恥やら疑問やらで大分混乱されている。このままだと浮上するのに時間がかかりそうだと判断し、助け船を出すことにした。



「魔王様、母上は不思議がってはいらっしゃいましたが、嫌がっている様子ではありませんでし」


「本当か……!!」



僕の言葉を遮りながら顔をあげた魔王様に、笑顔でうなずいていた。

ほっとした様子で、どこか嬉しそうな顔。こんな魔王様は、初めて見た。いつも凛としていて冷静で格好いい方だと思っていたのだけど……今日はなんだか、少し子供っぽい。そんな魔王様も、好きだけれども。



「……取り乱してすまない。情けない姿を見せたな、ビリー」



次の瞬間には、いつも通りクールでカッコいい王としての顔をしていたけれど、僕はしっかり見た。普段の様子を保っていられないほど、たった一人に揺さぶられる魔王様を。



(………魔王様、もしかして初恋ってやつですか?)




次回から本編に戻ります。

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