表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

※ 記憶の少女と魔王様

日間ランキング19位……すごく、驚いてます…感謝です。


※ビリー視点。


僕はビリー。魔王様の補佐の一人であるが、まだ若く弱いただのデーモン。

魔王様の補佐をするのは、前世の記憶を持つ特殊な魔族と決められている。前世持ちの魔族は総じて、伸びしろが大きく将来強くなるからだ。

しかしまだまだ弱い魔族である僕は、魔王様の役に立てることが少ない。



魔王様は我ら魔物の王で、最強の魔族であるが、冷たく何事にも動じない人形のような魔族ではない。他の者となんら変わりない、普通の心を持っているお方だ。時には疲れ、傷つき、気落ちすることだってある一人の魔族なのだ。

人間に同族を狩られ、同胞を想い心を痛め、けれど人間を憎み切れず……どうにか分かり合えればよいのにと苦しんでいることを僕は知っている。

僕が生まれてからそう長い時が過ぎた訳ではないけれど、魔王様の辛そうなお顔は何度も見た。むしろ、苦悩の表情を浮かべていないことの方が珍しい。きっと最初は、苦しみをどうにか押し隠していたのだろうと思う。魔王様はあまりまわりに心配をかけさせたがらないお方なのだ。だからきっと、僕が知らない何百年間という時間を苦しんで、その苦しさを隠しきれなくなってしまったのだと思う。


そんな魔王様は、最近明るい顔をなさる時がある。それは―――。



「ビリー、彼女の話が聞きたい」



僕が魔王様の、唯一役に立つ時間。僕が母上と慕う彼女―――アイリーン=テンペジアという少女の話をする時だ。



「はい。今日は何をお話ししましょう」


「あれがいい。初めてお前と敷地の外に出た話だ」



魔王様は僕の前世の記憶をよく、聞きたがる。僕は毎日のように魔王様へ母上の話をして、もう話すことがなくなったと思ったら、今度はもう一度あの話を、この話をしてくれと頼まれるようになった。今日は僕が母上に連れられて、初めて領地の人々の前に出されたときの話をご所望らしい。



「――…で、僕をひらひらのフリルで飾り付けて『すごく可愛いわ!きっとみんなも可愛いって思うはずよ!』なんて嬉しそうに言うんです」


「ふふ……そんなことを思いつくのは、きっと彼女だけだろうな」



魔王様は目を細めて、柔らかく笑う。魔王様のこんな顔が見られるようになったのは何百年ぶりだ、と魔王様に長く仕えている者達は嬉しそうだった。



「なぁ、ビリー。……彼女だったら……魔物や魔族でも、好いてくれるだろうか」


「ええ、勿論です」


「……彼女と親しくなりたいと思ってしまうな」



魔王様の言葉を聞いて、僕はどこかいたたまれない気持ちになり目を閉じた。魔王様はきっと、会った事もなければ見たこともなく、声すら知らない相手に少しずつ、惹かれている。


最初は、一度見てみたいものだ。と、興味深そうに言っていて。

その次は、遠くからでいい、一度見てみたいな。と、冗談っぽく。

その次は、一度でいいから話をしてみたい。と、柔らかい声で。


今日に至っては“好いてくれるだろうか”という、不安や期待のこもった声で言い、親しくなりたいと小さく零している。


僕は思う。会った事も、見た事もない。声すら知らない。他人の口から聞くしかない、いわば物語の登場人物のような相手。そんな相手が、人間との争いに疲れた魔王様を癒す唯一の人だなんて酷い話だ。

会った事のない相手に恋をする、なんてことが起こりうるなら。魔王様はきっと、近いうちに――――。




―――――――




毎日のように魔王様へ母上の話をし、それ以外は自分を鍛える日々を過ごし、10年がたった頃。自分でも強くなったと確信できるようになった、そんな時。僕は魔王様に呼び出され、一つの命を受けた。



「ビリー。暫くこの城を離れることを許可する」


「……え?」


「人間の街には入れんかもしれんが、お前の遠視の魔法なら街の外からでも見えるだろう。お前にシュマリナ国の監視を任せる。不穏な動きがあればすぐに知らせろ。特に変化がなければ月に一度、報告に戻れ」



唐突な命令だが、魔王様の望みが何なのかはすぐわかった。

人間の動向の監視なんてのは建前で、本当の目的は“彼女”だろう。魔物の中で母上の魔力を知っているのは僕だけだし、僕しか彼女を見つけられないから。



「わかりました、魔王様。その任、謹んでお受けいたします」



僕が彼女を母と慕っているのを知る魔王様だから、きっと彼女を危険な目に会わせないよう配慮してしまうことも考えにあるはず。

この命令は、恐らく母上を護るため。もう彼女も16歳になる頃だし、きっと美しく、誰もが羨む女性に育っているだろう。面倒事に巻き込まれないとも限らないし、僕が影からこっそり、魔法でも何でも使って護る。


………あと、監視の中で“偶然”見かけた母上の様子を、報告の“ついで”に少しだけ話すのも、いいだろう。



僕が監視の役目を果たすべく、魔王城から飛び立ったこの日から2年後。魔王様と美しい女性となった母上が出会うことを、この時の僕は想像すらできていなかった。




魔王がアイリーンに抱く気持ちは憧れなのか恋なのか。それはまた先の話で…。


ブックマーク、評価、ありがとうございます。励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「俺が君を殺してみせるから、結婚して」という暗殺者と不死の魔女
『暗殺者は不死の魔女を殺したい』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ