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※ 怖い魔王様

ビリー視点。

謁見の間―――ここでは週に一度、どんな立場の者でも魔王様へ意見を述べることができる報告会が開かれる。

今日も魔王様は魔物たちの声に耳を傾けて、正当性のある話ならしっかりそのものの意見を取り入れて政に活かそうとしていたのだけど。怒りに染まった顔の魔族が前へ進み出た時、嫌な予感がした。



「魔王様!!何故人間などを城へ入れたのですか!!!」



あぁ、いけない。止めなくては。そう思うのに、体は動かない。何故なら怖いから。

今、魔王様に食って掛かっているのは一人の若者(といっても僕よりは年上)で、父親を人間に殺され深い恨みを持ち、“人間迫害主義”となった魔族だ。


僕たち魔族にも色々なものが居る。人間と仲良くしたいと共存の平和を望む者、人間など興味はないから住み分けをしてお互い干渉しないようにしたいという者、本当に様々。その中で過激思想と呼ばれるのが“人間迫害主義”。人間を害し数を減らして、残った者は奴隷として使えばいいという考え。このような考え方をする者は一握りだけれど、しかし強く団結していて消えない思想でもある。


人間は魔物を殺す。それはきっと、魔物が人間の理解を超えた生き物だからだと魔王様は言う。分からないものは怖い、受け入れられない、だから殺す。人間はとても弱いからそうなってしまう。分かり合いたいけれど、きっと無理だと悲しそうに言う。



「人間なんて醜悪で、残酷で、愚かな生き物だ!この城に百害もたらしたとしても利益なんて」


「黙れ」



鳥肌が立つほど恐ろしく、腹の底に響くような低い声。

魔王様は普段、温厚で優しい方だ。大抵のことは笑って許してくれる。けれど、僕ら魔物の頂点に立つ最強の存在であることに違いはない。もし、怒らせてしまったら――――。



「彼女を知らぬお前が彼女を語るな」


「し、しかし」


「黙れと言っている。その耳は飾りか?要らぬなら切り落とす」



魔王様の怒気を含んだ魔力が膨れ上がり、この部屋を支配している。凍てつく氷のような視線で射抜かれた男は小刻みに震えて顔色を完全になくしているが、魔王様を怒らせるのが悪い。……母上のことは以前から魔王様にとって聖域といえるものだったから、城に居る者は何を思っていたとしても彼女を誹るようなことだけは口にしなかったのに。

母上がこの城に居るのを知っているということは、城で働く者であるのは確実だ。けれど魔王様の逆鱗を知らないのは、おそらくここにやってきてまだ日が浅いからだろう。


(……きっと新人なんだろうけれど……可哀想に)



「彼女を侮辱する者は誰であっても容赦しない。それが親であろうが、子供であろうが、彼女の祖国であろうが……彼女を否定するすべてを私は潰す。気に食わぬというなら私の首を狙うことを許可してやろう。まぁ、お前に獲れるとは思えんがな」



というか誰にもその首はとれないだろう。自分がどれだけ雲の上の存在か理解して言っているのだから意地が悪い。魔王様を殺せる者が居るなら、既にその者が魔王となっている。魔物の頂点が魔王となる、完全な実力主義。全ての魔物を抑えて、遥か高みに居る現魔王様に勝てる者なんていない。


(……あ、でも……母上は別かも)


母上一人に心を大きく左右される魔王様。だから母上なら、違う意味で魔王様を負かすことができるかもしれない。



「他の者も、彼女を迎え入れることが受け入れられないならここを去るか、私の首を取って彼女を追い出せばいい。何、たとえ首狩りに失敗したとしても命は取らぬ。何度でも挑戦すればいい。ただし……彼女に手を出した時は、死ねた方がマシだと思わせてやるからそのつもりでな。さて、話はそれだけか?」


「……はい……すみ…ません……」


「では下がれ。次の者、前に」



随分と細く小さくなって引っ込んだ男は、それから俯いて魔王様を見ることはなかった。

その後は滞りなく報告会は進み、いつもより早く終了した。……少なからず母上のことを話に出そうとして止めた者が居るに違いない。

参加した魔族たちが出て行き、一人残った僕は魔王様の前に進み出た。



「魔王様、お話が」


「……ビリーか。どうした?」



報告会では出来ぬ話か?と真剣な表情をする魔王様に、きっと何か危険なこととか、厄介事だと思っているのだろうと思いつつ「アイリーン様が」と声にする。



「アイリーン嬢に何かあったのか!?」


「あ、いえ。魔王様にお話があると」


「……そ、そうか……では後程伺おう」



浮かしかけた腰を落ち着けつつ、咳払いで誤魔化そうとする魔王様は先ほどとあまりにも違い過ぎて、少し面白い。こんなことを思っては失礼かもしれないけれど。

やっぱり、魔王様は母上にだけは勝てない気がする。だって母上の名前を出しただけでこんなに動揺してしまうのだ。そんな姿の魔王様は、きっと僕しかしらないのだろう。



「ビリー、アイリーン嬢にできるだけついていてくれ。脅しはしたが、彼女に害をなす者がいないともかぎらない」


「仰せのままに」



実のところ、僕はこういう一人に振り回されてしまう魔王様が結構かわいらしいと思っている。誰にも言えない秘密だけど。

魔王様も、母上も大好きだ。だからできれば、二人に幸せになって欲しい。……いや、二人()幸せになって欲しい、かな。


(あれ、母上と魔王様が結婚したら、魔王様は父上……?)


それはちょっと……いやかなり、微妙な気持ちになるけれど。

でも二人が笑いあって幸せになる未来は、訪れてほしいと願うばかりだ。



魔王様、アイリーンのことは「貴女」と呼びますがそのほかは「お前」呼びです。あと、アイリーンの前だと少し口調が柔らかいですね。

わざと変えている訳ではないのですが、自然とそうなってしまう程アイリーンを大事にしたいって感じで考えてくださいませ。


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