※とある令嬢と魔王と国の物語
エピローグ的なものです。
麗らかな午後の日差しが差し込む部屋で、小さな赤髪の少女は大好きな祖母から昔話を聞いていた。そのお話は、この国の者なら誰でも知っている、とても有名な……実話をもとに語り継がれるものである。
『むかしむかしのお話です。シュマリナ王国には大変うつくしく、心やさしい貴族の娘がおりました。誰もが憧れるようなその美しい娘は、この国の王子との結婚が決まっていましたが……王子は心が弱かったのです。美しい姿に化けた悪い魔女に惑わされて、娘を国から追い出してしまいました。
娘が国を追い出され一人途方にくれていると、一人のデーモンが声をかけてきました。
「お嬢さん、我が王が貴女をお呼びしております。どうか私と共に王の元へ来てください」
国から追い出された娘には行くあても頼る家族もありませんでしたから、デーモンの誘いを断る理由があるはずもなく。娘は大人しくデーモンについて、彼らの王に会いに行きました。』
「おばあちゃん、デーモンの王様って、いちばん強いデーモンかな?」
「ふふ、ちょっと違うわ。彼らの王様は、魔物の王様。魔王様のことよ」
「魔王さま……森のずっと向こうのお城に住んでるっていう……?」
「そうよ。その魔王さまに、娘は会いにいったの」
「へぇー」
目を輝かせて自分を見つめる孫の姿に、老婆は笑いかけながら彼女の頭を撫で、物語の続きを口にした。
『デーモンに連れられ娘は大きな城に入ります。そこで出会った彼らの王は、魔王と呼ばれ恐れられている存在でしたが、娘を見ると優しく笑い……家を無くした娘を、城に住まわせてくれました。恐ろしいと聞いていた魔王がとても優しいことを知った娘は、段々と王に心惹かれていきました。そして魔王も同じように、優しく美しい娘に心惹かれていました。
それから娘は、魔王と共に穏やかに時を過ごしていましたが……それを知った悪い魔女は、娘の幸せを壊してやろうと王子をそそのかし、魔王の城に攻め入りました』
「ひどい!せっかく魔王さまと幸せになれそうだったのに……!!」
「そうね、酷い話よねぇ……でも大丈夫よ」
『王子は国一番の勇者でしたが、魔王には手も足も出ませんでした。そして魔王は、王子の前で悪い魔女の正体を暴き、王子が騙されていることを教えました。
自分が娘に酷いことをしたと深く反省した王子は、魔女と共に国へかえり、魔女にきつい罰を与えました。そして騙されていたとはいえ、魔女の言うとおりに娘を追放してしまった自分は次の王様にはなれない。と、弟を次の王様とすることにしました。
弟王子は王様になると、兄の犯した罪を償いたいと魔王へ謝罪し、魔王の国とシュマリナ国は仲直りをすることにしました。
こうして二つの国は、かけがえのない友人として付き合っていくことになったのです。
魔物と人が手を取り合って、笑いあう。今ではあたりまえのその光景は、その時は考えられない奇跡のような光景でした。
そんな光景の中、魔王と娘は幸せな将来を誓い合い、結婚することにしました。二人はいつまでもいつまでも幸せに、二つの国を見守っているのです』
祖母が語り終えると、少女はパチパチと手を叩いて感動を表す。その顔には明るい笑顔が浮かんでいた。
「二人が幸せになってよかった……!!ねぇおばあちゃん、森の向こうの魔王城には、まだその二人がいるんだよね?」
「うん、そうだよ。年に一度のお祭りでは、お二人がシュマリナにこっそり遊びに来ているらしいから……もしかしたらアイリも出会えるかもしれないねぇ」
「ふふ、そっかぁ……お祭りってもうすぐだよね?すごく楽しみだなぁ」
ニコニコと笑いあう祖母とその孫娘。二人を照らす日の光が差し込む窓の向こうでは、様々な人が、魔物が行き交っている。
全ての顔には生き生きとした明るい表情があり、魔物が人を、人が魔物を蔑む姿も憎む姿も見られない。全てが満ち足りた生活を送り、全てが明日を見て生きている。
もうすぐやってくるのは、シュマリナ国が生まれ変わった日を祝う祭り。魔界と講和条約を結び、友好国となった日を記念した伝統的な祭りだ。
――――――これはとある悪役令嬢が、魔王と結ばれたその時から数百年後の話である。
『婚約破棄された悪役令嬢は魔王に求婚されています』は、これでひとまず完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いくださった読者の皆様方、ほんとうにありがとうございました。
書ききれなかった、というか書きたかった設定やお話がちらほらと残っていますので、それは番外編として書いて行けたらと思います。
それではまた、どこかでお会いできた時はどうか温かく見守ってやってくださいませ。
長々と失礼いたしました。ありがとうございました!




