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婚約破棄されました

悪役令嬢系やってみたくて見切り発車ではじめました。がんばります

※5/1 誤字修正。報告ありがとうございます!

私、アイリーン=テンペジアは、テンペジア公爵家の長女で、聖シュマリナ国第一王子アーサー=ティルア=シュマリナの婚約者“だった”。

人間が決して立ち入らない【魔の森】に到着するまで扉の開くことがない魔法馬車で体を揺られながら、私は考える。なぜ、どうして、こうなってしまったのかと。




―――――――――




「アイリーン=テンペジア。お前との婚約を破棄する」



よく通る力強い声で、透き通るような青い瞳には嫌悪を映し、私を睨んでいたアーサー殿下。その殿下に肩を抱かれ、まるで怯える小動物のように震えながら窺うような視線を向けている、リザベラ=サマスディア男爵令嬢。

二人の後ろには殿下の懐刀である騎士と、この国の宰相の息子もいて。鋭い眼光でこちらを見ている。




「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか、アーサー殿下」


「理由?それはお前が一番よく分かっているんじゃないか。彼女に、いったいどれほどの非道を働いてきたのか。認めないわけではないだろうな」



そう言ってリザベラ嬢の肩をより一層強く引き寄せる。リザベラ嬢は頬を染めて、驚いたようにアーサー殿下を見つめ――――なんという、茶番だろうか。

昔、私が生まれるより前に見た状況と全く同じ。ヒロインを虐める悪役令嬢が断罪されるシーンが、私を悪役令嬢として進んでいた。


この世界は、剣と魔法で魔物を退治するRPG要素を多分に含んだ乙女ゲーム「ドキドキ魔法学園物語」そのもの。この乙女ゲームの舞台は、魔法が使える者を育成することを目的とした学園。魔法を使えるのは魔力を持つ者。そして魔力は血によって受け継がれる。この国では、貴族だけが魔力をもっている。主人公は身分の低い令嬢だが、強い魔力を持っていた。学園でもトップクラスの身分を持つ男子たちと協力して魔物を退治しながら信頼し合い、いつしか愛情をはぐくんでいくというもの。しかし恋愛には障害がつきものだ。ここで出てくるのが私、愛情を育む二人の仲を面白くないと思う悪役令嬢アイリーン=テンペジア。主人公に様々な嫌がらせをして殺人未遂まで犯す。しかし、私がそんなことをするはずがないのだ。


(なんでこうなったのかさっぱり、分からない……)


私には前世の記憶があった。ゲーム好きな女子高生の意識をそのまま引き継いで、生まれてしまった。自分の名前と幼いころにできた婚約者の名前を知った時には驚いたが、ゲームのストーリーが始まる前に気づけてラッキーだとも思っていた。ヒロインを虐めなければ、王子から大人しく身を引けば、私には平和が訪れると信じていた。

それが、気づけば私がリザベラ嬢の私物を破壊したり、雇った者に襲わせて傷ものにしようとしたり、仕舞いには湖に突き落して殺そうとしたことになっていた。

私は何もしていないのに。次々に証拠も出てきて、意味が分からなかった。



「お前のような女が王妃になどなれば、この国は滅ぶ。このような事件を起こしては、この国にも居場所はないだろう。―――アイリーン=テンペジアを、【魔の森】へ追放する」



反論は認めない。私を見るすべての瞳はそう告げていた。―――一いや、一つだけ。嘲りを込めた、勝ち誇ったようなリザベラ嬢の瞳を除いて、か。




―――――――――――




18歳の誕生日に突き付けられた婚約破棄。そして国外追放という名の死刑にもう、乾いた笑いをこぼすばかりだ。

この国には貴族を死刑にする、という法律はない。公爵家ともなれば王族との血縁すらある貴族だ。身分を奪ったとしてその血を奪えるわけではない。外で生きられて、後々血による争いの元となっても困る。そこで、【魔の森】への国外追放という処刑が生まれた。

魔の森。それは、魔物が巣食う木の生い茂った暗い森。瘴気が立ち込めるその森に棲む魔物は総じて強く、国軍ですら突破することができないおそろしい森。この森を抜けなくては、魔物の頂点に立つ魔王の城に行くことはできないという場所だ。


そんな場所に、魔力封じの腕輪を付けられて送り込まれる。それが魔の森への追放という、罰。

魔力封じの腕輪は、魔力を体の外に出さないようにするもの。魔力が出せなければ魔法は使えない。装着している者の魔力を吸い取って発動し続ける物で、装着者には決して外せない。自然に外れるときは魔力が切れたとき―――すなわち、生命活動が停止し魔力が作られなくなった時だけ。


魔法も使えず、剣も持たず、強力な魔物の住む森に一人で行く。つまり、それは死と同義。



ゆっくりと停車した馬車。あぁ、泣きたい。私はどうしてこうなってしまったのだろう。

止まったということは、目的の場所についたのだろう。この扉を開ければ、そこは魔の森。私の死に場所。


つまらない人生だった。貴族としてのマナーを叩き込まれ、王太子殿下の婚約者だからと恋愛することもなくひたすら国のことを学び、王妃となるための教育を受けて―――すべて無駄になった。

ただの女子高生だった私の常識を覆す常識の中で生きて、ひたすら辛かったけれど、最後にはきっと幸せになれると思っていたのに。


馬車を囲む魔物の気配を感じる。もう、終わりなのか。

悲しくてつらいのに涙が出ない。そういえば、もうずいぶんと泣いていなかった気がする。最後に泣いたのはこの世界の悪役令嬢だと気づいたときだった。自分を抑え込んで生きてきた、幸せになりたかった。様々な思いが胸の中で混ざり合って、もうぐちゃぐちゃだ。

このまま、馬車の中で死を待つばかり―――そう思った瞬間、扉が開いた。


何で扉が勝手に開くんだと目を見張る私の視界に、整った顔の男が映る。

男は私を見ると心底嬉しそうに緑の瞳を和らげて笑った。



「お迎えに上がりました、母上」



………母上?




母上と呼ばれる理由はそのうちに。


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「俺が君を殺してみせるから、結婚して」という暗殺者と不死の魔女
『暗殺者は不死の魔女を殺したい』
― 新着の感想 ―
[一言] 花騎士を読みまして、こちらが再度気になり読み直しています。アイリーンさんの人間くさいところがいいですね。 ところで、最初にアホ王子がお前が王妃になったらこの国が滅ぶはフラグだったのでしょうか…
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