母上の息子
お久しぶりです。ビリー視点の番外編です。
僕はビリー。母上が魔王妃となったために魔王様の息子となった、前世の記憶持ちのちょっと変わったデーモンだ。実際、母上とも血はつながっていないのだけど、僕にとっては母上が本当の親。母上も僕のことを息子だと言ってくれるから、親子関係に血のつながりはあまり関係ないのだと思う。
……でも、魔王様を父上と呼ぶのはちょっと、まだ難しい。
まぁ、それはさておき。魔族と結ばれた人間は、魔族になる。体が作り替えられるのだから、それは人間にとって負担なことだろう。母上も最近はずっと具合が悪そうで、僕は心配で仕方がない。ベッドから出てこられない母上に食べやすい柔らかな果物をカットして差し出したり、温かい飲み物を用意したりしながら日々を過ごしている。
段々と魔王様に質が似てくる母上の魔力を感じながら、早くよくなるように毎日祈っている。
「ビリー、ありがとう」
ホットミルクを手渡すと、ベッドの中から母上が僕にほほ笑む。今日は少し顔色が良くてほっとした。
「母上、今なら何か食べられますか?リゾットか果物を用意しましょうか?」
「そうね、果物をお願い」
……よかった。今日は食事もとることができるみたいだ。いそいそとベッドの脇でナイフを手に、桃の皮をむく。桃なら柔らかくて食べやすいだろうから。
食べやすいように小さくカットした桃を小皿に持って、母上に差し出す。少しずつ、ゆっくりだけど口に運んで食べてくれた。
「ねぇ、ビリー。貴方に伝えなきゃいけない事があるの」
「はい、何でしょうか」
母上は優しい顔で笑っている。だから身構えなきゃいけないようなことじゃないだろう。僕もつられて笑いながら、母上の言葉を待った。
「私、おなかの中に子供がいるの」
「…………え?」
ちょっと理解するのに時間がかかった。母上のお腹の中に、子供。それはつまり魔王様の子供だろう。全然膨らんでなくて、妊娠している気配なんて微塵もない母上のお腹を凝視する。……たしかに、わずかだけど魔力の塊があるような気がする。
(……母上の、本当の子供)
親子に血のつながりは関係ないと思っている。思っているけど、だけど。それはちょっとだけ、羨ましい。僕と違って、その子は本当の血のつながりを持った親子になる。
もちろん、おめでたいことだし、悪い感情がある訳じゃない。でもほんとうにちょっとだけ羨ましくて、複雑だった。
「おめでとうございます、母上」
笑って祝福したつもりだけど、どうだろう。僕はちゃんと笑えているかな。
そう思っていたら、母上の手がそっと僕の頭を撫でた。温かくて優しい手だ。
「ありがとう。この子が男の子か女の子か、分からないけど。どっちにしても、生まれたらビリーはお兄さんになるわね」
「………僕が、お兄さん」
「ふふ。そう、お兄さん」
母上にそう言われて、ちょっと自分が恥ずかしくなった。さっきまで、母上の本当の子供に母上を取られてしまうような気がしていた。でも母上は、僕のことを愛おしそうに見て、頭を撫でてくれて、お兄さんになるのだと言ってくれる。
母上が本当に僕を自分の息子だと思っていてくれているのだと、伝わって来て。不安や情けない嫉妬はどこかに飛んでいった。
「……母上、お腹、触ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
そっと、母上のお腹に手を当てる。まだ小さな魔力の塊だけど、確かにそこに居ると分かる。僕の弟か、妹がそこに居るのだ。
「ビリーは男の子と女の子、どっちだと思う?」
「うーん……まだ全然わからないですよ」
「ふふ、そうよね。気が早かったわ」
母上が優しく笑う。僕も笑う。今度は本当に嬉しい顔だ。男の子か、女の子か。どっちでも嬉しい。僕はお兄さんになって、その子を護って行きたい。一緒にお出かけしたり、たくさん遊んであげたりしたい。
早くその子に会いたくて仕方がなくなってしまった。
「早く生まれてこないかな」
「ビリーも気が早いわ。半年以上先なのよ?」
「半年なんてすぐですよ、母上」
魔物にとっての半年なんてほんの一瞬だ。母上が「そういえば、そうだったわ」と可笑しそうに笑った。とても綺麗で優しい顔。生まれてくる子は、出来れば母上に似た女の子がいいなぁ、なんてちょっと思ってしまう。
……ほんのちょっとだけ、そう思ってる。弟でも、勿論うれしい。だって僕はお兄さんになるから。
新連載の方ばっかり更新しててこちらが大分久しぶりです。
頂いたご感想の中に、アイリーンがビリーに子供が出来たことを告げる話が見てみたいとありましたので、書いてみました。
ちょっと不安だったけど、弟か妹が生まれるのが楽しみになったビリーでした。




