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不安になりました

そろそろヒロイン()ちゃんの視点も書きたいなぁと思っているところです



「やーまさか魔界で何の装備もない無防備な人間(・・)を見る日がくるなんてねー。君が噂のアイリーン嬢か。俺のことはネレウスって呼んでよ、よろしく」



ニッと笑うネレウスの言葉――特に、人間という部分に何か棘が含まれているような気がした。気のせい、かもしれないけれど。

妙な引っ掛かりを覚えたせいで、笑顔がぎこちなくなったからだろう。軽く口笛を吹いて「結構するどいね」と言われた。どうやら気のせいじゃなかったらしい。



「……海王」


「魔王様、俺は人間に良い感情抱いてないって知ってるでしょ。まぁこの子を知らないから何も言わないけどさ。あ、そういえば弟はどうしてる?」


「お前の思っている通りだ」


「だろうなー俺よりひどいからな、アイツの人間嫌い」



ネレウスの笑顔は、どこか嘘くさい。人間が嫌いというより人間に恨みを持っている、という方が正しそうだ。彼の目に映る陰りは、ただの嫌悪からくるものではない。たくさんの否定の視線を受けてきた私には、なんとなくわかる。



「……あれ、これは予想外。貴族のお嬢様ならちょっとくらい傷つくと思ったけど」



二人のやり取りを眺めながら考え事をしていた私に、少し訝し気な目を向けて呟くネレウス。そんな彼に苦笑を浮かべつつ、答える。



「私は嫌われ者でございましたので、好意を向けられるよりこちらの方が慣れていますの。それに、生きていればどこかで恨みを買うものです。誰からも好かれようなんて思いませんし……私は、私を思ってくださる方を大事にするだけです。それ以外は意識の外に置きます」


「とっても自分勝手じゃない?それ」


「心得ております。でも、その方が楽ですよ?他人の目を気にして生きると碌なことがありません」



本当に、そう。他人の目を気にして貴族として完璧に生きて、他人がつけた評価がすべての世界で、私はひたすら孤独だった。誰にも自分を見せられず、誰も頼ることができず。けれどそんな努力もすべて他人の評価で無に帰してしまった。

今、私を大事にしてくれる人たちがいて、私はそんな人たちを大事に思っているし、大事にしたい。それはとても、普通のことじゃないだろうか。



「……なんか俺の思ってた返答と違って戸惑うんだけど」


「アイリーン嬢は特別だと言っているだろうが」


「いや、それは魔王様の個人的な感情が織り交ざってのことだと……っていうか、魔族を前にしての表情?なんていうの?目がさ、俺が知ってる人間と違うっていうか」



ネレウスは深いため息とともに体の力を抜いて、少しバツが悪そうな顔で頬を掻く。そして私をまっすぐ見て、ちょっと困ったように笑った。



「俺、人間のことよく知らなかった、ってのがよくわかった。ごめんね、ちょっと意地悪した」


「いえ、気にしてません」


「うん、ついでに俺とも仲良くしてくれる?人間のこと教えてよ。魔王城にも遊びに行くからさ」



差し出された手と彼の顔を見比べる。さっきまでの、どこか否定的な、拒絶するような色が全く消えていた。私も少し、ほっとする。気にしないとは言ったが、いきなり嫌悪を向けられるとあの時の差すようなたくさんの目を思い出しそうになるし、いい気持ちはしないから。



「私でよければ」



そっと彼の手を握ると、ぎゅっと強く握り返されて驚いた。彼の手は水のように冷たいけど、強く握られると熱いような気がする。しかも中々手を離してくれない。驚きと戸惑いでどうすればいいのか分からなくて内心おろおろしていたが、ネレウスがある一点を見てニヤニヤしているのに気づいてその視線を追った。


………リヴァルト様が眉間に深い深い皺を刻みつつネレウスを睨んでいた。



「ま、そういうことでよろしくね、アイリーンちゃん」


「え、はい……ん?」



視線で人を殺せるとしたら、今のリヴァルト様の視線がそうだろうな、などと考えていたのでいきなり手を離され、かけられた言葉が上手く頭に入らなかった。

………気のせいでなければ、たぶん、“ちゃん”付けで呼ばれたような。



「海王……いい加減にしろ……」


「ごめんって魔王様、そんなに怒らないでよ。俺が彼女に絡むのは分かってたことじゃないの、怒るならなんで俺と彼女を会わせたのさ?」



それは私も気になっていた。リヴァルト様はネレウスを紹介したかったと言ったし、私に彼を会わせたかったのは確かだ。人間嫌いの彼に、わざわざ私を会わせたのは不思議に思う。



「………彼女を妃に迎えたときに、お前に反対されたくないからだ」


「本気なんだ?」


「あぁ、本気だ。良い返事をもらうために努めている最中だしな」



……何だろう、ものすごく、顔が熱い。恥ずかしいんだか、嬉しいんだか分からない。リヴァルト様の声がとても真剣で、顔は見ていないけど声と同じく真剣な顔なのだろうと予想できる。どうしよう、俯いてしまった顔をあげられない。



「あーなるほどなるほど。なんか面白いことになってるわけだね、暫く退屈しなさそう」


「どういう意味だ?」


「これからたくさん遊びに行くよって話さ」



ネレウスは楽しそうだ。そっと視線を上げると、ニヤニヤしている彼が目に入った。……この人、他人をからかって楽しむ意地の悪いタイプだ。



「あ、そうだ。俺の弟さ、単細胞っていうか直情型のバカだから気を付けてね」


「……えっと?」


「人間嫌いが激しくてね。ついでに思い込みも激しいからさ。魔王様が君を守ってるとはいえ……念のため、ね」



……ニコニコと笑うネレウスから何かとても不安の残る言葉をいただきました。かなり気になるからそういうの、やめてほしい。



おまけ

海から帰ってきた魔王とビリー


「魔王様、転移の時目をつぶったアイリーン嬢を見て固まってましたね」

「っごほ………いや、あれは」

「とても無防備でキスくらいならできそうでしたもんね」

「……ビリー、何が言いたいんだ」

「いえ。魔王様が硬派でよかったなぁと。まさか付き合う前からそんなことしませんよね、魔王様なら」

「…………今日はどうしたんだ?なんだか、いつもと様子が」

「違いません。僕はアイリーン嬢に幸せになって欲しいだけです」

(……なんだか、母親を取られそうになって拗ねている子供のように見えるのは気のせいか?)



応援したいけど結婚する前にいちゃつかれるとなんかモヤモヤするビリーでした。多分まだまだ母親に甘えたいお年頃です(笑)



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[良い点] ビリーが可愛い尊い!!(//∇//)
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