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春を迎える為に

私はしがない兵士。

基本的に城の周りの警備と、城門を担当している。

そして、今日から新しい新人が入ることになった。


「えっと、ゴーレムだ。みんな怖がらずにゴーレムには、城門の警護のみをしてもらう。何か質問は?」


何か質問は?と言われれば質問だらけだ。

なぜ?ゴーレムが?いや、そういえば最近夜勤の兵士がゴーレムを見たとか、巨大な影を見たとか、ボリボリ何かを砕くような音が響いていた。


なんかの予兆かもとか、ついに疲労で視覚に異変がきたとか言われていたんだが。


目の前に無言で佇むゴーレムをみて何故か納得してしまった。

何かの予兆ではなく。勇者様の奇行の方だったらしい。

流石というか。我々には及びもつかない思考をされているらしく。

我々は振り回されっぱなしである。

例をだすとキリがないが、この間落石があって道を塞いだときなんかは、軽く拳で巨石を粉砕していた。

スコップ等作業道具を持って駆けつけた我々は、10秒近く固まっていた。

しかし、度々。現実に引き戻してくださるのは、和樹様だ。

和樹様は、我々にも気さくで最初勇者様のご友人であらせられる賢者様と呼んでいたのだが、笑顔で和樹でいいですよ。っと言っていただいたが、いえ。恐れおおいです。と言ったら。いえ。是非和樹でお願いします。っと笑顔だったにもかかわらず何故か寒気が襲ってくるという怪奇現象にあったものの。

結局我々は根負けしてしまい。最終的に和樹様と呼ぶにいたった。

しかし、和樹様も少しずれている。

「お前動かすならもうちょっと、道の横にずらしてから壊せよ。どうせ退かさなきゃいけなくなるんだから」

「ああ、そっか。」

「うん。という訳でこれあっちに持って行って」

「了解。」


うん。違うんだ。いや、違いますよね。そんなでっかい石を軽々持ち運んでっていうか。


「あの。和樹様。ーー。」

私が次の言葉を発言しようとする前にズドーンっと後ろで音がする。

そんな私を軽く見た後。ああ、わかってますから的な感じで対応する。和樹様にわかってくれたのかとホッとしたのも束の間。

「浩輔。岩を投げるな。危ないだろうが、みんなが不安がってる。」

「ちゃんと確認したんだけどなぁ」

「いや、確認されようがあんな岩落とされたらお前じゃあるまいし、みんな一発であの世行きだかな。滝さんも言ってただろ。現場の安全が最優先だって」

「そっか。気をつける。」


滝さんとは誰だ。嫌。そこじゃない。突っ込みどころがありすぎて、固まった私達を放置してまさかの短時間でこの土砂崩れは収束した。


そんなこんなで目の前のゴーレムだが、最初に紹介された時はどうしようかと、いや、どうしたらいいのかと、思ったが、毎日一緒に仕事をしていると、情も湧くもので。


「今日は、花コウ岩かな。」

そういって、兵士三人がかりで台車に岩をのせて、ゴロゴロと運ぶ。

そこには城の門より大きなゴーレムが微動だにしないまま立っている。

「よう。ゴーレム。飯だぞ。」

兵士の一人が声をかけると、ゴーレムは、その風貌とは違い機敏な動きで敬礼される。

うん。異様だ。

だが、慣れとは恐ろしい。

「おう。」

っという感じで敬礼を返すと、また元の姿勢に戻る。

不思議だが、こちらの言葉を理解できるらしい。

台車をゴーレムの側の馬車置き場に置くと、いつも通りゴーレムは、こっちに歩いてくる。代わりの兵士が、二人立って警備を続ける。

「今日は珍しい石が入ったから、食べてみてくれ」

まあ、勇者様がどっからか持ってきた石なので偉そうには言えないが、新しく石置き場が設置されたり大変だったが、今は、24時間働いてくれるので休みや交代が多くなったからみんな大喜びだった。

だからか、みんなゴーレムには、優しい。

というか。食べてる姿が、


「かわいい・・・」


そう・・・。

城で働いている女の子達はたまにこれを見にくる。

そして、


「こっちから、見た方が危なくないから」


そういって、エスコートするように連れて行く兵士を眺めながら、きっとあのままデートに誘うのだろう。

出会いも、休みも増えた。これで憎む奴はいない。


そして、私も



「クラーク。」

俺を呼ぶ声。

「やあ、セリア。今日も見に?」


「んー。今日はちょっと、違うの。これ」

差し出された包みを受け取ると中身を確認する。

「なんだい?」


「クッキーを焼いたの。あれ見ると食べたくなるでしょう?」

そういって見つめる先には体育座りと呼ばれる姿で岩を食べるゴーレム。

「ああ、まあ」

俺が苦笑していると


「でも、ーー」

「え?」

聞こえなかった為。俺が聞き返すと、少しうつむきながら彼女はいった。


「今日。朝から、早起きしたの。調理場を少し借りて、・・・だから、お礼はこの間言っていたお店に連れてってくれたらいいなぁって」


恥ずかしがりながらいう彼女は顔を真っ赤にさせていて俺を見ている。

この間の店?一瞬何を言われたのかわからずだまってしまったが、そう言えば先週誘ったけど断られてしまった事を思い出した。


「も、もちろん。」

そんなことを言われるとは思っていなかった俺は、声が上ずってしまったが、なんとか約束を取り付けた。


俺達は、今日もゴーレムの為に岩を運ぶ。


勿論。下心アリだけど、これも、なんだかんだで勇者様のお陰だ。


「ああ、勇者様ゴーレムを連れてきてくれてありがとう。」


今日もまた、誰かに彼女ができたらしい。誰かが部屋でさけぶ声が聞こえる。


俺も叫ぶ日が来るのだろうか?


でも、きっと、もうすぐ俺にも春が・・・


明日のデートは何を持って行こうか。

にやけそうな顔を整え部屋を出る。


いざ。俺の春に向かって。

兵士の日常です。

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