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リクエスト作品

独占

作者: 風白狼

 一途さは時に一種の恐ろしさを発揮する。彼女に出会って、僕はそれを思い知った。こうもおかしくなったのは、一体誰が原因なのだろうか――



 午前の授業が終わって昼休み。カバンから弁当を取りだしていると、一人の女子が僕の傍にやってきた。このクラスの級長で、整った目鼻立ちをしている。

「高橋くん、坂本先生が呼んでたよ。渡したい物があるから来てくれって」

 級長は事務的な声色でそう言った。坂本先生とは生物の授業を担当する理科教員だ。彼が渡そうという物に、僕は心当たりがあった。

「ありがとう」

「じゃ、伝えたから」

 級長はそれだけ言ってさっさと教室を出て行ってしまった。早足で歩いているところを見ると、彼女は彼女で他に用事があるのかもしれない。そんな予想を立てながら、僕は少しぼうっとしていた。

「けいいちー…」

 恨めしげな声にはっとし、僕は声の主を見やった。そこにいたのは一人の少女。生まれつきの茶髪はウェーブがかかり、小柄さも相まって小動物のように可愛らしい。けれど彼女は不機嫌な顔で僕を睨んでいた。

「あ、亜美……」

「ちょっと女の子に声かけられただけですぐでれでれしちゃって。ああいう人が好みなの?」

 彼女――亜美は僕のすぐ傍まで迫って問い詰めてくる。またか、と僕は思った。

「違うって」

「嘘。声かけられて嬉しそうだったじゃない」

「だから違う――」

「何なのあの級長。私の慶一に興味があるの? 美人だからって誘惑しようとしたのかな……」

 亜美は僕の話も聞かず、どんどん声のトーンを落とした。どこからかカッターナイフを取り出し、すっと教室から出て行こうとする。

「待て。いいから落ち着いてくれ」

 僕は彼女の腕を掴んでカッターを取り上げた。止められた彼女は恨めしげに僕を見上げる。

「あの女をかばうわけ?」

「そうじゃない。お前が凶器を取り出すと怖いんだって。冗談に見えなくて」

「だってあの女を殺っとかないと慶一が取られちゃう」

「そんなことはないから。頼むから怖いことしないでくれ」

 軽く頭を撫でると、亜美は渋々といった様子で思いとどまってくれた。

 いつもこうだ。僕が彼女以外の女子と話していると、亜美はその女子を危険分子として排除しようとしてしまう。今回のように向こうから話しかけてきたときに限らず、何かの用事があって僕の方から声をかけたときも、「その人に目移りしてしまうから」と言ってやはり同じ行動を取る。どうにも手に負えない。


「ほら、弁当を食べよう」

 話題を変えようと、僕は席について弁当の包みを開けた。亜美も持ってきた弁当を机に広げ、僕の膝の上に乗ってくる。

「亜美、それじゃ僕が食べられないだろう」

 頭分の身長差があるためそこまで邪魔でもないが、僕は一応の抗議をした。しかし、亜美は悪びれない。

「私が食べさせてあげるもん。ほら、あーん」

 そう言って、おかずの一つを掴んで僕に差し出した。僕は言われたとおり口を開き、中に料理を入れてもらう。噛んで飲み下すと、亜美は嬉しそうに微笑んでいた。これだけだったら普通の甲斐甲斐しい彼女なのに、と思ってしまう。

「仲いいなお前ら」

 呆れたような声がかかった。振り向くと、友達が僕ら二人を眺めていた。彼は呆れとうらやましさの混じった、複雑な表情をしている。その言葉を聞いた亜美は満足げな笑みを浮かべた。

「そう見える?」

 でへへという言葉が合いそうな、口元の緩んだ顔だった。そんな締まりない表情でも許せてしまうのは、元が可愛いからだろうか。その様子を見ていた友達はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべた。

「ひゅーっ、まったく羨ましいぜ」

「そうでもないよ」

 僕はすぐに否定した。少し他の女子と会話しただけで彼女の目つきが鋭くなるし、それをなだめるのも大変なのだ。もちろん、それを彼女の前で言ったりはしないが。

「なんだよ、いらないなら俺がもらっちゃうぞ?」

 友達はそんな風にからかってきた。と、一気に亜美の顔が強張った。彼女は相手を睨み付けながら僕に抱きつく。

「私と慶一を引き離す気?」

 亜美の声が冷たく冴え渡る。そこに込められた感情に気付いたのだろう、友達は口元を引きつらせて一歩後退った。

「じ、冗談だって、冗談」

 彼が弁明しても、亜美は表情を変えなかった。手にした箸を持ち替え、隙を見せたら投げつけそうな構えを取っている。僕はすぐさま箸を取り上げた。抗議される前に弁当のおかずを適当に掴み、彼女の口元に差し出す。

「はい、あーん」

 亜美はわずかに戸惑っていたが、すぐに満面の笑みになった。僕が差し出したおかずを食べ、これ以上ないくらい幸せそうな顔をする。それを見てから、友達にちらと目配せした。きょとんとしていた彼は僕の意図を汲みとり、そそくさとその場を去った。


 彼女が嫉妬や敵意を露わにするたび、もっと普通に行動してくれたら良かったのにと、僕は思ってしまう。先ほどのように、相手が女子でなくても僕と離れる原因になるものはやはり排除しようとするのだから。それだけ僕を好いているというのは嬉しいのだが、他の人と会話するときはさらに気を遣うことになる。どうしてこうなってしまったのだろうと、僕は軽くため息を吐いた。

 ふと、一人の女子に目がとまった。その子は籠に入った荷物を運んでおり、籠からパサリと布が落ちた。けれど女子はそれに気付くことなく行ってしまう。見ていたのは僕と亜美の二人だけ。隣に彼女がいる状態で、普段だったら僕の行動は決まっていた。

 けれど僕は、あえてその布を拾った。籠を抱えてよたよたする女子のそばまで行き、籠に落とし物を入れる。

「落としたよ」

「えっ!? あ、ありがとうございます」

 女子は驚いた顔で僕を見た。そして落とした布きれを見やってから、僕に頭を下げる。と、背後で殺気を感じた。振り返るまでもない。亜美だ。きっと彼女の鬼のような形相を見たのだろう、女子は短い悲鳴を上げて逃げていった。その後ろを、亜美が追いかけようとする。

 僕は彼女を追いかけて肩を掴んだ。彼女は不服そうに僕を見上げてくる。

「離して慶一。あいつが殺れない」

「殺るとか怖いこと言うなって」

「だってそうしないと慶一が――」

 彼女が皆まで言う前に、僕は彼女を抱きしめた。自分より小さな体が戸惑っているのを感じる。

「そんなことないから。僕は亜美だけが好きだよ」

 彼女の耳元にそっと呟いた。不機嫌だった亜美は、僕の背中に腕を回してくる。顔は見えないが、きっと嬉しそうな顔をしているのだろう。


 時々思うのだ。僕は彼女の歪んだ愛情が、僕だけに向いているか確かめたくなっているのではないか、と。

 高階珠璃さんからのリクエストで「ヤンデレの子が出てくる」でした。

ヤンデレキャラを書くのは初めてのような気がします。

ヤンデレと言えばもっと強烈な印象を与えてくるイメージがあるんですが、書いてみると全然ですね。

果たしてこれでいいんだろうか……

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