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婚約破棄された悪役令嬢は魔王に求婚されています  作者: Mikura
本編

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21/31

※ヒロイン

ディグルとの逢瀬、リザベラ視点で。



(あぁ、やっと……やっと会えた……!!)



「これ以上踏み入るな。これより先は魔界、人間の来るところではない」



ゴミでも見るような冷たい目。肌を突き刺すようなこの感じは殺気というものかもしれない。でもそんなの関係ない。深い緑の髪、若葉色の瞳、悪魔の翼。今はとても鋭く見えるけれど、笑うと柔らかくなる顔立ち。知っている、私は彼を知っている。

何度もプレイした、セリフは一字一句違えず言える自信がある。私は彼に、ディグルに愛されるために生まれてきたヒロインだ。



「けれどそちらに、人間が一人いるはずです。私たちは彼女を救いに来たんです、もう彼女にひどいこと……しないでください……!!」



ゆっくりと視線が私に向けられる。今は親の仇でも見るような目を向けられているけれど、この目が笑うことを私は知っている。だから何も怖くない。



「酷いこと?そんなことするはずないだろう。魔王様は人間との和平を望んでいるのだから」



それは嘘。彼はアイリーンを拷問しているはず。儀式の日、私はアイリーンを拷問するディグルの姿を見るはずだった。けれど、占いでは彼の姿もアイリーンの姿も見ることはできなかった。見えたのは暗い顔の前作の攻略者達。でもストーリーで知っている。自分を殺した相手を憎み、当時の恐怖と恨みをぶつけているはず。儀式の場で私はそのことを訴えて、彼に会うためにこうしてやってきた。



「魔王様と貴方の考えは違うのでしょう。だからアイリーン様にあんなひどいことを……」


「その名を呼ぶな、吐き気がする」



アイリーンの名を聞くだけで吐き気がすると言う、ストーリー通りの台詞。あぁ、ディグルだ。本物のディグルが目の前に居る。私の言葉に、答えてくれる。

直ぐにその憎しみから私が救ってあげる。私だけを見て、私だけを愛してすべてがどうでもよくなるような幸せを、私が彼に与えるのだ。



「……余程、憎んでいらっしゃるのね。でも、私は」


「戯言は聞きたくない」


(あれ?おかしいな)



ここは、私のアイリーンを思う言葉に、人間の心のやさしさにディグルが動揺する場面のはず。そのディグルが何故、私の言葉を遮るのだろうか?



「……なんで?ディグルがなんで私の話を聞いてくれないの……?」



そんなはずはないのに。ディグルがヒロインである私の話を聞かないなんて、そんなことあるはずがない。そんな気持ちが口から洩れていたらしい。名前を言ってしまった私をディグルが凝視した。



「何故お前がその名を知っている?」



ヤバイ。早く言い訳しないと。彼の名前を知っている、とても自然な言い訳。そう、占いで見た事にすればいい。そう思って少し早口に答える。



「え?それは予知で見て魔王が貴方をそう呼んでたからで……それよりディグル、私の話を」


「それは可笑しい。僕はディグルじゃない」



―――――何を言っているの?

ディグルは、ディグルだ。私がずっと好きだった、苦しい前世を持つデーモンのディグル。人間を憎んでいたけれど、ヒロインに心解かされて優しい笑顔を浮かべるようになるディグル。彼はどこからどう見ても、ディグルで。



「それは僕の名になる予定だったものだ。そんな名を、何故お前が知っている?」



……ディグルが、ディグルでないなんてことがあり得るはずが、ないのに。

どうして。どうして。どうして。なんで?ありえない。嘘だ。そう、彼は嘘を言っているに違いない。



「ディ……っ!?」



私の周りを、透明な膜が覆ったようだった。突然全身から力が抜け、その場にへたり込む。どういう、こと?



「お前たちを魔王様から連れてくるよう命を受けた。他の人間は帰っていい。帰りたければ帰れるが、そうでなければ永遠に彷徨う」



透明な箱にでも入れられているようだ。この箱はディグルの思うままに動くらしく、宙に浮いて、ディグルのすぐ下までやってきた。私のほかにもアーサー、ウォルフ、アイン。前作攻略者の三人が浮かんでいる。私と同様、体に力が入らないのか情けない恰好をしていて、顔を歪めそうになるのを堪える。格好悪いし、役に立たない。やっぱりディグル以外の男なんて皆ダメだわ。

眼下の兵たちは主戦力が簡単に捕らえられたことで完全に戦意喪失。全く、使えないやつらばかり。一人逃げ出せば次々に消えていく。お姫様が捕まってるのに助けようともしないわけ?



「本当はお前らなんて……今すぐ残酷な死を与えてやりたいくらいだが、命令には逆らえないからな」



本当に攻撃されたのではと錯覚するくらいに痛い殺気に身が震えた。……ディグル、どうして。なんでこんなことするの……?



「なんで……?」


「答えたくもない。魔王様の前で、自分の罪を償え」



ディグルが飛んで移動すると同じように私たちの箱も動いた。頭上のディグルはつめたい目のまま真っ直ぐ、魔王の城がある方を見つめて飛んでいる。

どうしてこうなったのだろう。どうしてシナリオ通りに進まないのだろう。もしかして、現実だから難易度が上がってしまっているのか。


(そうね、きっとそう……ディグルに会って、魔王の元に連れていかれるのはゲームの流れと同じ……色々違うところはあるけど、それはここが現実だからよね)


大丈夫。もう少しでディグルと結ばれる。ディグルの甘い笑顔を独り占めできる。大丈夫。



だって私は主人公(ヒロイン)だもの。




よし、次は魔王様の出番です。ぎゃふんと言わせたい……

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