前編
モウシ、って知ってます?
中国の学者じゃないですよ。
メクラにミル、で「盲視」。
まあ私もこの前テレビで見るまで知らなかったんですけどね。
それで嫌ぁなこと思い付いちゃったんで。
よかったら聞いてください。
大人になったら、ないかなあ。
夜中、鏡の前に立ったときに、ふと、
後ろに何かの気配を感じること。
まあ、子どものときはありますよね、誰でも。
振り返りたくても振り返れない。
かといって、鏡を見るのも怖い。
でも結局、身動き取れないもんで、
勇気出して見るわけですよ。
鏡の、ほら、隅あたりをね。
そんで、何もいないから、安心して、
寝室に向かうわけです。大抵は。
でもね。
それって、ちょっと違うかもしれないって。
思っちゃって。
こないだね。
それで、ああそう、「盲視」だ。
脳ミソの話になるんですけどね、
右手は左脳で、左手は右脳で処理してるって
聞いたことあるでしょう。
あれ、目でも同じでね。
右目は左脳で、左目は右脳で処理されているんだそうで。
はい。
それで何らかの理由で、
片方の脳、たとえば右脳の、物を見るとこら辺が、
オシャカになったとするじゃないですか。
すると、やっぱりその反対の、
左目が見えなくなる。
目自体は大丈夫でもね、やっぱ、見えなくなるんです。
そんでもって、こういった、
脳に障害を持った人たちの
ほら、ちょうど見えない側、
傷を負った反対側ね、
そこに物を置くんです。
たとえばボール。
もちろんボールは見えません。
見えないはずなんです。
でもね。