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食って掛かられました

これで新キャラは最後に…したい…。

海でネレウスとであった翌日、彼はさっそく魔王城……というか、私の元に押しかけてきた。そして一人でひたすら喋り倒し、二時間ほどで満足したのか帰っていった、という嵐のような時間を過ごした後のこと。

夕食の時間が迫り、いつものようにビリーに連れられ食堂に向かっていたら、突然廊下の先に人影が現れた。その驚きで、ぴたりと足を止めた私に険のある声がかけらる。



「おい。人間、貴様どういうつもりだ?」



私の前に立ちはだかるのは、肌の一部に鱗が見受けられるどこかネレウスに似た顔立ちの少年――いや、青年だろうか。人間で言うなら16、17歳くらいに見える若い魔族だ。

……確実に、例の弟だろう。



「魔王様や頭の固いビリーに加えて兄貴にまで手をだしやがって。どんな魔術使ってやがる」


「おいセレン。母上にこれ以上の暴言を吐くなら許さない」



ネレウスの弟であろうセレンという青年は、腕を組んでジロリと私を睨みつける。その海のように青い目―――というのは、この魔界では間違いかもしれないが――には不信感や嫌悪感があふれていた。

そんな彼に今にも殴りかかりそうになるビリーに少し驚きだ。いつもニコニコととろけるような、大輪の花が咲くような笑顔で居るからほとんど怒らない性質なのだろうと思っていた。それが今はまるで鋭利な刃物を彷彿させるような表情をして目の前の魔族を見ている。



「……とりあえず、ビリー。落ち着いて」


「母上、しかし」


「私は大丈夫よ。それから……セレンと言ったかしら?貴方の言い分は否定させていただくわ。私は魔王様にも、ビリーにも、ネレウスにも。誰にも魔術なんて使っていないわ」



真っ直ぐとセレンの目を見つめて否定する。怖い顔はしていないつもりだけれど、少したじろいだ様子の彼は私から目をそらした。

意外だ。てっきり、もっと強く睨まれると思ったのだけれど。



「ふん、どうだかな。貴様が変なことをしてねぇっていう証拠がねぇし」


「私が変なことをしたって証拠も無いわね」



うぐっ、と言葉に詰まるセレン。必死に何か言葉をひねり出そうとしている様子に、つい頑張れと応援してしまいたくなる。それほど必死な姿なのだ。つい敵意を向けられていることも忘れて気が抜けてしまいそうになる。



「そうだ!そもそも兄貴が人間に会いに来るなんて可笑しい!!」


「そう思うなら本人に訊いてくださる?私に言われても分からないわ」


「兄貴が操られてたらまともな答えが返ってくるわけないだろ!!」


「貴方、自分のお兄さんを信用してないの?それとも貴方のお兄さんは私のような人間の小娘一人にどうこうされてしまうような魔族なのかしら?」


「そんな訳あるか!!!貴様に兄貴をどうかできるわけない!!!」


「そう、じゃぁ問題は解決ね。そこをどいてくださる?」



彼を見ていると活きのいい子犬を見ているような気分になる。ちょっとからかってしまったけれど先に突っかかってきたのはあちらなのだしそれくらい構わないだろう。

けれど、私は早く話を切り上げてしまいたかった。隣のビリーから感じる魔力が刺々しいこともあるけれど、それ以上にまずいのは、無音でセレンの背後から現れた人物だ。



「退かない!!貴様が白状するまで俺は」


「何をしている?」



恐る恐る振り返ったセレンの目に映るのは氷のようにつめたい目をしたリヴァルト様。

その顔は、私が初めて見る顔だった。凍てつくような冷たい目。無表情なのに、目だけは皮膚を刺すような冷たさ。私に向けられているわけでもないのに、辺りの温度が一気に下がってしまったかのような寒気を覚える。



「まおう、さま」


「何をしている、と。訊いた」



私の知っているリヴァルト様はいつも優しい目をしていた。だから今の顔は――きっと、これが魔王としてのリヴァルト様の顔なのだろうけれど。それがとても怖いと思った。

その氷の視線を一身に受けているセレンは、動けず固まって……いや、小刻みに震えながら何も答えることが出来ず、リヴァルト様から目をそらすことも出来ずにいる。



「……母上?」



私はその場にゆっくり歩み出た。ビリーの困惑した声が聞こえたけれど迷わず、セレンと魔王様の間に立った。

リヴァルト様の冷たい目が自然と私を捉えて――その冷たさは一瞬のもので直ぐに困ったような表情に変わったけれど。それでも冷や汗が流れた。



「アイリーン嬢、今は」


「ちょっと二人で悪ふざけをしておりました。私が彼をからかいすぎて、彼が少し興奮してしまっただけなのです。ね、セレン?」



振り返って、目で合わせろという念を送る。セレンは少し慌てつつ「は、はい。そうです。すみません」と答えて頭を下げた。私も彼と同じように頭を下げる。



「お騒がせしてしまって申し訳ありません、魔王様」


「……いや、アイリーン嬢が謝ることではない。邪魔をしてすまなかった」



コツ、コツ。と足音が遠ざかり、聞こえなくなってから顔を上げた。当然、そこにリヴァルト様の姿はない。少しほっとして、息を吐く。先ほどのリヴァルト様はやはり魔王だけあってとても怖くて、威圧感があった。いつも優しくて忘れそうになるけれど、彼は魔物の頂点にある魔王なのだと再認識させられた。



「さて、ビリー。食堂に行きましょうか」


「はい、母上」


「っ待てよ……!!」



ビリーと連れ立ってその場を去ろうとしたのだけど、セレンに止められた。振り返れば彼は少し赤い顔をして、私を睨んでいる。今日はずっと彼に睨まれっぱなしだけれど、その目は先ほどまでと少し変わっているような気がした。



「助けてもらったなんて思わない!!礼も言わないからな!!」


「お前、ここまでしてもらってまだそんな口を」


「ビリー、気にしてないから。それに、別にお礼が言われたかった訳じゃないわ」


「じゃぁ何であんなことした!!」



セレンが食って掛かる。ビリーもそれは不思議がっていたようだから、言わないといけないような気がしてため息を吐きつつ答えることにする。



「………魔王様の、笑った顔のほうが好きだからよ」


「は?」


「私はあんなに怒った魔王様を初めて見たわ。あれも魔王様の顔の一つなのだろうけれど……でも、出来れば笑っててほしいの。結果的に貴方を助けたような形になっただけで、貴方のためにしたことじゃないわ。私は私のために動いたの」



そう。リヴァルト様は笑った顔がとても可愛い人だ。私のために怒ってくれたのだろうけれど、でもできるなら笑っている顔を見ていたいと、そう思ってしまう。それは私の我儘だろうけれど、でもそうあって欲しいと思うから、そうなれるように動いただけ。それだけのこと。



「……意味わかんねぇの。あんた、魔王様のことそんなに好きなのか?」


「へ」


「だってそうだろ?あーくそ、惚気んなよな。両想いならさっさとくっつけばいいのに。俺はあんたが魔王様もビリーも兄貴もたぶらかすようなクソ女だと思って色々考えてたのによー」



セレンの言葉は殆ど頭に入ってこなかった。

……私はそんなに、リヴァルト様のことが好きなのだろうか。今日会ったばかりの相手に言われるほど、表にそういう感情がにじみ出ているのだろうか。どうすればいいのか分からなくなってビリーを見ると、ビリーは笑顔になった。……笑顔になっただけで、何も答えてくれなかった。




その夜、ビリーがリヴァルト様に「アイリーン嬢にあんな姿を見せてしまった…!!怯えられていないだろうか…!!大丈夫だったか、ビリー!!」と詰め寄られていたと翌日こっそり教えてくれたセレンは「魔王様の情報教えてやったから、これで貸し借りなしな!」と笑った。

まるで友達のように気安く話しかけてきた彼に、いったいどんな心境の変化があったのか私にはさっぱりわからなかった。




魔王、ついにアイリーンにばれました。


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